火付け役は誰だ!(九番以降)
「…ここ、だな。」
呼び出された場所は…学校の寮。
とはいえ俺の部屋があるところではない。
俺の部屋があるのがアパートならここはマンション、悔しいがお金では少なくとも覆水に勝つことは出来なさそうだ。
「あれ、ここ彦の学校の寮だよ?そこのプレートに書いてある。」
「あぁ、そうみたいだけど…デカイ高い広い。」
「なんだか彦との格の差を感じるんだよ。」
「せめて庶民派と言え。」
「じゃあ王侯貴族と生産階級。絶対王政辺りの。」
「…よし、じゃあ身分差解消を訴えるためにお前も一週間ハンストでもするか?」
「ご飯が無ければお煎餅を食べれば良いと思うんだ!」
「紅茶と偽って濁った雑草ティー(発酵済)を飲みたくなければ黙っておこうか。」
「濁りは旨み!?」
「そりゃ日本茶だ。無発酵。」
他愛のない会話をしながらも足は動く。
書かれている部屋番号をインターフォンに入力すると無言でマンションへの扉が開かれた。
「そういえばだけど彦、何かしら用意してこなくて良かったの?戦いなのに。」
「何かあったら逃走すれば大丈夫だろう、前に覆水は逃げてたけど負けって判断されてないみたいだしな。」
「要は行き当たりばったり戦法だよね…無策とも言う気がするけど、まぁ、負けの条件はあるからね。」
「負けの条件?そういうものがあるなら先に言えって…」
「忘れてたんだよすっかり!負けの条件っていうのはね、バディか妖精どちらかの戦闘不能、本拠地の壊滅!」
「………戦闘不能なら、前回向こうの妖精死にかけてなかったか?」
ドアを開けたら覆水と瑞に鉢合わせた時、つまりは前日、瑞は覆水から大量の消火器粉末を浴びせかけられていた気がする。
「………あれが日常的に行われてたら戦闘不能に含まれてないのかも。」
顔を見合わせて苦笑い。
中々過激なバディを持ってお気の毒様といったところか。
「…だからまぁ彦が私にご飯を食べさせてくれないと負けになるんだよ?」
まだあの会話を引きずっているようだ、わざとらしい上目遣いで飯を要求してくるが心をさほど鬼にせず言い放つ。
「働きもしないのに食うべからず、況んや服などをや。」
穂子を指差す。
穂子が家を出る前に着替えていた服は先ほどねだられて買い与えたかの服だ。
よっぽど気に入ったのか先ほどから妙に上機嫌なのはそのせいなのだろうか、汚れるからしまっておけと言ったのだが。
ただそう言った本人としては複雑だが、服が物凄く穂子に似合っていたのは確かだ。
認めるのは何故だか分からないが凄く癪だけども。
「服については仕方がないよ!いつまでもフリーサイズの無地の服を着ていたくはないよ!こちとら年頃のオンナノコですよ?」
「何年サバ読んでるんだよ…」
「人生経験甘いも辛いも食べ分けたと言ってもらえるかな!」
「多少食べ過ぎのようだからダイエット兼ねてブルジョアジーにハンストだ。俺はしないが。」
無表情になった穂子におもいっきり足にかかと落とし、激痛に悶絶。
だが俺は間違えたことは言ってない、実際穂子はオンナノコとかいうレベルでなく年をとっ…痛ァアッ!!!
「そこじゃないけど?私が怒ってるのは?」
あ、体重?体重の方でした?
その事を確認するより前に足の甲に鎮座している踵を退けてくだされば幸いです。
流石にもう一回かかと落としをされてしまうと私めの足の骨は折れてしまうと考察する次第なのですが。
「…まぁ体重の事気にしてるのは分かったから、そんなに増えてるようには見えないけどな。」
そっぽを向かれてしまった。
ただ踵にはまだ体重が掛けられているが、さっきよりは軽くなっている。
女心となんとやら、秋の天気は愚か、天気の予想がことごとく外れる自分にそれ以上に分からないとされる女心が分かるはずがない。
「やっぱり太るほど私食べてないよね?」
「いやファミレスのハシゴ回りはどう考えても体重を減らしはしないだろ。」
踵に体重が掛かる。
折れる、このままでは。
「ま、まぁそんなはっきり増えてはいないだろ、絶対!」
「そ、そうだよね!私大丈夫太ってない太ってない。ドリンクバーとパフェは三店で食べたけど!」
「おいまてそれは初耳だ。」
自らの足に迫る危険を考えて必死に取り繕ったが、何とかなったようだ話が逸れた。
だがしかし再度踏まれないようにするためにはもう少しだめ押しをしなくてはいけないかもしれない。
「たとえ増えてても普通の女子と比べて絶対に軽いだろうしな、特に上半身は重いとはあまり言えな」
ここで背後からただならぬ殺気を感じて口を閉じた。
明らかに今の発言で言ってはならない地雷を踏み抜いた気がする、例えば体型だとか。
そう考えた直後、俺の頭に回転して勢いをつけた穂子の、爪先による回し蹴りが突き刺さった。
…バトルロワイヤルは武闘派ということは聞いていましたが身をもって分かりました、本当にありがとうございました。
≡≡火付け役は誰だ!≡≡
作品名:火付け役は誰だ!(九番以降) 作家名:瀬間野信平