火付け役は誰だ!(九番以降)
「待つ、のも暇よねー」
「…こう言い出したのは媛佳、愚痴を言う権利はどちらかと言えば私の方。」
追う側であるはずのバディと妖精は二人とも暇そうに部屋とは反対側の角、階段近くのテラスに肘をついていた。
追われる側の二人が一階下でバタバタギャーギャーしているのはどうやら聞こえていないらしい。
または聞こえていても努めて無視しようとしているのか。
「…こんな暇してて勝てるのか不安。」
「私もよ、だけど相手が来ないんだから待たないとね。」
防火ブザーで退路を強制的に絶ったものの、逆に言ってしまえば覆水や瑞の進路も限定した事になる。
わざと相手にこちらへの進路であるエレベーターに何も手出しをしてないのはそのためだ。
進路を1つだけにしておけば退路が無い以上獲物はそこしか通れない。
しかしハンター側である覆水、瑞コンビも獲物が通らないとそれまで暇なのだ。
「エレベーターは通路の真ん中が出口、来た瞬間にやっちゃってね瑞!」
「…なんで自分の部屋の方の角から迎え撃たないのかなと気になるけど。」
「だって瑞の攻撃、水集めるとき周りびしょ濡れになるから部屋とか玄関周り濡れてほしくないの!私は別に濡れても大丈夫だし気にしてないし。」
「…しょげてる?…もしかして濡れても変に凹凸もとい突拍子も何もない自分の体にしょげて」
「えい。」
妙に無表情になった覆水媛佳の手から正確に瑞に向かって目潰しが繰り出された。
目を抑えて無言で転げ回る瑞に、更に蹴りで追撃を加える覆水。
その様子は無駄が何一つなかった。
人には何かしら触れてはいけない地雷があるものだ、況んやそれを踏み抜いた結果が覆水のようなあまりに一方的な蹂躙である。
「瑞、下らないこと言ってる暇があったらさっさと戦って余計な脂肪を燃やしてから出直してきなさい!特に胸!」
「…媛佳、人に八つ当たりは良くない、大丈夫身長も何もかもサイズが小さくても需要は」
「やぁ。」
次の瞬間には瑞は地面に倒れてピクピクしていた。
目潰しを警戒して顔をガードした瑞を覆水がすかさず足払い、文句無いダメージ。
「瑞ー因みに本場ならここでヒップドロップか八の字固めがあるんだけどどっちがいい?」
「…何の本場かすら分からない格闘技どうもありがとう媛佳、もういらない。」
「なら今後一切私の体型については何も言わない、言ったら次はジャイアントスイング決めちゃうわよ。」
「…このマンションの狭い出口でジャイアントスイングは確実に紐無しバンジーになりそうだね、それはすぐには起き上がれなさそう。」
逆に今までアマチュアにしてはキレがありすぎる攻撃を受けても平然としている瑞がおかしいとも言える、やはり妖精は今の物理現象に鑑みて語ってはいけない。
「なら良いわね、じゃあさっきまでしてた作成の確認するから!」
「…分かった(…小声で言えばバレないかもしれない)」
「まず考えるのは普通に正面から来た場合ね、それなら…」
「…うんうん(…聞こえてないみたい、さっき言い損ねた事言っても大丈夫そう)」
「二つ目にエレベーター以外の場所から無理して来た場合は…」
「…ふんふん(…私はそんなに大きくないけど媛佳のは対象範囲がマニアックなレベル。…まさにまな板、キングオブまな板。)」
「さて、こんなところかしらね、ちゃんと聞いてた?」
「…うんうん(…まだ相手の妖精の方がまし…まさにまな板…)」
「じゃあ大丈夫ね!ところで瑞、1つ質問なんだけど、」
「…うん?」
「誰がまな板だって?」
「まな板てどんなところでそんな言葉学んできたのかしらねまったく。次は容赦しないから。」
無表情に自分の体を見ながらため息をつく覆水の後ろには物言わぬ瑞がぼろぼろになって倒れていた。
この世には言ってはいけない事が多々存在する。
≡≡火付け役は誰だ!≡≡
作品名:火付け役は誰だ!(九番以降) 作家名:瀬間野信平