火付け役は誰だ!(九番以降)
△十一番、火付け役は誰だ、上▼
マンションとは不便なものだ。
そんなお金持ちではないから高校生である今まで住んだことは無かったが、一旦逃げる立場となると動きにくいものだ。
逃げにくい理由は今俺と穂子の目の前に凝縮されている。
「………階段、全部封鎖されてるけど彦がやったわけじゃないよね?」
「俺が動かせるサイズの扉だと思うか?」
目の前に広がるのは防火扉。
ただの通常の防火扉なら人力で動かせる物のはずだが流石に学校の寮のマンションである。
セキュリティに相当のお金をかけたらしい、特に防火に。
その結果、人力でも動かせるドアが一度閉まってから再度金庫の蓋のような大きな金属板が填まる仕掛けになったらしい、自動で。
ここをまた通ることが出来るようにするためにはクレーン車の鉄球でもぶつけなければ無理だろう、その過程で階段もろとも崩壊するが。
「それじゃ火事の時、自分の階からの移動が出来ないだろうに…本末転倒だろ、この防火システム。」
「いや、そうでもないみたい。さっきあのちっこいバディの部屋ベランダに階段があったよ。多分各部屋に非常階段があるんだと思う。それと私達が下った階段の所に小包が置いてあったんだけど、多分あれ梯子型の非常階段だよ!」
「そこに居たなら下に降りられてたのか!」
つまりは今の状況を整理しよう。
今俺と穂子はこのマンションの三階、フロアに閉じ込められている。
先程まで後ろから追われている状況だったため、エレベーターを待っている余裕などなく、階段を使って一つ下、つまり三階までは降りてきたのだが、そこでちょうどけたたましい音を鳴らし火災報知器が作動したのだ。
直後、スプリンクラーと防火扉が作動、階段にはもう戻れない状態が出来上がってしまった。
「防火扉も腹が立つけど、スプリンクラーも腹が立つよね!ずぶ濡れだよこっちは!火の妖精への嫌がらせかーッ!………ところでさっきから彦は妙に私を見ようとしないけどどうしたの?」
「………なんでもないから聞くな。」
火口君はデキル高校生なのです、ここでうっかり『透け透けになりかけてますよ』とか口走ったりしたならばそれこそ頭部にクレーン車の鉄球の様な一撃をいただいてしまう。
多分、裸を見られる羞恥よりも体型に対するコンプレックスで怒られる。
つまりは見てそれに関して言ったら最後、言い訳など聞かれないで最期を迎えることになるだろう。
お口に固く固くチャック、上から接着剤とセメント。
「もしもーし、ひーこー?聞いてるー?」
「大丈夫、今セメントの上にアスファルト敷いたところだから。」
「何の上に何を敷いたの!?一体彦は今の十秒足らずでどこの建築工事をしてたの!?」
つい無意識であらぬことを口走ってしまった、危ない危ない。
先ほどから何かお菓子のようなものを取り出してモゴモゴしている穂子に向き直る。
「ともかく、まずはここ逃げ出さないと!彦の言った通り勝ち目が無いよ!」
「確かに、それにはまず下に降りないとな。」
二人で顔を見合わせた後、遠い地面を見てみる。
うん、これはちょっと落ちたらお肉が見えるかな。
「………少なくとも飛び降りは禁止で。」
「………うん、どちらが一人か悪ければ両方犠牲になるね。」
案外高かった。
穂子の手にあるお菓子が今一つ落ちたが、無論バラバラになっている。
「さて、どうしようか彦。ここでバディとしての格が問われるよ?」
「即断即決で逃亡を選択した辺りで既にバディとしての威厳だだ下がりのような気もするが。」
達観している顔の穂子には言いづらいのではあるが一応策が無いことはない。
穂子の手にあるお菓子と、このマンションの各階各部屋に設置してある、あるものを使えばの話だ。
来る途中に考え付いた馬鹿げた考えではあるのだが、勝ち目があるのはこの方法だ。
「実は策がないことも無いんだ。」
「え?今なんて?ここから逃げる方法なんてあるの?」
「違う、ここから勝つ方法だ。下手に逃げようにも今は逃げられない。」
「でも下に着いたら逃げられるんじゃ…」
「いや、どうやらこのマンション、防火システムが作動したなら正面扉には避難できないようになってるんだ。」
おそらく正面扉は消防車等の消火用に避難経路に組み込んでいないようにしているのだろう。
避難してきた住人と消火する消防士の間で混乱が起きるのを防ぐためなのだろう、おそらく別の出口がある。
「無論、そんな非常口は住人でない俺達が知ってる訳もない。なら逃げるよりは勝つ方が方法がある分簡単だろうな。…ところでさっき、穂子はこのゲームの敗北条件を何て言った?」
「えーっと、バディ又は妖精の戦闘不能か、」
「本拠地の破壊だよな。」
さて、言おう。
穂子が今持っているお菓子はバターピーナッツ。
そして各階に設置してある物は都市ガスのボンベ。
…おやおやこれは?
≡≡火付け役は誰だ!≡≡
作品名:火付け役は誰だ!(九番以降) 作家名:瀬間野信平