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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 5 砂漠と草原の王

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「ねえ、レオ。ソフィア本当に行っちゃったけどどうするの?」
 夕食の後、割り当てられた自室のソファでゴロゴロしながら目を閉じていたレオは詰問するような口調のエドを一度だけ目を開いて一瞥すると、すぐに再び目を閉じた。
「どうもこうもないだろ。あいつのあれがあてつけだっていうのはわかってんだから、ほっとくよ。」
「レオにとってソフィアってその程度の存在だったの?」
「じゃあなんだよ。俺が正面切ってあいつを助けに行けばいいってのか?そんなことしてみろ、それこそグランボルカかセロトニアとこの国の国際問題になっちまうだろうが。」
「そりゃ・・・いや、でもアムルだってちゃんと話せばわかってくれるって。」
「あいつは俺より強いんだから大丈夫だろ。ていうかあいつがどうにもできないなら、まともにいっても俺には手も足もでないっての。」
「じゃあ、もし当てつけじゃなかったらどうするの?本気でソフィアがレオに愛想つかしちゃったんだったら?」
「・・・・・・。」
「大体なんでさっきクロエの話を否定しなかったの?あれじゃさすがにソフィアがかわいそうだよ。クロエもあんなこと言うなんてひどすぎる。」
「・・・クロちゃんは俺とソフィアの関係を知らないんだからしかたないだろ。」
「は?」
「話してない。隠すつもりはなかったけど、なんとなく話しそびれた。」
 レオの言葉を聞いて、エドが眉をしかめる。
「・・・レオさあ、もしかして本当に二股かけてたりする?」
「いや、そんなことねえけど。・・・でもまあ、クロちゃんはクロちゃんで色々あんだよ。アリスさんあたりだったら、今の俺の役どころをさらっとアレクに頼んで、エドにもちゃんとフォローするんだろうけど、あの子はそれができないからな。かと言って、俺がそれをしたって、浮気の言い訳にしか聞こえないだろうしさ。」
「クロエの色々って何?」
「い、色々は色々だって。とにかく、この話は終わり。」
「レオ。もう一回だけ聞くよ。ソフィアのこと、本当にいいんだね?アムルには私やアレクが掛けあってもいいんだよ。」
「・・・・・・いい。もう寝るから出ていってくれ。」
「そう。ならもう勝手にしなよ。」
 

 ソフィアが部屋のドアを軽くノックすると、短い返事の後で、部屋に入るように促すアムルの声が聞こえた。
「ソ、ソフィーティア参りました。」
「うむ。来たか。」
 ソフィアが室内に入ると、アムルはすでに上半身裸の姿でベッドに腰を下ろしていた。
「あ・・・あのう・・・。」
「何をしておる、早くこっちへ参れ。」
 アムルはそう言って、自分の座っているすぐ横をポンポンと軽く叩いた。
 ソフィアは催促されるままアムルの隣へ腰掛けると、本当の事情を話そうとアムルの方へ顔を向けた。
「はい・・・あの・・・」
「すまんな、最近いそがしくてこちらのほうは久方ぶりなのだ。早速だが、楽しませてもらうぞ。」
 アムルはそう言ってソフィアをベッドに押し倒すと、ソフィアのブラウスのボタンを上から3つめまで外して覆いかぶさるようにして体を寄せてきた。
「あ、あの。話をきいてくださ・・・い!」
 ソフィアは肉体強化の魔法でアムルを押し返そうとするが、なぜか魔法がうまく使えず、アムルの体はびくともしない。
「なんじゃ、自ら誘いをかけるようなことをしておいて嫌がる素振りを見せるとは・・・ああ。そういうことか、なるほど。我はそういう趣向も嫌いではないぞ。我も物書きの端くれ。シチュエーションというものがいかに大事かということは心得ておるつもりじゃからな。ふむ、非力な者が必死に抵抗を試みる姿というのは中々に加虐心をくすぐるものじゃな。良いぞ良いぞ。」
「な、なんで?なんで魔法が使えないの?」
「はっはっは。腐っても王の閨ぞ。魔法避けの仕掛けの一つや二つ施してあるに決まっているだろう。さあ、もう趣向は終わりかソフィア。終わりならそろそろ・・・」
 そう言ってアムルはソフィアの身体に再び覆いかぶさり、首筋に顔を近づけていく。
「やっぱり・・・嫌だよぉ・・・助けて・・・レオくん・・・。」
 アムルがソフィアの首筋を吸おうとしたとき、ソフィアの口から嗚咽とともに漏れた名前を聞いてアムルの動きが止まった。
「今、レオと申したな。奴はクロエの相手であろう。お主はレオに横恋慕しているのか?」
「ち・・・違います。それはクロエちゃんのほうで・・・別にクロエちゃんはレオくんとそういう関係じゃなくて・・・。」
「ぷ・・・・く・・・はっはっは。すまんすまん。実はすべて解っていたんだが、少し悪ふざけをしてしまった。だがソフィア、お主も悪いのだぞ。我をあてつけに利用しようなどと考えおってからに。」
「うう・・・すみませんでした。でもひどいです。本当にその・・・されちゃうんじゃないかって思って。すごく不安になったじゃないですか。」
「はっはっは。もちろん本当にするつもりだったぞ。あのままお主が変な意地をはりつづけていたらな。」
「・・・・・・。」
 アムルの言葉を聞いて身をこわばらせるソフィアを見てアムルが昼間と同じ少年のような笑顔で笑った。
「はっはっは。そう警戒するな。我は寂しい女を慰めるのは好きだが、他人に気持ちが向いている女はあまり好かん。昼間のお主は寂しさで気持ちが揺れておったが、今のお主はその揺れがなくなった。今ここで我がお主を無理やり手篭めにしたところでお互いに良い結果にならんことはわかっておる。」
 ベッドから立ち上がったアムルは、ガウンを羽織って部屋の隅の戸棚からワインを取り出すと、グラスを持ってきてソファへと腰掛けた。
「ほれ、何があったのか話をきいてやるからこっちへ来るがよい。もちろん、我にできる事なら協力もしてやる。」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。本当だ。ただしお主とレオのこと、根掘り葉掘り聞かせてもらうぞ。これは我にとって創作活動のための取材もかねているのだからな。」
 アムルはそう言いながらワインをグラスに注ぐと、向かいのソファに座ったソフィアに渡した。
(とはいえ、わからんのはクロエの気持ちだな。レオのことを紹介した時のクロエの心は確かにレオに向いておったんだがなあ・・・)
 アムルがソフィアの話を聞きながら考えを巡らせていると、天井から一枚の紙が落ちてきた。
『なにやら殺気立ったエーデルガルド、アレクシス両名がこちらに向かっておりますが、いかが致しましょうか。それとレオンハルトも部屋から消えております。』
「ああ、よいよい、捨ておけ。ドアの鍵も開けたままでよいぞ。」
 紙に書かれたメモを読んだアムルはそう答えると、メモを丸めてくずかごへ投げた。
 そして、天井の気配はアムルの返事の後、すぐに部屋の中から消えた。
「・・・もしかして、アレクシス君たちの監視ですか?」
「うむ。気を悪くしたか?」
「いえ。当然の事だと思います。同盟関係ではあっても、よその国ですし。」
「・・・・・」
「・・・えと、何ですか?」
「いや、お主はセロトニア武器商会のルチアの娘だろう?どうにもルチアから聞いていたのと違い、落ち着きがあると思ってな。ルチアはお主のことを落ち着きがなくて、何をやっても失敗すると言っていたのだが。」