グランボルカ戦記 5 砂漠と草原の王
「嘘だな。」
アムルの部屋に呼ばれ、ミセリアの事情を聞かされたレオは開口一番そう言ってミセリアの話を切って捨てた。
「姉が人質に取られて命を狙ったなんて話は都合良すぎる。王様が女に甘いのを見越しての二重の罠の可能性もある。」
「恐れながら私もレオに賛成です。ミセリアを使ってアムル様をおびき出す作戦の可能性があると思います。」
クロエもレオに賛成である旨を告げるが、対してソフィアは反対をする。
「私は信じてもいいと思います。ミセリアちゃん、嘘をついているようには見えないし。」
「わたしは少し慎重になったほうがいいと思う。ミセリア自身が騙されている可能性もあるしね。なので、一応反対。」
「ふむ・・・エーデルガルドは反対か。反対3に賛成1。アレクシスはどう思う?」
「僕はミセリアを信じてもいいと思う。でもエドと同じように慎重になったほうがいいとも思うね。少なくともアムルは出ていくべきではない。信頼出来る人間に情報を伝えて処理するべきだと思う。」
「賛成が弱いか・・・ふむ・・・。」
「そんな・・・じゃあ、お姉ちゃんは・・・。」
ポロポロと涙をこぼすミセリアの頭の上に手を置いて、その手をアムルが優しく手を動かす。
「アムル様・・・?」
突然頭をなでられて驚いたようにアムルを見るミセリアに優しく微笑んでからアムルが口を開いた。
「不安にさせてすまんな、賛成か反対かなどとまどろっこしい事を聞くべきではなかった。ミセリアの姉の救出。我とお主らならば事を大きくせずに始末できると思うがどうか。」
「そりゃ・・・できるだろうけど。ミセリアを全面的に信用するってことか?根拠は?」「レオよ。人の涙の真贋も見極められぬで何が指導者か、王か。我の心は最初にミセリアが涙を見せた時に決まっておる。」
「はあ・・・ただ女性に甘いだけって感じがしないでもないんだけど。アムルらしくていいんじゃないかな。アムルがやるっていうなら、わたしは協力する。みんなは?」
そう言ってエドが立ち上がり右手を差し出して全員の顔を見回した。
「わたしは王様のそういうところ好きだなあ。」
続いてソフィアがエドの手の上に自分の手を重ねる。
「つーか、やるって選択肢しかないなら、最初からそう言えっての。」
「そもそもアレクシス様はアムル様を置いて自分でやるつもりだったみたいだし、なんとなくこうなる気はしてたのよね・・・。」
「う・・なんか遠まわしに僕も女性に甘いって言われている気がする。」
そう言ってレオとクロエ、アレクシスが手を重ねた。
「はっはっは。我は良い仲間を持ったな。・・ほれ、ミセリアお主も手を重ねぬか。」
「え・・・でも・・・私は・・・。」
「反乱の種となりそうな事件の情報をもたらしてくれたお主を牢につないだりはせぬよ。」
「で、でも私は毒を盛ったんですよ?」
「はっはっは。毒と言っても腹を下した程度だぞ、大事の前の小事。ちょっとしたデトックスだ。」
「・・だからそんなのアンタだけだって言ってんだろうが・・・。」
豪快に笑うアムルを見て呟いたレオの言葉に、アムルを除いた全員が頷いた。
作品名:グランボルカ戦記 5 砂漠と草原の王 作家名:七ケ島 鏡一