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風のごとく駆け抜けて

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「このハンバーグステーキの御飯セット。それから野菜サラダ。食後にクリームチーズケーキをお願いします」

せめてもの腹いせに、高い物を遠慮なく注文する。
姉の顔が一瞬「え?」となったが、そんなことは気にしない。

「聖香、お父さんと大喧嘩したんですってね」
お互いあらかた食べ終わった時に、姉が何気なく私に聞いて来た。

「まぁ喧嘩ってことになるのかな? てか、母さんから聞いたの?」
私の質問に姉が首を振る。

「お父さんにこの前電話した時に、直接聞いたのよ」
その一言に私は驚いた。
姉が父に電話をすると言うのが信じられなかった。

家にいた時はあんなにも喧嘩をしていたのに。
それに、父が私のことを姉に話すと言うのも想像がつかなかった。

「どうしたの。キツネにつままれたような顔をして」
姉に問われ、私は自分の率直な意見を姉に漏らす。

「あはは。私だっていつまでも反抗期じゃないのよ。20歳過ぎれば、丸くもなるわよ。それにお父さん、聖香のことで色々悩んでいたのよ」

姉が電話での会話を教えてくれる。

どうも父は、今までなんでも自分の言うことを聞いていた私が、あんなにも反抗したことに非常に驚いたらしい。

それと同時に、私がそこまで走りたかったと言うことに気付けなかった自分が恥ずかしいと思ったそうだ。

そして、なによりも私の将来を考えるあまり、今のことをしっかりと見ていなかったと言う事実が情けなかったと感じたようだ。

「聖香は私と違って、親に対しては大人しかったもんね」
「麻衣姉ちゃんの反面教師って感じもするけど?」
私が本音を口にすると姉は苦笑いをする。

「まぁ過去の出来事はどうであれ、方法がなんにせよ。聖香が自分の道を自分で切り開いたのが私は嬉しかったのよ。お父さんも似たようなことを言ってたわ」

ほほ笑む姉の表情は、今まで見たことが無いくらい優しい顔をしていた。

食事を終え、姉の部屋に帰り、お風呂に入る。
上がって寝ようとすると姉が毛布を私に手渡す。

「ごめね。ちょっとフローリング硬いかもしれないけど我慢して。絨毯がある所で寝れば少しは違うかも」

一瞬、姉が何を言っているか分からなかった。

「え? 麻衣姉ちゃん……。こう言う時って私がベッドに寝かせて貰えるんじゃないの? 仮にも私、お客様だよ」
「妹には常に厳しく。これが澤野家に伝わる家訓よ」

真面目腐った顔で姉が言いきる。
その後、盛大な姉妹喧嘩が起こったことは言うまでも無い。