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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 5 砂漠と草原の王

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2章 王様と暗殺者



 アレクシス達がアストゥラビに滞在して三日目。
 激しい腹痛と共に目覚めたアムルは、側近に命じて寝室にアレクシスとエドを呼んだ。 二人がベッドの脇に来ると、土気色をした顔に玉のような大粒の汗を書きながらアムルがアレクシスの手を取った。
「これまでは・・・なんとかなってきたが、今回の毒はどうやら相性が悪かったらしい。これはいよいよマズいことになってきた。」
「何をバカな。君が死ぬなんてことあるわけがないだろ。気をしっかり持て、アムル。」「すまぬな、アレクシス。リシエール決戦の折にはお前の力になるために馳せ参じようと思っていたのだが、どうやらそれもできないようだ。」
「やめてよアムル。せっかくまた会えたのに死んじゃ嫌だよ。」
「そうわがままを言うな、エーデルガルド。人の死と言うものはいずれ誰にでも平等に訪れるどうしようもない物だ。」
 そう言ってアムルはアレクシスの手を離してエドの頭の上に自分の手を乗せた。
「大切な人との別れ際になって後悔せぬように、自分の気持ちに素直になって、懸命に生きろ。」
「うん・・・。」
 涙を浮かべて頷くエドを見て、アムルは力なく「はっはっは」と笑った。
「うむ、良い子だ。・・・アレクシスよ、我にはまだ子供もおらぬし、他に王位を継げるものもおらぬ。我が死ねばこの国は内乱状態になる。そうなれば、バルタザールに取り入り力を借りるためにお主らに害をなそうとするものも出てくるだろう。そうなる前に早々にこの国を立ち去れ。どうせ葬儀などただの感傷だ、そんなものに出たために万が一にでもお主らに害が及ぶのは忍びない。」
「・・・ああ。すまないアムル。僕らが役に立たなかったばかりに。」
「なに、気にするな。では・・・頑張れよ、アレクシス。」
 アムルはそう言うと、がっくりをベッドに身を預け、目を閉じた。荒く、苦しそうな呼吸をして、表情は険しく、時折うめき声がまじる。
「アムル・・・。」
「行こうエド。」
「でも、アムルはまだ生きてるんだよ!クロエにカーラさんを連れてきてもらえばもしかしたら・・・」
「クロエの魔法も万能じゃない。それよりもアムルの言った通り、この国が内戦になる前に早く出るんだ。」
「アレクの薄情者!ちょ・・・・離してよ!アムルが・・・」
 泣き叫ぶエドの腕を掴んでアレクシスは強引にアムルの寝室から彼女を連れだした。
 部屋から廊下に出た所で、アレクシスは水桶を持った小柄で地味な顔立ちのメイドとぶつかった。
 その拍子に水桶から水が少し跳ねてアレクシスの服を濡らした。
「あ・・・も、申し訳ございません。」
「いや、気にしなくていい。早くアムルの汗を拭いてやってくれ。あれでは安らかに逝く事もできないだろう。」
「あの・・・王様のお加減はそんなに・・・?いままでは毒を盛られても・・・」
「・・・ああ、世話をするのに聞いていないのか。昨日の食事に盛られた毒はアムルに耐性が備わってないものだったらしい。医師の見立てでは持って今日一日ということだと聞いた。あんなに苦しむなら、いっそ毒なんか盛らずに一思いに殺してやったほうがどれだけアムルの為になるか。くそ・・・自分の手を汚さずに殺そうなどと卑怯な・・・犯人がわかれば僕がたたき斬ってやるのに。」
「・・・・・・。」
 メイドの少女はアレクシスの表情に萎縮したのか、青い顔をして黙って震えている。
「すまない、怖がらせてしまったか?・・・そうだ、少ないがこれを取っておいてくれ。」
 そう言って、アレクシスは自分の懐から何枚かの金貨を取り出してメイドに握らせた。
「アムルの世話をしっかり頼むぞ。」
「あの・・・あなたは一体。」
「僕はアレクシス。アムルとは古くからの友人だ。では頼んだぞ、えっと・・・」
「あ・・・ミセリアと申します。」
「そうか、ではミセリア、アムルの事をよろしく頼む。ほら、エド。クロエ達を連れてグランボルカに戻るぞ。」
 アレクシスはそう言ってエドの手を引くと廊下を歩いて去っていった。
「あの人が・・・グランボルカの。」
 少しだけ何かを迷ったような表情をしたが、ミセリアはすぐに水桶を持ってアムルの寝室に入った。
 ミセリアが寝室に入ると、アムルは荒い呼吸をして苦しそうな表情で目を閉じてベッドに横たわっていた。すぐにミセリアはベッドの傍らに水桶を置くと、アムルにかかっていた毛布を外した。
 毛布の下には、汗だくのアムルの裸身があった。アムルは顔にかいていたのと同じような大粒の汗を全身にかいており、アレクシスが言っていたように、これでは安らかに逝く事などできなさそうである。
 ミセリアは水桶からタオルを取り出すと、固く絞った後でアムルの全身の汗を拭っていった。
 ひと通り吹き終わり、アムルの表情が少しだけ安らかなものに変わったのを見届けると、ミセリアは水桶を持って部屋を出るためにドアへと向かう。と、突然ミセリアの足がドアの前で止まった。
(一思いに殺してやったほうが)
 先ほどアレクシスが呟いた言葉がミセリアの頭のなかで何度も響く。
 数秒考えた後、ミセリアは水桶を置いてベッドサイドへと歩いていった。
「ごめんなさい・・・。」
 彼女は一言そうつぶやくと、エプロンドレスのスカートをたくしあげ、太ももにベルトで括りつけてあったナイフを取り出して、切っ先をアムルの左胸、心臓の位置に合わせた。
「ごめんなさい王様・・・でも、こうしないと・・・。」
「誰かに、身内を人質にでも取られているのか?」
「ひっ・・・。」
 アムルはおもむろに目を開くと、手のひらが切れるのも構わずに左手でナイフの刃を握り、上半身を起こして右手をミセリアの腰へ回して自分の方へと抱き寄せた。
「やっと会えたな。見えない暗殺者よ。」
「どうして!王様は重篤なんじゃ・・・。」
「はっはっは。そういうことにして、アレクシスとエーデルガルドには芝居に付き合ってもらったのだ。前々からお主の気配は感じてが、どこから見張っていても姿を見ることができなかったのでな。恐らく魔法を封じれば大丈夫だろうと思い、あえてこの部屋に入ってきてもらったのだよ。はっはっは、お主をはじめ、我の臣下は恥ずかしがりの者が多いから姿を見るだけで苦労をするわい。」
「・・・。」
 臣下と言った。
 たった今心臓に刃を振り下ろそうとした相手をこの王は臣下と言った。
「・・・臣下なんかじゃ、ないです。・・・ごめんなさい。ごめんなさいアムル様。」
 自分は一体何をしていたのだろうか。
 ミセリアは掴んでいたナイフを離して膝から崩れ落ち、そのままポロポロと大粒の涙を流して泣きだした。
「はっはっは、泣いて謝るくらいなら事情を話してみよ。創作の役に立ちそうな話ならば、我の命を狙ったことくらい水に流してくれるぞ。」
 そう言ってベッドから起き上がると、アムルはミセリアの手を引いて自分の隣に座らせた。
「さあ、話せ。」
「実は・・・。」
 アムルに促されてミセリアはぽつりぽつりと話始めた。