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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 5 砂漠と草原の王

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 アムルの側近がいつの間にか持ってきては置いていく酒の肴をつまみながらの宴はかなりの盛り上がりを見せ、日付も変わろうかという時間まで続いた。姿の見えない側近から、普通の兵士に警備が交代になって、そろそろお開きかという空気が流れたところで、アムルが「思い出した。」と声を上げた。
「我としたことが、楽しい酒で本題の頼み事を忘れるところだった。」
「ああ、そういえばそんなこと言っていたよね。アレクに何か頼みたいことがあるとか。なんとか。」
「そうだ。実はな、我は命を狙われておるのだ。」
「普通だな。」
「普通ですね。」
「え、普通なの?」
 アレクシスとクロエの反応に驚いてエドが聞き返す。
「普通よ。アストゥラビはグランボルカみたいに内戦状態ではなく比較的安定した国とは言え、国土が広すぎるもの。地方領主の中には、国王を快く思わない人間もいるでしょうし、王の暗殺を皮切りに内戦に持ち込んで自分が実権を握ろうという考えの奴だっているでしょうから。アレクシス様は比較的国民や、味方の諸侯に人気が高いからあまりそういうことはないけれど、エドやリュリュ様は逆恨みみたいな動機で命を狙われているでしょう?そういう意味じゃ別に珍しいことじゃないのよ。」
「なるほど、たしかにそうかも・・・。」
「とはいえ、僕らに何を頼もうっていうんだい?まさかずっと警護をしろっていうんじゃないだろうね。」
「いや、一人だけどうしても捕まえられない暗殺者がいてな。直接命を狙ってくるようなことはないのだが、我の食事に毒を仕込むのだ。まあ、我は毒に対する耐性もあるから別に死にはしないのだが、毒を仕込まれるたびに腹を壊して仕事が遅れるのはさすがにいただけんのだ。」
「でも、お腹をこわす程度の毒なら放っておいてもいいんじゃない?毒見の人もいるんだし・・・」
「いや、我は誰かの食べ残しを食べさせられるようなことはごめんだから毒見は置かんのだ。それに仕込まれるのは常人には即効性のある毒だからな。耐性のある我は食べてもなんとでもなるが、身体の弱い毒見役なんぞに毒見などさせていたら、毒見役が何人いても足らん。」
「即効性って、どんな毒なんだ?」
 レオの質問に、アムルは顎に手をあてて少し考えると、最近食事に仕込まれた毒を思い出して口にした。
「そうじゃのう・・・ストリキニーネやヒスオチン。最近ではアーモンドを使ったケーキに青酸カリが入っていたこともあったな。」
「体強いとか弱いとかじゃねえよ!普通死ぬわ!」
「はっはっは。そうだろうな。」
「いえ、そうだろうな。ではなくて・・・はぁ。では私達はその暗殺者を捕まえればよろしいんですね?」
「クロエは話が早くて助かる。・・・頼めるかアレクシス。黒幕がわからぬ上、どんなに見張っていても毒が仕込まれてしまって困っておるのだ。おそらくはレオやクロエのような能力者だと思うのだが、あいにく我の配下にはこの手の能力に強い者がおらんのだ。」
「そうだね・・・ここで万が一アムルに死なれでもして、内戦状態になったアストゥラビがこちらに仕掛けてくるようなことになれば、リシエール攻略にも支障が出るし。いいだろう、引き受けよう。」
「素直にアムルが心配だって言えばいいのに。なんでそう素直じゃないの?」
 持って回った言い回しをするアレクシスを横目で見て、エドがそう言って笑った。
「ぼ、僕は別にアムルが心配だなんて言ってないだろう。あくまで国の・・・。」
「そうだよねえ、お友達に頼まれたからって、国が大変なときに総大将が個人的に用事を頼まれるわけにいかないもんね。」
 ソフィアの言ったその一言を聞いて、エドは感心したように声を上げながらポンと手を叩いた。
「ああ、そういうことか。じゃあ、私もアムルなんか全然心配じゃないけど、国益のために暗殺者を捕まえるよ。」
「はっはっは、全然心配じゃないなどと言われつつも本当は心配されるというのは、こう・・・なんとも言えなく胸の奥がこそばゆいような、心地良いような・・・。」
 アムルの言葉に、ソフィアがすぐに同意する声を上げる。
「あー、何かわかります。でも、そういうのってどっちかっていうと、エドよりもクロエちゃんのほうがしっくりきますけど。」
「ちょっとソフィア、それどういう意味よ。」
「クロちゃんが素直じゃねえってことだろ。もう少し素直になったほうが鈍い相手の男もわかってくれるって話だ。」
「な・・・。」
「ま、その話はいいや。で、俺達はどうすればいいんだ?」
 顔を赤くして言葉に詰まったクロエを放っておいて、レオが話をすすめる。
「ふむ、そうだな。クロエとソフィアにはメイドとして、我の身の回りの世話をしてもらいながら。レオは・・・そうじゃのう、庭師としてでも働いてもらって調査をしてもらうかな。」
「わたしは?わたしもメイドやろうか?」
 ウキウキと自分を指さして尋ねるエドに、アムルは苦笑いを浮かべて首を振った。
「エーデルガルドとアレクシスは国賓だからな。そういうわけにもいくまい。」
「えー・・・私達も何かしたいよ。ねえ、アレク。」
「確かに、みんなを働かせておいて僕らだけ何もしないというのも・・・。」
「ですが、アレクシス様に雑用のような事・・・」
 不満を口にする二人に進言しようとしたクロエの言葉を遮って、代わりにソフィアが口を開く。
「でも、二人は、最後の砦なんだよ?もしもわたしやクロエちゃんが捕まえそこねて、レオくんがヤケを起こした暗殺者の人にやられちゃったときには二人が王様を守らなきゃいけないんだから。重要な役回りだと思うな。それにちょっと格好良い役だよね。」
「・・・そういう風に言われたら、確かにちょっと格好良いかも。」
 ソフィアに言われて、エドがその気になる。その様子を見たソフィアは満足気に頷くと、今度はアレクシスに話を振った。
「そうでしょ。アレクシス君はどうかな?」
「確かに、ソフィアの言うとおりヤケを起こした暗殺者が、毒殺を諦めて力づくになる可能性はあるな。」
「じゃあ決まりだね。わたしとクロエちゃんがメイドをしながら犯人を探して、見つけたらレオくんに協力をしてもらって捕まえる。万が一暗殺者が王様を直接狙ったら、エドとアレクシスくんが捕まえる。ね?」
 そう言ってソフィアは、ポンと手を合わせて笑う。
「ところでソフィア。お前、実はまださり気なく俺の事怒ってるだろ。」
「え?なにが?」
「いや・・・いいや。」
 ソフィアのした例え話の中で、一人だけやられていたレオはそう言ってため息をついて肩を落とした。