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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「行く、しかないわよね」
「だな」
 すとんと僕が先に降りて、ルシャナ、樹理、次にローラに手を貸す。最後に、ケガをしている黒木を皆が手を貸して慎重に降ろした。手を貸しながら見上げると、遠い天井の穴から誰かがこちらを覗き込んでいるような感覚を覚える。やがて、全員が無事に床に足をつけるのを待っていたかのように、ルシャナが先頭に立って歩き出した。
「おい、危ないぞ」
 軽快な足取りで先を歩く彼女に、三ツ井が心配そうに声を掛ける。
「平気よ、ついて来て」
 発光する床の上を十メートルほど歩く。そのうち僕らは、この場所に誰かが先に入っていた事実を確信することになる。なぜならば、近代的な壁に描かれた動物の絵がふわふわと十ミリほど空間に浮かんでいた。宗教がかったレリーフなども同じように壁の上を滑りながら動いている。
「何これ、面白いわね。指でなぞると壁に絵が描けるわ。しかもそれが動き出すよ」
「本当ね。すごい技術だわ」
 樹理とローラは、不思議そうな顔をしながら夢中で壁に絵を描いている。 
「なあ、樹理。こんなものが描かれているってことはさ、古代人はさっきのクエスチョンを間違えずに答えていた事だよな。なんで分かったんだろう」
「知識が無ければ初見じゃ絶対無理よね。たぶん彼らをエスコートした者がいるんじゃないかしら。UFOはここにだけ着陸したわけじゃないだろうし」
 僕の問いに樹理は首を軽く傾げながら答えると、知的好奇心を間断なく刺激され続け興奮しているのか額に浮き出た汗を袖で拭う。
「まあギザのピラミッドは、宇宙人の技術指導によって造られたなんて説もあるくらいだしな。何かしらコミュニケーションはあったのかもしれないぞ」
 会話に加わったマサトの埃だらけの顔も、いまや生き生きと輝いていた。
 そのまま少し歩くと、突然前方にゆらゆらと歪んだ空間が現れ、僕らの行く手を塞いでいた。波を打つその物体は、見ようによっては無数の目がこちらをちらちら見ているようにもみえる。
「怖がらないで。でももし怖かったら、隣の人と手を繋ぐといいわよ」
 意味深にこちらに向かってウインクした。
 目を丸くしながら立ち止まる皆をよそに、ルシャナは何の躊躇も見せずにそこにゆっくりと体をめり込ませていく。
「こいつは、まるでワープポイントみたいだなあ」
 ゲーム好きのマサトらしいセリフだった。ルシャナの身体がすっぽりとその空間に消えたのを見て、その技術はとてもロストテクノロジーと呼べる代物ではないと、この時全員が感じていたに違いない。血の気を失ってどす黒い顔をしている黒木でさえも、その口をぽかんと開けている。
「翔太くん。手を……繋いでて」
 次は僕の番だった。口元をきっと結んだローラの手をそっと取り、指を絡ませそっと握る。目を見合わせて僕らは頷くと同時に一歩前に足を踏み出した。  
 次の瞬間、頭の中にとてつもない量の映像が流れてきた。これは一体誰の、いや何の記憶なんだろう。それは情報の大海に飛び込んだような感覚で、もし例えるならば人類誕生からの地球と共有した記憶というべきか。
 そうだ、昔聞いたことがある。
【クレオパトラが飲んでいた一杯のワインがもし海に流れていたとしたら、その原子は僕も、地球の裏側の人たちも、皆それを一度は必ず口にしている】という話だ。
 原子が人や動物の身体を巡り巡るように、人々の記憶も元をたどれば一つの塊に辿り着くということなのだろうか。同時に、いま手を繋いでいる綺麗な青い眼をした女の子の『僕を愛している』という気持ちが柔らかい春の日差しのように、心地よい香りまで伴って僕を包んでいく。
 驚いたことに、香りこそは違っていたものの、全く同じ感情が樹理からも伝わってきた。だがそれには戸惑いがわずかに含まれていた。三ツ井の桜子に対する気持ちや、黒木のローラに対する淡い恋心などが不思議と手にとるように分かる。ただ、マサトの感情だけはとても複雑でぼやけてしまい、あまり感じ取ることができなかった。
 まさかの樹理の気持ちに少し戸惑いを感じながらも、両足に力を込めてそこをくぐり抜けた。この『情報の海』にいた時間はとてつもなく長い時間に感じたが、実際は一瞬の出来事だったのかもしれない。脳が大量の情報を処理しきれず、まだ少しパニック状態になっているのを感じる。
 ふらふらと部屋に足を踏み入れた刹那――そんな僕の目に、信じられない光景が飛び込んできた!


 一方、ペンタゴンの会議室では届いたばかりの情報を慎重に吟味していた。これがもし本物だった場合、絶対に〈他国に出し抜かれる訳にはいかない〉からだ。五分後には、副大統領も到着する予定であった。
「それは信用できる情報なのかね? 彼はベトナムでの作戦でたいそうなミスをやらかしたそうじゃないか」
 目を通したばかりのデービスに関する書類を、ぽんっとテーブルに投げだしたのはアメリカ合衆国国防長官のザックマンだ。鷲のような鼻と鋭い眼光のせいで高慢な印象を受けるが、部下からの信頼は厚い。
「隠し撮りしたと思われる映像も届いています。これをご覧ください」
 デービスの元上司であるジョシュアが写真を配る。
「うーむ。このドアはR-F?タイプに見えないこともないな。一昨年エリア51に回収された例のヤツじゃないのか?」
 ザックマンは不鮮明な写真を穴があくほど見つめながら唸った。
「さすが、ご存知ですね。しかし、これは更に洗練されているような印象を受けます。デービスの話では、このドアにセキュリティチェックを行うボックスが設置されていたそうです」
「ほう。要するに、これが噂のパンドラの箱の入口なのか。一体中には何が隠されているんだろうな」
「それは、何とも言えません。ですが、優秀な『冒険者たち』が謎を解いてくれると彼が申しておりました」
「冒険者たち? 一体誰なんだそいつらは」
 冒険者たちという単語の響きがよほど気に入ったのか、長官は目を細めている。少しだけ和やかな雰囲気が会議室に流れた。しかし……。
「お話し中失礼します! 副大統領がいま到着致しました。何やら非常にお急ぎになられておりますが」
 会議室に飛び込んできた男の言葉を皮切りに部屋の雰囲気がガラっと変わる。彼が話し終えないうちに、その背中を押しのけるようにして高級なスーツを着た白髪の男が入って来た。普段は上品な紳士だったが、今その顔は真っ赤で何か非常に怒っているように見える。
「いつまでもここで何をやっとるんだ! すぐにその島に向かえ! 太平洋に点在している動けるイージス艦及び空母を向かわせろ。オアフ島の基地に『至急、F‐22をスクランブル発信させよ』と私の名前で伝えるように!」
「はっ!」
 ジョシュアと、中年のでっぷりしたお偉いさんたちが電気に打たれたように立ち上がる。 
「お言葉ですが、あの空域には現在、『機密作戦中の我が国のオスプレイが飛行している』という情報が入っています。他の国に対してもこのまま制空権を奪ってしまうと、後に問題が持ち上がるかもしれません」
 尻を浮かせかけた長官が、かろうじて威厳を保ちながらも恐る恐る進言した。