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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 返事の代わりにウインクしながらボリュームを絞ると、やっとローラは静かになる。少しして隣を見ると、彼女は静かな寝息を立てながら全ての活動を停止していた。色白のキメ細かい肌に自前の長いまつ毛が美しい。その寝顔は、まるで映画に出てくる金髪の貴族の令嬢そのものだった。

 樹理とマサトが渋谷駅を降りたのは約束の時間よりも少し早かった。ハチ公を見ながら道玄坂二丁目の交差点を左に曲がると、ローラの家はもうすぐだ。
「マサト、あんた行儀よくしなさいよ。あそこの家の執事はマッチョだからね。ヘンなことすると屋敷の外にポイッよ」
「わ、分かってるよ! あこがれのローラ様の家に行けるなんて、おまえの友達で良かった! でもありがとうは言わないぜ!」
「……なに少し涙目になってるのよ、バカねえ。今日はケーキを一緒に作るだけよ。ちなみにあんたは味見係ね」
「オッケー! 俺、甘い物大好きだからいくらでも食うよ。ところで、さっきから気になってたんだけど、その袋の中身ってなんだ? ずいぶんと重そうだけど」
 もったいぶった素振りで手に持った麻袋を彼女が開けると、そこには小さな鉢が入れられていた。
「あ、これね。翔太の部屋に行った時、例の『イブ』の種が部屋に落ちていたから、一つ持って帰ってきたのよ。家で植えたらあっと言う間に育って実がなったの。その種を別の鉢に植え替えたらすぐにまた芽が出てきちゃってさ。じゃあローラにも分けてあげようかなって」
「落ちてた?」
「小さな白い花も少しの間だけ咲くのよ。見てると何か癒されるのよねえ……この植物。翔太が名前をつけて大事にしていたのが、今ならちょっと分かるかも」
 質問が聞こえなかったのか、彼女は眼をつぶって優しい顔をしながらうんうんと頷いている。一方、マサトの方は何かテンションが少し下がっているように見えた。
「それさ、俺が持って帰ったヤツと同じだよ。おじさんに渡したんだけど、何か秘密がありそうなんだ。まだおじさんから連絡が無いから分からないけどね。もし危険な植物だと分かったら、すぐに捨てろよ」
 心配そうに樹理の顔を見つめる。
「分かった。あ、そろそろ見えるはずよ」
 やがて堂々とした面構えの家が目の前に現れた。防犯カメラが二台彼らを狙っている。バカでかい門の脇にもカメラ付きのインターフォンがあり、それをマサトが恐る恐る鳴らそうとしているが、どことなく腰が引けている。その体勢は、いわゆるピンポンダッシュの体勢だった。
「はい、どちらさまでしょうか?」
 太い声がインターフォン越しに聞こえてきた。多分マッチョの執事だろう。同時に脇にあるカメラが角度を変え、何かを探るように動き出す。
「あ、私たちは同じ大学の友人です。今日はお招きありがとうございます」
 しばらくすると鉄格子の門が自動で開き、黒いスーツを着た執事が姿を現した。
「お嬢様から伺っております。どうぞこちらへ」
 門から玄関までかなり歩く。執事がマサトを見る視線がどこか厳しい気がしたが、放し飼いのドーベルマンに怯えるマサトは全くそれに気づいていないようだった。
 玄関をくぐると、ローマ時代を彷彿させる造りの床や柱がまず二人を圧倒した。そして吹き抜けの大広間を抜けると、グランドピアノの椅子にちょこんと座るローラが姿を現した。
「あら、樹理ちゃんいらっしゃい。ん? そこの男の子はだあれ?」
 小首を傾げ、不思議そうにマサトを見ている。
「もう、講義室で言ったじゃない。男の子を連れていくって。紹介するわ、マサトくんよ。私の友達でサークルも一緒なの」
「あらあら、そうだったわね。今日は楽しんでいってね。ちなみにこのガブリエルは、私に近づく男を、片っ端から始末しちゃうから気をつけるナリよ」
 ローラの脇に立つガブリエルは、その言葉に応えるように、片方の頬をあげ邪悪な笑顔を作る。
「あああああ……」
 マサトはその顔を見て樹理の袖をぎゅっとつかんだ。
「ぷ、冗談よ。彼は私のスポーツインストラクターも兼ねてるの。マッチョなのはそのせい。だから安心していいわよ」
 花が咲くような笑顔でころころと笑った。
「び、びっくりしたあ! 綾小路しゃん、いや綾小路さんは大学であまり姿を見かけないけど、普段は何をしているの?」
 少し緊張がほぐれた様子で質問する。
「そうねえ、必要な単位はだいたい海外で取得してるから、今は好きな事を勉強しているわ。日本のリョーマとか、エジプトの歴史とか」
 すっとピアノの椅子を滑り下りて、執事から渡された白いエプロンに首を通しながら答えた。
「あ、そうそう。これ良かったらお部屋に飾ってね。小さいけど、とても可愛い花を咲かせるの。私も同じものを愛情込めて育ててるわ」
 両手を添えて『イブ』をローラに手渡した。
「ありがとう。あなたとお揃いの植物を育てるなんて、なんか嬉しいわね。ガブリエル、水をあげて私の部屋の出窓に飾っといてね」
「かしこまりました」
 それを丁寧に執事に渡すと、ローラとマサトたちはキッチンに向かった。
「これが……キッチンだと? いったい俺の部屋の何倍あるんだよ」
 開いた口がふさがらないようだ。壁は汚れひとつ無い純白に統一され、上品な食器棚には手入れの行き届いた高級そうな皿が並んでいる。大広間とは違いモダンな内装で、そこには調理をするための最新の設備が整っていた。オープンキッチンなのはもちろんだが、実際に調理するスペースだけでも学校の教室ぐらいあるのだ。
「シェフたちには出払ってもらったわ。今日は何でも使い放題よん」
 腕まくりをしながら二人を振り返ると、やる気を見せるようにウインクした。

 数時間後、一人の男の顔がまさに青ざめていた。
「……もう、食べれません。甘い物大好きイエイッ! とか生意気言っちゃってホントにすいませんでしたあ!」
 ここまでありとあらゆる失敗作を食べさせられたマサトは、食卓の上に突っ伏していた。ガブリエルがそっと近づき、同情したように首を振りながら胃薬と水を置いて行く。
「もう、だらしないわねえ。――でもやっと完成したわ。じゃーん! これが究極のラブラブケーキよ。ほら、見て見て」
 樹理の指さす食卓の上には、ハートの形にイチゴが載った『ありがちな』ケーキが置かれている。
「ん? ラブラブケーキって?」
「実はローラね、好きな男の子ができたんだって。だから手作りケーキをその男の子に贈りたいらしいの」
 マサトがぽかーんと口をあけながらローラを見ると、彼女は顔を赤くしてうつむいている。
「だだだ、だれ? 外国の人? モデル? パイロット?」
 マサトの動揺を見て、樹理は思わず吹き出す。
「驚かないでよ。なんと! あの翔太なのよ。こないだキャンパスで紹介したの。彼女ねえ、一目ぼれだってさ」
「ええっ? なな、なんであいつなんだよ。ハイ俺、実験台ごくろうさまです! ってマジで?」
「うん。……あの顔見たら分かるでしょ」
 翔太の名前を聞いたとたんローラの顔は更に赤くなり、動揺したのかせっかく完成したケーキをもじもじと指でいじりだした。
「ちょ、ローラ! あんたダメじゃない。あーあ、また作り直しよ。じゃあマサト、もったいないからこれも食べてね」