風のごとく駆け抜けて
「麻衣姉ちゃん!」
半分は怒りを込めて姉を見る。
姉はちょっとだけ気まずそうにしていた。
そこにあったのは想像を絶する光景だった。
荷物を詰めた引っ越し業者のトラックが横転して荷物をぶちまけたとしても、ここまで酷いことにはならないだろう。
「今日、私はどこに寝ればいいのよ」
姉を睨みつけながら私は問いただす。
「片付ければ問題ないでしょ」
「じゃぁ、なんで私が来るのに片付けてないのよ」
「あぁ、そもそもが逆なのよね」
姉の一言に私は首を傾げる。
どう言うことだ?
「聖香が来るから片付けるんじゃなくて、片付けるために聖香を呼んだのよ」
開いた口が塞がらなかった。
姉が昔から片付けが苦手なのは知っている。
姉の性格もそれなりに分かっている。そ
れでも、これは予想外だった。
「信じられない。友達とか呼べばいいでしょ?」
「みんな忙しそうなんだもん。それに、聖香に用事があったのも事実よ」
姉がちょっと拗ねながら、ぶつぶつつぶやく。
もう怒る気も失せ、ため息しか出なかった。
仕方ない。今日の寝床を確保するためにも掃除をしよう。
姉の思惑通りに話が進んでるのが気に喰わないが。
まずは部屋の足場を確保することから始める。
パッと見て、部屋には三種類の物がある。
あきらかなゴミ。
いるかいらないか良く分からない物。
最後に洗濯物だ。
まずはこれらを分類しながらまとめて行く。
私は洗濯物をまとめることにした。
姉にはその間にあきらかなゴミを捨ててもらう。
靴下、ジャージ、スカート、ブラ。
靴下、Tシャツ、パンツ。
ジャージ、ブラ、Tシャツ。
いったい、何日洗濯していないのだろうか。脱いだら脱ぎっぱなしなのだろう。
「あ、服は洗濯済みと洗う前のものがあるのよね」
「そんなの分かるわけないじゃない! 全部もう一度洗ってよ!」
姉の一言に思わずキレてしまう。
洗濯物をすべてまとめ姉に渡す。
姉はさっそく洗濯機にそれらを持って行く。
その間に私は、いるかいらないか分からない物をまとめる。
最終判断は姉に任せるしかないが、なるべくなら捨てて欲しいと思った。
なぜならあきらかに収納できるスペースより、床に散乱している物の方が多いからだ。
まずは本をまとめる。
「これであなたも片付け上手」
「ここが肝心! 片付け術」
「知らないと損をする!? 片付け方法100選」
ダメだ。まったく役に立って無い。
むしろ、これらの本に憐れみすら感じる。
他にも大学の教科書が何冊も埋もれていた。
姉は授業をどうやって受けているのだろか?
「あぁ、それ全部1年生で使ったやつ」
疑問に思って姉に聞くとそう返答があった。
つまり2年間もほったらかしと言うことか。
他にもグルメガイド、料理本、週刊誌、漫画、小説。
ありとあらゆる種類の本が出て来た。
浅く広くいろんな種類の本を読んでいるのだろうか。
あらかた本のまとめも終わり、今度は細かい物の分類だ。
爪切り、綿棒、耳かき、ウエットティッシュなどが出て来る。
ため息をつきながら、部屋の反対側に移動して整理を再開する。
なぜかまた耳かきが出て来た。それも2本も。
姉に対し厳しく追及すると、探すのが面倒くさいので無いと思ったら、近所の100円ショップで買って来るのだと言われた。
もう怒りを通り越してあきれてしまう。
途中、昼食休憩を挟みながらも、どうにか夕方前には掃除が終わる。
おかしい。姉に会ったら熊本観光に連れて行ってもらおうと密かに考えていたのだが、観光どころか部屋から出ていない。
それでも頑張ったかいがあり、汚いドブ川から、アユやサワガニが見つかる綺麗な川へと復興することが出来た。
すぐにドブ川に戻らないことを祈りたい。
「ありがとうね。聖香がいて助かったわ。お礼に今日の晩御飯は私の奢りだから、なんでも食べて良いわよ」
姉が部屋を見渡し私の肩を叩く。
まだ17時と晩御飯には少しだけ早かったが、お腹も空いていたので、さっそく食事へと出かける。
しかし、私は軽い目まいがした。
姉と歩いて到着したのは、桂水市にも何店舗かあるファミリーレストランだったのだ。
と言うより、この前駅伝部のみんなで御飯を食べた店だ。
熊本に来て美味しい物が食べられると思っていたのに。
姉に期待した私がバカだった。
「さぁ、なんでも食べて良いわよ」
ワザとらしく明るい声を出しながら、姉は店内へと入って行く。
もうため息しか出ない。
いったい今日何度目のため息だ。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻