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七ケ島 鏡一
七ケ島 鏡一
novelistID. 44756
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グランボルカ戦記 5 砂漠と草原の王

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 ふと、偽アムルはミセリアの姿が見えないことに気がつく。
「だったらこちらは貴方を人質に取るだけです。」
 ミセリアはいつの間にか身体を深く沈み込ませて偽アムルの足元へと迫っており、そのまま飛び上がるようにしてナイフを偽アムルの顔めがけて振り上げる。
「ひっ・・・」
 慌てて上半身を逸らして回避を試みるがミセリアのナイフは偽アムルの鼻をかすめた。
 ナイフは間違いなく鼻先をかすめただけだが、回避運動の後、後ろに足を着いた時に偽アムルの視界が揺れた。
「・・・?」
「ちょっと浅かったですか。」
「何しやが・・・」
 偽アムルが言い終わらないうちにミセリアとヴォーチェが連続で攻撃を仕掛け、偽アムルはなんとかそれを凌いでいくが、防戦に回っているうちに徐々に視界の揺れは大きくなっていき、ついに立っていられなくなって膝をついた。
「毒ですよ。王様には全然効きませんでしたけど、普通の人には辛いでしょう。」
「ど・・・く・・・。」
 動いていないにもかかわらず襲ってくる視界の揺れに偽アムルの三半規管が悲鳴をあげ、たまらず嘔吐するが、そんなことをしている間にも揺れは大きくなる。
「もう貴方は戦うことはできません、さっさとこの変な幻術を解いて下さい。」
「へ・・・いやなこった。そろそろ増援だって現れるはずなんだからな。」
 偽アムルはそう言って強がっていたが、増援は現れず、しばらくして三半規管が限界を迎え、彼が吐瀉物の上に倒れこんで気絶したところで幻術は解けた。
「はっはっは。見事なコンビプレイぞ。だが二人共、その程度の輩に苦戦するようでは、まだまだだぞ。」
 アムルの声にミセリアが振り返ると、アムルが岩の上に腰掛けて手を叩きながらニコニコと笑っていた。
「アムル様、ご無事でしたか。」
「ああ、こちらは何事もなかったからな。」
 アムルの言うとおり、あたりには何もなかった。倒れている敵もいなければ、アムルが傷を負っている様子もない。
「でも敵はアムル様を人質に取ったって・・・。」
「はっはっは、敵のいう事をあっさり信じるとは、ミセリアは素直だな。大方、ミセリアとヴォーチェを騙すためのハッタリだろう。さて、ではミセリアが番人を倒してくれたことだし、我々は我々の分のタリスマンを壊すとするか。」
 そう言って立ち上がると、アムルは小屋の方へと歩いていった。
「あ、待って下さい。」
 そう言ってアムルの後を追って走りだそうとしたミセリアは何かに足を取られて思い切り転んだ。
「いたた・・・なにこれ。・・・剣?」
 それは奇妙な形で地面に埋まっている剣の刀身だった。
 地面を境に縦に割ったように剣の半身が地面に埋まっており、もう半身がまるでそういうデザインの剣であるかのように地面から生えているのだ。一体誰が何のために埋めたのか、まったくわからない埋まり方だった。
(もしかしたら、誰かが隠した特別な物とか・・・。)
 ミセリアはそんなことを考えて期待を込めて剣を観察したが、よく見るとそれは城の兵士達が普段から腰に帯びている支給品の剣であった。
 ミセリアががっかりして立ち上がると、遠くから彼女を呼ぶアムルの声が聞こえた。
「あ、只今参ります!」
 ミセリアが去った後、偽アムルの身体は地面にゆっくりと沈み込み、その場からこつ然と姿を消した。