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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「どうやらあのお嬢さんたちは、とんでもない物を見つけてしまったようですね」
「ああ、彼らがここまで出張ってくるってことは、次のセリフは大体予想できるな」
 スペリウッドが頷く。それと同時にまた無線が入る。
「時間以内に離脱しない場合は攻撃する。繰り返す。我々は友軍であろうと、命令に従わない場合は攻撃を行う」
 ブロンクス訛りが少し入った、きっぱりとした低い声が響いた。
「ほら、な」
「冗談を言ってるんじゃないぞ。ただちに離脱せよ!」
 友軍をも攻撃するということは、やはり普通の事態では無い。
「どうやらここまでだな。しょうがない、スペリウッドくん。我々はケツを捲るぞ。お嬢ちゃんたちには申し訳ないがね」
「はっ!」
 レーダーには、扇形の陣形でこちらに近づいて来る戦闘機の機影がはっきりと映っていた。オスプレイは徐々に進路を北に取ると、空に帯を引きながら全速力で空域を離脱していく。
「少尉。あれ、何ですかね?」
 スペリウッドは最後に一瞥したその島から異変の片鱗を感じ取ったようだ。ライオネルが目を落とした瞬間、島の中央に近い部分に光が走った。森が裂け、地面がめりめりと盛り上がる。まるで巨大な亀の甲羅が裂け、子亀が飛び出してくるような感じだ。
「そうだなあ。私には……いわゆるUFOのように見えるが、君は?」
「同感です。しかし、こいつはデカいですね。空気が震えてるように感じます」
 次の瞬間だった。
 二人は同時に耳を押さえる。今まで聞いたことの無いような、まるで空間を歪めるような音に耐えられなかったからだ。ただ、それは一瞬の出来事だった。
「見て下さい。島に穴がぽっかり開いているのはいいとして、あのデカい物体がもう」
「消えているな。レーダーにも映ってないぞ。ということは――空軍は手遅れになったな」
 急に上機嫌な顔をして操縦桿をとんとんと叩いた。
「あいつらもすぐにこの事実に気づくだろう。スペリウッド君、ではこれから我々はどうしたらいいと思う?」
「着陸はもう不可能ですし、まっすぐ帰ってビールを煽るのが一番かと。島の捜索は彼らがやってくれるでしょう。ただ、お嬢さんたちが無事だといいのですが」
 少し心配そうな顔をしながらも、まっすぐに前に顔を向ける。
「そうだな。最後にあいつらに羽でも振ってやれ」
「了解!」
 羽を振りながら飛び去って行くオスプレイを目視していた戦闘機のパイロットは、まだ島の異変に気づいてさえいないようだった。

『東京』 クリスマスイブの夜

「どうやら着いたようだね。君たちとはもっと昔に知り合いたかったよ。僕はまた長い眠りに入る。人類が『現状維持』の愚かさに気づく前に、また誰かがやって来ることを期待するよ」
 瞼が黒い眼をゆっくりと下から覆っていく。僕たちが入って来た時と同じ姿勢で、彼はついに動かなくなった。
「ってもう着いたの?」
 樹理が驚くのは無理も無かった。一番最初の揺れを感じてから、まだ数分しか経っていないからだ。
「あたしの操縦はいかがでしたか? この下に広い公園を見つけましたので、着陸しますね。最初のドアから出てそのまま地上に降りて下さい」
 操縦席からなのか、ルシャナの少し自慢げな声が聞こえてきた。
「それはいいけど、公園だって? 今頃大騒ぎになってるんじゃないか」
 こんな船が東京の上空に現れたら、ただでは済まないだろう。
「大丈夫です。地球の科学ではこの船のシールドは『まだ』見えませんから。では――本当にこれでお別れです。皆さんお元気で」
「ルシャナ、元気でな。あ、言い忘れてたけど、君はきっと美人になるぞ。おじさんが保障する。ところで、君はこれからどうするんだ?」
 聞いたあと三ツ井は、唇を噛みしめながら永遠の別れに少し涙ぐんでいるようだ。
「ありがとう。これから私はいったんみんなの所に戻ります。そしてこの『パンドラの箱』をどこか見つからない場所に隠すことになるでしょう。番人の仕事はこれからもまだまだ続いていきます。あ、それから翔太さん?」
「うん? なんだい」
「最初に会った時のボディランゲージ、心に響くようでとても素敵でした。あなたならどんな人たちとも心が通じ合い、素晴らしいコミュニケーションがとれるでしょう。自信を持ってくださいね」
「ああ、ありがとう」
「最後に、私が言うのは偉そうで申し訳ないんですけど、『キボウ』というものはあなたたち人類が造って行くものだと思います。戦争や自然破壊などをせずに、この地球をもっともっと大事にして下さい。それでは、さようなら」

 数分後、僕たちは夜中の代々木公園のど真ん中に立っていた。どうやらクリスマスイブにはぎりぎり間に合ったようだ。
「行っちまったな」
「ああ」
 白い息を吐きながら、今にも雪が降って来そうな夜空を皆で同時に見上げた。
「そうだ! すぐに黒木を家に連れて帰って治療しなきゃ。血はやっと止まったみたいだけど、だいぶ顔色が悪いわ。ちょっと待ってて、迎えを呼ぶわね。このぶっそうな物も早く始末しないといけないし、あなたたちもいったんうちに来て着替えた方がいいと思う。あ、翔太くんだけはそのまま泊まっていっていいのよ。サンタのコスプレもあ、る、し」
 ローラは既に通常運転に戻っているようだ。僕はまだ夢の中にいるようで、まだ少し頭の中が整理できてなかった。
「そうだ! 俺もおじさんに電話しなきゃ。すっかり忘れてたよ」
 あの状況ではこれはしょうがないだろう。

「ねえ翔太。あのドアをくぐった時、何かこう、私から感じた?」
 ぽんっと手を叩くマサトの横から、樹理がゆっくり僕の方に近づいて来て耳元でこう呟いた。
(ああ、あの事かな)と思ったが、ここは黙っていた方がいいと判断する。
「いや、何も。あの時はパニックになっていたから」
「そう、なら良かった」
 樹理は少し複雑な表情を浮かべながら、先ほどからちらちらと降り出した雪を手のひらで受け止める。
「今夜はホワイトクリスマスになりそうねえ」
 ローラの言葉に、また僕たちは一斉に夜空を見上げる。
 頬に舞い降りて次々に溶けて行く雪の感触を楽しみながら、「ああ、僕らの冒険は今ここで終わったんだな」と、ここではっきりと感じた。


 枯れゆくものと芽生えるもの


 二か月後

「六時のニュースです。世間を騒がせていた、『RED』の蔓延がついに終息を迎えたようです。専門家によると、『サンプルを栽培して大量のデータをとっていたが、ちょうど二カ月ほど前からこの植物の繁殖能力が急激に衰えてきた。そして最近では、育つことも実をつけることも無くなり、植物の種としては絶滅したと宣言する』との発表がありました。警察の発表もそれを裏付けるように、『この植物による死亡事故は最近全く起きていない』とのことです。では、次のニュースです」
 テレビのリモコンを持ち上げてチャンネルを変えたのは三ツ井だった。
「よお、桜子。ついに終わったな。翔太くんたちの話じゃあ『遺跡で衣服に付着した花粉か、もしくは小さな虫が禁断の実の繁殖能力を破壊してしまったのかも』だってよ。いわゆる天敵を呼んだのかもしれないな」