火付け役は誰だ！（九番以降）
「良いか？この作戦はあのデカイボンベの強度が問題なんだ。」
「多分私の操れる温度じゃ太刀打ち出来ない位の防火加工されてるよ…」
俺が言った作戦とは実に単純明解。
各部屋の外に、ここのマンションは都市ガスのボンベ、灰色のかなり大きいものがおいてあるのだ。
これに引火させて爆発させれば覆水の部屋は大空に舞っていくであろう。
だからなんとかして引火させる為にガスを空気中に放出させなければいけないのだが。
「…うーん、やっぱりあのボンベの外装が頑丈すぎるな。」
ボンベの外側が案の定頑丈なのだ。
無傷のままただバカ正直にチャッカマンをカチカチしても溶けるどころか焦げすらつかないだろう。
かといって俺はムキムキの空手ボーイではないので一撃であの外装に穴を空けられる訳がない。
穂子ならあるいは…とも思ったがそれを言うのと引き換えに頭に回し蹴りかかかと落としが飛んでくるのは分かりきっていることだ。
それに問題はまだまだある。
「ガスを気化させ」かつ「遠距離から火を点ける」、そうしなければ至近距離にいる火付け役も大火傷は免れない。
更に「ガスを気化させ」「遠距離から火を点け」それを「覆水、瑞に邪魔されずに完遂しなくては」ならない。
はっきり言って難易度は最上級をはるかに越えている。
「ねぇねぇ彦、これ出来るのかなぁ？」
「いや、出来なきゃ俺達が目に見える外傷を負って服ずぶ濡れのままゴーホームだぞ。」
「そ、それは確かに嫌だよ…流石に私もせっかくの彦に買ってもらった服を汚されて黙ってもいられないからね」
「ん？何か言ったか？服？」
「ううん、何でもない！」
何かゴニョゴニョ顔を赤くしながら言っていた気もしたが今はそれを構ってもいられない。
「それにしてもあの妖精の瑞、厄介な能力だな。」
水を三十センチ大の球にして相手に飛ばす、そして触れた相手を遠くに吹き飛ばす。
ただそれだけだがこれは今のような陣取りゲームの時には最良の能力とも言える。
陣に近づく者を弾き返し、大きく吹き飛ばせば良いのだから…
ここで何かが引っ掛かった。
「穂子、あの妖精の能力ってどんな感じに吹き飛ばしてくるんだ？」
「え？うーん、似てるのはお風呂の所にあるジェットバスかなぁ。」
「ジェットバス？」
「ほら、銭湯とかによくあるぼこぼこ空気が吹き出してるみたいなやつ！もともとは水流でツボを刺激するローマから伝わる由緒正しきお風呂の一つだよ！」
ほう、そんなに歴史あるものなのか、今度銭湯で試してみよう。
…いや、そうじゃなくて。
「感触は柔らかかったのか？」
「いや、固かったよー逆らえない圧力が詰まってたよ、流れるプールを逆走するみたいな圧力が。それで、あの妖精の技のどこが彦は気になるの？」
「いやいや、気になるんじゃないさ。それ以上だ。」
「どういう意味？」
「あの技一発ボンベに当てれば簡単に穴は空く。」
如何に外装が固かろうと物質にはどこかに綻びがあるものだ。
例えば固すぎる物は熱に弱かったり低温に弱かったりする。
それは今回も同じ。
温度に耐久性があるものは案外単純な『圧力』に弱い。
そう、燃えにくいアルミニウムがいとも簡単に折り曲げられるように。
大きな圧力で水を押し出しているあの球を当てられれば大きなとは言わずとも風穴は開く。
思わぬ所から突破口が開けた。
後はこれを実行するだけ、
が、しかし
「…穂子はどっちやる？『囮役』と『本命』」
「じゃあ『義理』で！」
「いや、『本命』と『義理』ってお前どこのチョコレート会社の回しもんだ。」
「じゃあ『観客』！」
「…入場料ぼったくるぞ。」
「仕方がない！『天下の宝刀』とか『最終兵器』で！」
「壊れて動きませんみたいなオチが安易に予測出来るものを挙げるな！というか『天下の宝刀』って抜かないこと前提だったろあれは！」
「もう彦のワガママー…じゃあ彦はどっちをやるのー！」
「俺？俺は『監督』で。」
…………………。
「…どっちもやる気ないんだね？」
「言うに及ばず。」
どうやら作戦決行にはまだ掛かりそうだった。
≡≡火付け役は誰だ！≡≡
作品名：火付け役は誰だ！（九番以降） 作家名：瀬間野信平