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机ノ上ノ空ノ日記 1

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201311150213

今日、私の手元に新しいカメラがやってくる。
正確には、私がカメラのほうに出向いて手に入れる訳なのだが。

渋谷のカメラ屋にAM10:00に行けば、それはある。

そのカメラは、おそらく私にとって特別な存在だ。

SONYというメーカーのカメラで、名前はαという。

私の幼少期、私の父親はSONYのβというビデオデッキを使用していた。
VHSが主流になったビデオデッキで、マイナー指向の父親はその事をよく私に自慢していたものだ。
その時から、何か不思議な印象を覚えはじめた。

SONYというメーカーには、何かしら特殊な感覚を覚えるのだ。今でも変わらずそうなのだ。
それはNIKONやCANONとは違う、例の違和感なのだ。

きっと明日手にするカメラと関係があるのだと勝手に私は考えている。

写真との関係は、結局のところずっと続いていた。そしてきっとこれからもそうだろう。
そんな私は新しいカメラを手にするに当たって、新しいタイトルの写真集を編み出そうと考えている。

昨夜は湯船に浸かりながら、その事を考えた。ドッペルゲンガー氏も一緒に考えてくれたが、最終的に「過去形」というタイトルに落ち着きそうだ。

ドッペル氏は、人格憑依と不老不死の関係性などという意味の分からない論文を私に読み聞かせたが、何の事かさっぱり分からなかった。きっとSFの類いだろう。

あと8時間もしないうちに、αは私の新しい道具となる。
今年の年末に実家へ帰ったら、年老いた親父にこのカメラを見せて自慢してやろう。きっと喜ぶぞ。

4日前くらいから急に冬になった外気は、今日もヒリヒリとした寒さを部屋にもたらしている。
私は久しぶりにワクワクとした気持ちで寝台に寝転んで、羽毛布団にくるまった。

ふとクリスマスイブに、サンタ役の親父が私の枕元にプレゼントをそっと置いてくれたことを思い出した。そのプレゼントはグリーンハウスというタイトルの緑色のゲームウォッチだ。

2013年現在、私には私の家庭は無いけれど。

寒い季節は淋しい自分に気づかせてくれる。そして、生きている意味をその都度問いかけてくる。
また私は暗箱と何枚かの硝子が組み合わされたレンズの影に隠れてそれをやり過ごすだろう。

朝が待ち遠しい夜も悪くない。そう思って眠るのは本当に久しぶりだ!

年を取ることに抵抗は無いけれど、知らぬ間に心が動かなくなっていくことには抵抗がある。
しかし、それは確実に進行していく悪い病のようにいつのまにか体と精神を支配しているのだ。

生きている意味ってなんなのだろう。
私のすべき事ってなんなのだろう。

なんだかまた目が冴えてしまいそうな気がしたが、その心配は無用だった。
結局午前3:00を待たずに、電池の切れたおもちゃのような私は、意識を失って眠った。

私は覚えている。

生まれて来て初めて眠りを意識し、夢に誘われた時の恐怖心。
意識が失われることが怖かった。
二度と目覚められないのではないかという恐怖。
またお別れをしなければいけないのかもしれないという恐怖心。
せっかくやってきたのに、また…。

そんな記憶。

でも今は、もちろん眠りに恐怖はない。

死も…ひょっとするとそんなことなのかもしれない。

分からない恐怖。
死とは、つまり人間にとって永遠に分からない領域であるからこそ怖いのだ。

中学生の頃、そんなことを考えて震えていたことがあったかもしれない。

そういえば、生まれてくる前と死んだ後はある意味似ていると気づいたのも中学生の頃だったか。
そこまでは答えを出せたが、結局生まれてくる前のことも私には分からないのだ。
その領域は、怖くもつらくも無かったような気がした。何せ、その領域の記憶は全く無いのだから。

「…質量保存の法則とリーンカーネーションについて論じてみようか」

ドッペルゲンガー氏が得意げに呟いたが、意識を失った私には、既に聞こえていなかった。

作品名:机ノ上ノ空ノ日記 1 作家名:机零四