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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 ごくりと唾を飲み込みながら僕はその先を促した。
「――姿形が変わってしまうんだ。もちろん人間の場合も例外じゃない」
「つまり、あなたのような身体になってしまうってこと?」
「たぶんね。でも悪い事ばかりじゃない。僕の遺伝子を持つ者は、考えられる全ての環境に適応して生き抜く事ができるようになる。例え、真空の中でもね」
「じゃ、じゃあ『キボウ』っていうのは……。姿形を変えたとしても、『種』として生き残るための手段って事なのか?」
 それを聞いた三ツ井が、素っ頓狂な声を上げる。
「そうだ。ところで、君たちはサルから人間に進化したと信じているんだろう? 本当は違うのだけれど、それはそれでかまわない。じゃあ、サルから人間にいつ、どんなタイミングで進化したと思う?」
「うーん。一斉に進化したのかしら。分からないわね」
 樹理が「考えた事も無かった」という風に首を捻る。
「そう、大きな変化が起こるタイミングってのは誰にも予想できないんだ。ある日、パタっと人類全部が同時に息絶えてしまうかもしれない。ただ、その前に僕と人間の新しい混合種が存在していれば、彼らだけは必ず生き残れるだろう。人類の遺伝子が少しでも残せるように、僕の身体が必要な時がいつか必ず来るはずなんだ」
「いつかね……。人類の種の寿命は数百万年と言われているけど、あと約四千五百年と言う説もあるからなあ。じゃあ君はいつそれが起こると思う?」
 人類の未来を心配しているかのような瞳でマサトが質問する。
「もちろん僕にも分からない。でもそう遠い未来ではないだろう。いいかい? 種の滅亡なんてよくあることだよ。逆に、今まで破綻しないでよくここまで人間が増えたもんだ。地球から見たら、自分を蝕んでいる害虫たちだろ?」
「そりゃまあそうかもしれないけれど、人間は悪い人たちばかりじゃないわよ」
 少し見慣れたのか、ローラが僕の背中から顔を出して口を尖らす。
「いい人、悪い人は関係ないんだ。『その時』が来たら、人間という種は断ち切られるようにそこで終わってしまう。ねえ、少しでも可能性があるなら、君たちは僕をここから出すべきだと思う。悪いようにはしないよ」
「いや、君を出したらここにいる女性たちがまず危ないだろ。それに、これは人類の未来に関わることだし、そんなの僕らがここで決められる事じゃない。極端な事を言えば誰にも決められる事じゃないと思う」
 当たり前の事だが、ここにもし人間に選ばれた代表が一人いて決断したとしても、それに反対する勢力は必ず存在するはずだ。人類の総意なんてものはしょせん夢物語なんだと思う。
「そう! 君たち人間はいつも『現状維持』を選ぶ。それが果たして本当に正解なのか、もう一度良く考えてみてくれよ。……でも、もう時間が無いようだね」
「時間が無いって?」
「好奇心と功名心、それに加えて強大な軍事力を持ったヤツらが、ここに近づいて来るのを感じる。物凄い数だよ。ってことは、もうこの島の存在がどこかに知れ渡ってしまったようだね。すぐに移動しなければ、僕は捕まって『現状維持』を望む人間たちにひっそりと殺されてしまうだろう」 
「まさか……。デービスたちが裏切ったの?」
 ちょっと頭に血が上っているのか、ローラが強い口調で言い放つ。
「ありえるな。この島を包囲させて『パンドラの箱』を確保しようとしているのかもしれない。という事は、秘密を知った俺たちも無事では済まないかも」
「どうする? 逃げるにしてもとても間に合わないわよ」
 マサトの言葉に呼応して、樹理も逃げ道を探すかのように辺りを見回す。そう、この中に居てもいずれは発見され拘束されてしまうだろう。
「君たちは良い人間みたいだから、逃がしてあげるよ。――ねえ、『遺跡の番人』もそこにいるんだろ? 名前は?」
「はい、ルシャナです」
「いい名前だね。いいかい? この船は君たちが乗っている船と操作は良く似ているはずだ。飛ばしたことはある?」
「いえ、大人が飛ばすのを見ていた事なら……」
「まあ大丈夫だろ。操作室はほら、あの光の柱に入れば行ける。ただ、急いでくれ。あともう少ししたら武器を持った大量の人間たちが降下してくるだろうから」
(コイツ実はいいヤツじゃん)ってこの時みんなが思っただろう。おまけに、彼になら支配されたとしても何とかなりそうな気がしてくるから不思議だ。
「分かりました。――あの、翔太さん、それに皆さん。助けていただいて本当にありがとうございました。ちゃんとお礼も言って無くてごめんなさい。皆さんと過ごした時間は一生忘れません」
「おいおい、最後のお別れみたいな事言うなって。ルシャナ、君ならきっと上手く飛ばせるよ」
 仲間思いのマサトの胸にはぐっと来るものがあったのだろうか、少し涙ぐんでいるように見える。ぺこりと頭を下げたルシャナの瞳にも涙が光っているように見えた。マサトはこう言ったけど、ここを出たらたぶん僕たちとまた会う事は二度と無いに違いない。
「はい、頑張ってみます! あなたたちを日本に送ればいいんですよね? フジサンの上なら何度も通過していますから位置は分かっているつもりです」
 皆がその言葉に驚いた。日本のレーダー網だって最新式のはずだ。それに補足されないように、番人たちは富士山の上空を何度も飛んでいるとでも言うのだろうか。
「あ、小さな運転手さん、できたら東京都内でお願いします。料金はツケといてね」
 おどけた様子で三ツ井が微笑むが、何か寂しさを隠しているような顔に見える。そう、実は彼がルシャナを一番可愛がっていたのかもしれない。その証拠に、彼女の作った花輪を今も胸ポケットに大事そうにしまっていた。
「はい。桜子さんも無事だと思いますから、番人たちに後で日本に送るように伝えます。あたし……皆さんと知り合えて本当に良かったです!」
 最後に振り向いてそういうと、涙の筋を反射させながら光の柱に飛び込んで消えていった。
「なあ、翔太。これから宇宙船飛行を味わえると思うとワクワクしてこねえ?」
「うーん、それはパイロット次第ですなあ」
 僕は顎に手を当てて微笑んだ。


 その頃――ライオネル少尉が、ローラからの連絡が途絶えた事に対して訝しげな顔をしていた。
「大変です! 凄い数の飛行物体と、大型船がこちらに向かっています。これは……イージス艦じゃないか! 何てことだ。まさか戦争でもおっぱじめるつもりでしょうか」
 オスプレイの操縦室でレーダーを見たスペリウッド二等准尉が唐突に叫んだ。それを確認したライオネル少尉は不機嫌な顔をして首をひねる。この飛行機と船の数は尋常では無く、軍人の判断としてこれをかなりの異常事態と捉えているようだ。
「もう一度確認しろ。今日この空域で軍事演習でもあるのか?」
 その言葉に被せるように、無線から声が飛び込んできた。
「あー、こちらはアメリカ空軍だ。飛行中のオスプレイのパイロット応答せよ」
「パイロットのライオネル少尉です。アメリカ空軍がなぜこの空域に?」
「質問は一切受け付けない。五分以内にこの空域から離脱せよ。我々は大統領命令で来ている」 
 ライオネルはスペリウッドと顔を見合わせた。