*レイニードロップ*
*レイニードロップ*
妖精は、当たり前だけれど本物の妖精なんかじゃなかった。
妖精は、青いレインコートを纏った少女だった。小学校の、三、四年生くらいといったところか。レインコートの青色が、鮮やかに目に映える。
雨が降りしきる中、まるでそれを気にする事なく、跳ねるように踊っている。それも心から楽しそうに。
右へひらり、左へひらり。レインコートと同じ色の長靴で、水溜りから水溜りへとステップを踏むたび、ぴちゃりぽちゃりと飛沫が上がる。
ぱぁ、と響いたクラクションの音に、慌てて振り返る。自分が車道へ踏み出したところに立ちつくしていたことに気付き、慌てて一歩退く。いかにも邪魔そうに、荒い運転のトラックが僕の前を通り過ぎていく。
それで一瞬我に返った僕だけれど、すぐにまた、視線は雨の中で踊る少女に引き寄せられていた。
少女のステップが奏でるリズムは、まるで雨と戯れるかのようだった。降りしきる雨粒が地面を打つ音に、少女のステップがシンクロする。次第に次第に、むしろ少女のステップに合わせて雨粒がリズムを取っているのではないかと、錯覚してゆく。そんなこと、あるわけがないのに。
少女のステップが、より早くなる。雨脚も、合わせて早くなる。
無意識に、僕はいつも持ち歩いているデジカメを取り出し、構えていた。
撮りたい、と思った。純粋な欲求。
デジカメの液晶に、少女の姿が映る。
見計らったように、ステップが止まる。まるで溜めを作るみたいに膝を曲げて――
跳んだ。
世界が止まったのかと、錯覚した。雨の音も、聞こえない。全てが止まった中心で、少女が宙に浮かんでいた。
跳ねた弾みに外れたフードの端から流れる、栗色の髪。
レンズの向こうで少女が振り返る。
シャッターを切る。
カシャリ。
作品名:*レイニードロップ* 作家名:古寺 真