火付け役は誰だ!(九番以降)
何とか生きてマンションの部屋に着くことが出来た。
「なんで彦はそんなに戦う前からボロボロなの?」
「なんでだろうな…」
そんなことを言う穂子は薄く笑っている。
今の発言はまた言ったら容赦しないぞ、という意思表示らしい。
無論、命は一つしかない、大事にしなくては。
「じゃ、まぁ行くか。」
「勝ったら夕飯はご馳走だーッ!」
「お前が決めるな。」
「ステーキすき焼きちゃんこ鍋♪」
「夏に食べるものではないのが混ざってたぞ、それも複数。」
体重を気にするもなにも、ちゃんこ鍋は明らかに女子としてのボーダーラインを越えてしまっている。
「…その会話は戦いに来る雰囲気じゃないように私には見えるんだけど、星彦クン?」
気がついたら呼び出した張本人である人物が。
無論覆水媛佳だ。
星彦クンなんて呼ぶ雰囲気ではないみたいだが、覆水の顔には笑顔。
「武者震いでもしてたほうがお望みだったか?」
「臆病過ぎて膝が笑ってるの間違いじゃないの?」
ひどい言われようだ、流石に俺もそこまで臆病ではない。
ただ、言い返された覆水の笑みは深くなった。
何か良くない気がする、俺の危機センサーがレッドゾーンまで振り切れている。
場の雰囲気がガラリと切り替わった気がした。
相手は同じ学校に通う女子生徒、というだけではない。
それ以前にこのバトルロワイヤルの敵でもあるのだ。
「今のは戦闘開始って事なのか?」
「そうなるかもね。」
そう返事を聞いた瞬間俺は動いていた。
どこにかと言われれば覆水の玄関に、具体的にはそこにあった傘立てに。
あった傘を掴み止め金を外す、覆水が消火器を出すよりも少し早く。
後は簡単。
ワンタッチで傘を開き、覆水の消火器による噴射を受け止める。
「な…」
「同じやられ方は流石にしない、覆水は消火器を使うのが安定行動だからそれが分かってるならチャッカマンは使わない。」
一応チャッカマンは持ってきているとはいえそれは覆水の目を誤魔化すため。
点けても消されるなら点けはしない。
穂子には策がないと言われたが流石に対抗方法位は俺も考えてある。
「穂子!覆水は俺が抑える、その隙に部屋に何か燃えやすいものが無いか探せ!」
虚を突かれていた穂子も我にかえって覆水の部屋に飛び込んでいく。
今の言葉の意味は明白、俺も穂子もこのバトルロワイヤルでは人を倒すほどの意義を見出だせていない。
ならば勝つ方法は一つ、根拠地の破壊だ。
「幸いお前の部屋はマンション四階!最上階かつ端に位置してるから他の学生に迷惑はかからない!これは俺に運があったみたいだな!」
「…それはどうかなッ…」
傘で壁際まで追い詰められた覆水は苦しげな声で呟く。
しかしこれはどう見ても負け惜しみ、此方が有
「瑞。」
この一言で全部戦況という名のちゃぶ台がひっくり返された。
中に入っていったはずの穂子がこちらに飛ばされてきたのだ。
慌てて傘から手を離してキャッチ。
お姫様抱っこのような格好になってしまったがこの際構ってなどいられない。
「彦ナイスキャッチ!」
「姫様お褒めの言葉ありがとう、…何があった?」
ちょうど穂子がそれに答える前に正面の玄関から水の塊が飛んできた。
「うわっと!」
「彦気を付けて!それ痛くはないけど相当はね飛ばされるんだよ!」
穂子が飛ばされてきたのはそのせいか、こんな非常識な事が起こるのは普通ならあり得ないがあいにくと今は普通ではない。
直前に覆水が言っていた事を考えて覆水のパートナーである瑞が待ち伏せしていたのだろう。
「…彦、どうする?」
「無論計画通り、逃げるぞ。」
明らかに手持ちの案では敵いそうにない、幸い覆水の消火器は範囲が中距離、逃げられないことはないだろう。
瑞の攻撃に至っては逃げる事に利用することも可能だ。
と、思っていたのだが
「無論簡単に逃がす訳ないでしょ!」
後ろから楽しそうな悪魔の声が。
物凄く嫌な予感をさせながら、顔を引きつらせて穂子と後ろを見ると
≡≡火付け役は誰だ!≡≡
作品名:火付け役は誰だ!(九番以降) 作家名:瀬間野信平