机ノ上ノ空ノ日記 1
20130908
四大の精霊がバランスを損ね、世界に災いを呼び起こした。
四つのクリスタルを持った戦士達が、世界の危機に立ち上がった。
昔遊んだファイナルファンタジーというゲームのプロローグだ。
2013年9月現在、ファンタジー上の話ではなく日本は実際に四大の精霊のバランスが崩れ、災いが起こっている。
13歳の僕よ。未来は君が想像しているよりも劇的な方向に進んでいるようだ。
まずは「土」。大地の精霊が荒れ狂い、地球規模の震災に見舞われた。2011年3月のことだ。
その後「水」。大海嘯が押し寄せて大勢の人達が亡くなった。これも2011年3月。
そして2013年の9月現在。
関東では「風」の精霊が荒れ狂い、竜巻によって家屋がなぎ倒され、甚大な被害が出ている…。
9月現在…未だ、発現していない精霊は炎。
最後に待っているのは「火」なのか。
恐ろしい。四大の力は、お互いに牽制し合い円環を成すが故に「火」のみが発現しないことは考えにくい。
大昔のシャーマン達なら、明らかに現代の日本列島を襲っているのは「災い」と断定するだろう。
1と3の文字列に何かが宿っている可能性がある。
2031年や2016年...2019年や2013年…。そして、1月、3月、6月、9月、12月。
用心に越した事は無い。
人間の業による現象なのか。全く分からないが、動物達にはこのような天災を察知したり、感知したりする能力があるそうだ。
しかし、実は人間にもその力があるのだという。
現在より遡る事90年…関東大震災の時の内閣は政変があり、不在だった。
阪神大震災の時。政変があり、政権与党は自民党ではなく、社会党だった。
そして、東日本大震災の際。政変があり、政権与党は自民党ではなく、民主党だった。
地脈の働きで、政変は起きるのだとか。だから、次に政権与党が自民党から変わったら、注意が必要であると「湯の精霊に憑依された自分」が語っていた。
何にせよ、最近の日本を取り巻く状況は芳しくない。
13歳の僕よ、信じられないだろうが、2013年の日本は放射能に汚染されている。
「ベクレル」などどいう単位が、一般的になっているのだ。
核戦争の脅威は、今のところ少ないが、それ以外の方向から大きな危機が向かって来ている。
人の業によって、日本の土と水は汚染されつつある。
私たち現代の大人達は、自分のことでいっぱいいっぱいだ。一日生きる事に追われ、思考することが難しい。
未来は君が思うような方向には向かっていない。
そして、将来の年老いた私よ。
そこはどうなっている?
少しは明るい出来事が起きているのか?
オセロの白を黒に変えるようにして時間が越えられるのなら、私たち連鎖する無数の時間を伴った同一個たる存在に、その時代ごとの情報をリンクさせられることだろう。
2013年の私は、今後の未来の私に呼び掛ける。
私は情報の共有を呼びかける。
僅かでも未来の情報を過去にリークしてくれ。
今日ここにその意を表するものである。
201309052341 机零四
…私はキーボードを叩きここまでの文章を入力・保存した。
そしてMacBook Proの脇に置いてあったコーラのボトルを取った。
もちろんトクホというジャンルのものだったが、それは私の乾きを癒すに十分なものだった。
炭酸の刺激でぼんやりとしていた頭がスッキリしたその刹那…。
私の部屋の中に、突如一陣の風が吹いた。
そして、不意に声らしきものを感じた。
…思い出して欲しい…
何かが私に語りかけてきた。それは何時もの湯の触媒の声と似ていた。
…そう…君のことだ…
思い出す?
その瞬間、私自身の過去が私の脳裏にほとばしった。
それはひっくり返された大きなおもちゃ箱のように、様々な記憶の断片をバラバラとまき散らした。
まだ小学校にあがる前…あれは夏の日の事だ。
私は恐怖で泣いている。
家のキッチンにあったジューサーが、大きなモーター音を響かせながら動いていた。
私はそのモーター音に底知れぬ恐怖を感じ、大声で泣いていたのだ。
なぜ、モーター音に恐怖心を感じたのかと言われても、ただ恐ろしいから…としか言えない。
同じくらいの年齢の子供は皆そういうものだと思っていたが、妹はそんな経験はなかったそうだ。
サイレンの音も、私は駄目だった。
昼になると、正午を告げるサイレンがなっていたが、その都度私は大声で泣いていたという。
それも、モーター音と同じ感覚だ。
恐怖心がかき立てられたのだ。
その事を小学生になってから親に指摘され、祖父には戦争で亡くなった人の生まれ変わりなのではないかと冗談まじりに言われたことがあった。
その時の情景が一瞬浮かんだ。
次は大学生の時。たまたま彫刻の特別講座で東京の目黒駅を訪れたときの事。
何か、おかしな感覚(それは上手く説明するのが難しいのだが、率直に何かおかしな感覚…まさに違和感と呼べる感覚)を覚えた。
無論、その頃は東京に住む事になるなんて、全く想像できなかった。
そして、東京のごみごみした人の群れに嫌悪感を抱いていた。早く北海道に戻りたかった。
しかしその5年後、私は上京することとなり、下目黒に住む事になった。
もちろん最寄り駅は目黒。
その時になって、私は5年前に感じた違和感の正体に初めて気づいたのだ。
私の感じた違和感。
それは将来この場所に私が関わり、いずれまた訪れることになるということを暗示していたのだ。
目黒駅前の今は無きウエンディーズでチキンマッシュルームバーガーをほおばりながら目を丸くしている自分自身が見えた。
……
今度はまた小学生の頃のイメージだ。
テレビを見ている。
NHKの放送で、黒竜江省という言葉を、なんどもアナウンサーが繰り返している。
中国残留日本人孤児の事を伝えているようだ。
私は、それを何とも不思議な表情で眺めていた。
…無数に沸いてくる思い出。
悲しい思い出…高校時代、いじめられていた自分。孤独な学校祭の夜が見えた。私は独りでクラスメイト達が集まって談笑しているのを見ていた。
楽しい思い出…大学時代、初めて信頼できる仲間に出会えた事。
北海道の国道を皆でドライブした。広大な原野を走る四車線のアスファルト。
綺麗な青空に、真っ白い羊のような雲がポツンポツンと浮かんでいた。
青いジープが自分の愛車だった。
…また、場面が切り替わった。
今度は中学2年の秋だ。
ある映画に心を打たれて、それまで漠然と好きだった絵画に本腰で取り組み、美術に関わる仕事を目指そうと思った事。そしてその後彫刻に転じ、更に写真に進んでいった私の20代。
…ゲーム…これはファミコンか…家の居間でファイナルファンタジーをプレイしている自分も見えた。
朝、早起きしてゲームをしている。カオスの神殿に向かっているところだ。もうすぐ最後の敵と戦うらしい。
おそらく小学校6年生…1986年のことだ。
様々な自分。過去。そして、今。
ふと、我に返る。
もう、先の声はしない。風は、閉め忘れていた窓から吹き込んだ風だったようだ。
確かに、予兆めいた感覚はあった。
作品名:机ノ上ノ空ノ日記 1 作家名:机零四