風のごとく駆け抜けて
大会2日目。
桂水高校からは紗耶が800mに出場するのみだ。
「第3レーン貴島さん、城華大付属。なお貴島さんは予選タイムトップであります」
紹介されると貴島由香は手を上げ一礼をする。
「「「ゆか〜〜!!!」」」
スタンドから城華大付属の部員が掛け声をかける。
貴島由香も両手を振って返事を返す。
「これは負けられないわね」
それを見て葵先輩が妙な闘志を燃やす。
つまり私達もやると言うことですね。
「第7レーン藤木さん、桂水」
「「「さや〜〜!!」」」
私達も城華大付属に負けじと声を出す。
が……、言われた本人が一番予想外だったのだろう。
ものすごく恥ずかしそうに、こっちに手を振っていた。
「紗耶、ものすごく照れてるかな」
晴美がそれを見て笑う。
800m決勝がスタートし、セパレートからオープンへと変わった所で8人が団子状態になる。紗耶は6番手に付けていた。
意外だったのは予選トップのタイムを出した貴島由香が最後尾にいることだ。
8人全員が団子状態のままでレースが進んでいく。
誰もぺースを上げようとしない。完全に牽制し合っていた。
トラックを1周し400m走った所で場内アナウンスが流れる。
「この1周は71秒。71秒であります」
「ええ? 自分が昨日3000mを走った時の400m通過より遅いし」
タイムを聞いて紘子が渋い顔をする。
確かに800mにしては相当遅いペースだ。
現に私が昨年の秋に800mを走った時は64秒で通過した。
「まぁ、優勝候補が勝ちに徹して後方待機をしていたらこうなるだろうな。お前らよく見とけよ。こう言うレースは、どこでレースを動かすかがポイントだからな」
永野先生が言うことはもっともだ。
これだけ遅いと下手に動くことが出来なくなる。
こう言う場合、ラストスパート勝負になることは間違いない。
それに備えて、体力を温存してた方が良いだろう。
8人の集団のまま、ラスト200mまで来る。
紗耶はこの時点で5位につけていた。
貴島由香が8位で200mを通過すると同時に、前へと出始める。
他の選手とは圧倒的にスピードが違った。
50mの間に7人全員を抜き去ると、あっと言う間にトップへ出る。
抜かれた他の選手が貴島由香を追いかけるようにして、壮絶なスパート合戦が始まる。
ラスト100mを切った時点で、貴島由香以外の7人が壮絶に入り乱れながら必死に走る。
その中で紗耶は頑張っていた。
5位から4位へと順位を上げ、腕を懸命に振る。
相当きついのだろう。若干顎をあげて、少しでも酸素を取り込もうとしていた。
「紗耶ラスト!」
「藤木さんファイトです」
「紗耶頑張って!」
少しでも紗耶の力になればと大声を張り上げる。
貴島由香がトップでゴールした3秒後、紗耶は4位でゴールした。
「おかえり紗耶。すごいわね。4位なんて」
「いやぁ、レース展開に救われましたよぉ。最初からハイペースで行っていたら最下位間違いなかったです」
レースを終え帰って来た紗耶は、葵先輩の一言に謙遜する。
でも紗耶には確かにスピードがある。
練習でも200mや400mを走る時などは、私のすぐ後ろを付いて来る。
3000mだと部内5番手だが、短いスピードだと麻子や葵先輩よりも速い。
なにより、昨年の高校選手権3000mでは、ラスト200mで前を行く久美子先輩との差を一気に縮めてみせた。
中学ではずっと1500mを走っていた紗耶だが、案外800mと言う種目が合っているのかもしれない。
作品名:風のごとく駆け抜けて 作家名:毛利 耶麻