机ノ上ノ空ノ日記 1
20130604
肌寒い灰色の正午。
カフェのテーブルで昼食を待つ私の前に、白い大皿が運ばれてきた。
外苑西通りの雨は止んでいる。瞼の中に滑らかな光の粒が入った。
弱々しい光は、しかし曇天の下いっぱいに拡がって、雨粒の敷かれたアスファルトの上に反射した。
灰色の光の粒は、人々の暗い影を、ひと時の間だけ抹消することを許された。
浮世絵みたいに平べったい光は、湿度を伴っていよいよその両生類の如き性質を顕にする。
私はそんなぬらめく光に似た大皿のクリームパスタを頬張る。
チキンクリームは、白くのっぺりとした光みたいにゆっくりと私の肚に収まった。
隣の席にいる六人のご婦人たちは、優雅な会話らしきものを互い違いに振りかざし、そんなものでお互いの耳を撫で合っている。
そんなご婦人たちにも、灰色の光は降り注ぎ、影は薄く引き延ばされていた。
今は影を纏わないように見える六人のご婦人たちにも、濃く潰れた影は潜んでいるのだろうか…。
ほんの少しだけ胸やけに似た感覚を覚えながら、私は紙のナプキンで口元を拭った。
紙のナプキンには、何故か鹿のつがいのマークが入っていた。
ゆっくりと席を立ち、レジに向かうと九百円を支払う。
ここの店員たちは、何時来ても私の目を見ようとしない。
ぼんやりと外に出た。
ゆっくりと雨が降ってきた。
灰色の光は、灰色の雨粒になって、今度こそ容赦なく私を打ち据えた。
作品名:机ノ上ノ空ノ日記 1 作家名:机零四