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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「あなたたちもあの後は大変だったようね。でも、私なんか穴に落ちてから地獄のウォータースライダーよ。何十メートル滑ったかしらね。で、飛び出た先は」
「ワニのいる池だったんだろ? 何十回も聞いたよその話は」
「ワニよワニ。ああ気持ち悪い! おまけに私の美しいお尻があの時は擦り傷だらけ。これが何より悔しかったわ。あの時はやけになってて、助けに来た長老たちをぶん殴ってやろうかと思ったわよ」
 ボクシングの構えをしながら口を尖らせる。
「もう治ったんだからいいじゃんか。そんなことより、仕事をまた始めないとな。デービスの野郎に金庫から根こそぎ金を持っていかれたし」
「いいじゃないの。もともとあぶく銭でしょ。また地道に一緒にやって行きましょうよ」
「一緒にって。君も、もういい年だろ? そろそろ誰かと結婚して落ち着いたらどうなんだ?」
 なぜか桜子は急に本を読む手を止めて、じっと三ツ井の眼を見つめた。まるで三ツ井の隠れた気持ちに気づいているように。
「結婚なんて……。最初からあなたとしかする気は無いわよ」
 まだ火を点けていない煙草が、ぶらあんと彼の唇に張り付いて垂れ下がった。

「ぶっちょー、『RED』がしおしおで、こりゃもうダメですね」
 部室で真理子ががっかりしたように肩を落とした。
「いや、真理子くん。これで良かったんだよ。こんなモノは世間に広まってはいけないものだったんだ」
 新品のピンクの眼鏡をずり上げながら答える。真理子に見せつけるように足を組んでいる長谷部の履いている靴は、先の尖った白いエナメルの靴だった。どうやら彼はあのまま何かに目覚めてしまったようだ。
「そうですね。翔太くんの言うとおり、天敵がこれを滅ぼしたのかもしれませんね」
「かもな。ところで、今夜あたりまたクラブに行かないか? 聞いてくれ、これも昨日買ったんだよ。ところどころ穴が開いたジーンズ、あれなんてったっけ? ストーンうぃっしゅ?」
「ウォッシュですね。でしたら穴は普通あいてませんけど」
 あきれた顔で部長のドヤ顔を見つめる。
「いいじゃん。僕、きっと注目の的だよ」
「お断りします。部長のファッションが、最近サークルの色からどんどん外れて行ってるのに気付いています? 部長には白衣が一番お似合いですよ。反省するまで一緒に出掛けませんから」
 言葉は怒っているように聞こえたが、少し伸びた前髪に隠れたその目はとても優しかった。

『東京 恵比寿』

「だあ! 何でみんな僕と一緒に行こうとしてるんだよ。君たちは大学生でしょ。べんきょーしろ勉強! 大体バックパッカーってのはなあ」
「えー、翔太くんのために、あたし来週プライベートジェットを手配してるのに」
「違う」
「俺だってインド行きたいよ。どこ行ってもカレー食い放題なんだろ?」
「それも違う」
「え、それじゃ、ターバンって実はめっちゃ臭いってのは?」
「それだけは合ってる。でも、臭くない人もいる。つかなんすか。君たちインドディスってんすか」
 この日、僕とマサト、それにローラと樹理は黒木さん行きつけのBARに居た。彼のいるカウンター席からボックス席の僕らの会話が聞こえていたのか、肩を細かく震わせて笑っているようにも見える。
 あれからあっという間に二カ月が経ったが、僕らの関係は基本的に以前と変わらなかった。ただ、樹理だけはあの冒険を境に、親友であるローラに気を使っているのか僕と二人きりになる事をわざと避けているようだった。だから今回のインド旅行に「私も一緒に行っちゃおうかなあ」と樹理から聞いた時は、意外に思うと同時に少し嬉しさを感じた。まあ、ただの冗談だとは思うけれど。
 最近樹理と会ったのは、哲男の事故の件で警察に行った時だった。マサトと三人で詳しく説明したが、どこからか(まあアメリカ政府だろうけど)圧力でもあったのか「そんな人は戸籍上存在しませんし、そんな島も存在しません」と言われ丁重に追い返された。もう僕たちには、あの日が来るたびに彼に黙祷を捧げる事しかできないのかもしれない。
「ところでさあ、今回のインド行きの目的って何なの?」
 二杯目のマルガリータに程よく酔ったのか、樹理が少し色っぽい声で聞いて来た。
「笑わない?」
「うん、笑わない」
「あの皮袋を返しに行く。売店のおじいさんに」
「……くっ」
「みんな笑ってるじゃん」
「だってなあ。はい、じゃあ俺が代表して言っちゃいますねー。……普通に送っちゃえばいいじゃん」
 少し顔を赤くしたマサトが代表してツッコむ。
「んー、まあそうなんだろうけどさ。今回の事は、元はといえばあの店から始まった事だろ? だからやっぱりちゃんと終わらせるには、おじいさんに直接返さないとさ。あと……ニューオーリンズにも行くかもしれない。ロバートの息子に伝えなきゃならない事があるんだ」
「ロバート? あんなヤツのために無駄なお金を使う必要はないと思うけどなあ」
 樹理は納得いかないような顔で首を傾げる。
「一応、死に際に約束したからね。男と男の約束ってそういうもんだろ?」
「うーん、翔太くんのそういう頑固な所がたまらないのよねえ」
 これまた真っ赤な顔をしたローラがうっとりとこちらを見つめていた。まだ一口しか口をつけていない、汗をかいた青いカクテルがテーブルに置かれている。ああ、この子も酒に弱い種族なんだなと少し親近感を覚えた。
「あとさ、ルシャナが言ってたじゃん? 僕は言葉の壁を超えてボランティアもしたいんだ。貧しい国の子供たちと身振り手振りでもいいから、少しずつ言葉と心を通わせたい」
「ふうん、翔太らしいわね。行ってきなよ。そうだ、ローラも一緒に行ったら? あなた、お父さんの仕事と全く違う会社を立ち上げたいんでしょ? 勉強になるかもよ」
「そうなの?」
「うん。武器を売る仕事とか、戦争に加担するような仕事はいやなの。私は私のやり方で世界を少しでも変えたい。あの子が言っていたように、地球をいたわるような仕事ができるように今勉強しているの」
 あの冒険は、どうやら僕たちの将来に少なからず方向性を与えてくれたようだ。
「ふうーん。あんたって見かけによらず努力家なんだね」
「しっつれいな。見かけだってまじめそのものでしょ」
「そんな背中の開いたワンピースのどこがまじめなのよ」
「うるっさいわね、樹理ももっと大人の色気を出しなさいよ。胸ないんだから三枚ぐらいパット入れるとか」
「言ったわねこの」
 お決まりの漫才が始まったところで、僕は席を立ち、カウンターにいる黒木さんの横に腰掛ける。
「さっき肩プルプルしてましたけど、身体の方は大丈夫なんですか?」
「ああ、もう平気だよ。実はな、先に君だけに話しておこうと思うんだが」
「何ですか?」
「俺、探偵の仕事を辞めようかと思うんだ。でな、あのお嬢ちゃんの専属ボディガードになろうと思う。彼女も今回の事で、俺のこと買ってくれているみたいだしな」
「アポストロスの前に出て彼女を守ったんですよね。凄く勇気のある行動だと思います」
 だが、偶然とはいえ、ローラに対する黒木の気持ちを知ってしまった僕はこの時少し複雑な気持ちだった。