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*レイニードロップ*

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 *


 部室の外から聞こえてくる騒々しさに、僕は起こされた。
 スイはまだ寝ていたけれど、部長もほとんど一緒に目を覚ましたらしく、隠そうともせずに大欠伸をする。
「なんだろうね、乃木崎くん。やけに騒がしいよ」
 部室の時計を見上げる。六時を回ったところ。起きるに早すぎる時間ではないが、まだ朝の静けさがあってもいいだろう。
「なん、でしょうね」
 僕もいささかの不安を抱き、体を起こす。
 外は相変わらずの大雨だ。昨夜から降り止んでいないらしい。いや、相変わらずじゃない。昨日よりもよっぽど強くなっている。
「乃木崎くん。ちょっと、見てきてくれよ」
「分かりました。スイちゃんのこと、見ててくださいね」
「承ったー」
 またも大きく口を開けて欠伸をしていたのを見ると少し心配だけれど、こんな朝から何が起こるでもないだろう。寝袋から抜け出し、僕は廊下に向かう。
 どうも、校舎のあちこちで慌ただしく人が動いているようだった。中庭を挟んだ向こう側の校舎でも、恐らく昨晩学校に泊まったのだろう生徒たちが右へ左へ浮き足立っているのが目に映る。
 まだ状況は掴み損ねていたけれど、何か大変なことが起きてるらしいことは察し付いた。
 急ぐ足で階段へ向かう角を曲がろうとしたところで、丁度先生と鉢ち合わせる。
「おお、えっと、写真部の。丁度いい。今そっちに行こうと思ってたんだ。昨日、学校に泊まったんだろ?」
「あ、はい。一応、顧問に申請はしていたんですが……何か、まずかったですか?」
「いや、それはいいんだが、ちょっと連絡があってな」
「連絡、ですか?」
 ああ、と先生は深刻げに答える。
「実は雨のせいで、裏の川が増水していてな。決壊の恐れがあるんだと。それで、校舎にいる生徒に避難するように指示していたところなんだ」
「……避難?」
「そうだ。確か、写真部は二人で泊まってたよな? 早めに学校を出た方がいい。家は近いのか? あまり川に近いとどっちにしても変わらんかもしれんが、とりあえず一回帰って、親御さん方と相談した方がいい。この雨がいつ止むか分からん限りこの一帯は危険だ」
 矢継ぎ早に告げられる言葉に、僕は呆然と立ち尽くす。決壊。避難。危険。単語単語がじわりじわりと実感を伴い襲いかかる。
「変な雨なんだよなぁ。昨日の内に移動してたはずの雨雲が一晩経ってもこの辺に停滞し続けてるせいで、余計に増水してるらしい。全く、どうなってんだか知らんが、このままじゃあ、文化祭も中止だろうな。決壊するしないに関わらず、この雨が続くようなら危険過ぎる」
 文化祭が、中止になる。一瞬置いて、それは僕にとってはむしろ喜ぶべきことなのではと思い至るけれど、僕はショックを覚えていた。どうして、何に? ハッとして呆れる。僕は、やっぱり文化祭を楽しみにしていたんじゃないか。だから、こうして中止になるかもしれないと聞いて、ショックを受けている。
「ま、そういうことだから、お前らも早めに避難しろよ。俺ら――先生たちも、校内に生徒がいなくなり次第避難するつもりだから」
 言うだけ言い残し、先生はさっさと踵を返し、慌ただしく去っていく。
 さて――僕はどうすればいいんだろう。スイのことは、どうすればいいんだろう。
 答えは出ず、部室へ戻る足は重かった。
作品名:*レイニードロップ* 作家名:古寺 真