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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「ちょっと一言いいかい? 私はデービス、そこの女性の会社に雇われた傭兵だ。どうやらここでは君がリーダーのようだから話しておく。数時間後にオスプレイが迎えに来る予定だったが、目印となるビーコンは君らが言ったアポストロスとの闘いで破壊され、ツイてない事に予備のバッテリーが入ったバッグも爆発で粉々になってしまった。その衛星電話の電池もいつまで持つか分からないだろうし、このままではここの位置を知らせる事は不可能になる。そこで……。私たちは元来た道を戻って連絡手段を探ろうと思うがどうかな? もちろん、これには指揮官であるそこのお嬢さんの許可が必要だがね」
 ちらっとローラを見てから、僕に向かって太い声できっぱりと自分の意見を最後まで言い切った。
「そうですね。ここは二手に分かれるのもいいでしょう。でもまだアポストロスが生きている可能性があるので、警戒して下さい。あと、ローラさんは僕たちが必ず守りますのでご安心を。それでいいかな? ローラさんも」
 いい機会だ。僕は先ほどから、この傭兵たちに漠然とした危険を感じていた。特にこのデービスという男の視線に。何よりも、電池の事が心配ならすぐにでもそこにある衛星電話を使えばいいのだ。何かがおかしい。
 こくんと頷くローラに傭兵たちがおのおの歩み寄って、三丁の拳銃を手渡す。そして最後にデービスが一番火力のありそうな一丁を自分の腰から抜くと、華麗な仕草で僕に軽く放り投げた。
「弾は残り少ないですがこれを使ってくれ。お嬢さん、では我々は早速作戦に移ります。グッドラック!」
 最後にローラに軽く敬礼してから、デービスはくるっと背を向ける。ゴツいブーツで花を踏み散らしながら傭兵たちはぞろぞろと歩き去って行った。そして扉を出たところで、短い声で部下の若者に命令する。
「予備の衛星電話を俺のリュックから取り出せ」
「え? 衛星電話はひとつのはずでは?」
「俺たちの仕事は、さっき銃を渡した瞬間に終わった。後はあいつらに面倒な謎を解いてもらうだけだ。――これから俺はペンタゴンに電話する。元上司にここの事を話したら、きっと強い興味を示すだろう」
「お言葉ですが、あのお嬢さんとの契約はどうなるんですか?」
 若い兵士が少し不満顔で答えた。作戦中もローラの容姿に見とれていた若者だ。
「かまわん。俺たちは、傭兵であると同時にアメリカ国民なんだ」
「しかし……」
 同じ戦闘服を着た他の二人もこの会話の内容に耳を傾けてはいたが、別段驚いた様子は見受けられなかった。彼らは事前にもうこの計画を聞かされていたのかもしれない。
「数時間後、この島は、ロシア、中国などでは無く、我がアメリカ合衆国が制圧しているだろう。貴重な歴史上の遺産もそっくり含めてな。お前たちにも、今までと比べ物にならないくらいの報酬と、新しい地位が与えられるはずだ。おっと、忘れてた。途中にあった壁の装飾品、あれらも剥がして持って帰った方がいいだろうな」
 そう言いながらニヤリと笑った。だが、その目だけは、少しも笑っていない。
「パンドラの箱。これは――いい土産になる」
 過去の機密作戦で致命的な失敗をした責任を取らされ、今の地位に甘んじていたデービスにとってはこれは願っても無い復帰のチャンスでもあった。
 電話を受け取ると、かけ慣れた様子で素早くボタンを押し始めたが、その電話を持つ彼の手のひらは興奮からか異常に汗ばんでいた。
 だが、数十分後……何とか地上まで戻った彼らの前には、恐ろしい光景が広がっていた。まるでそこに来るのを待ち構えていたように『無傷』のアポストロス十二体が一瞬で彼ら取り囲んだ。その眼は紅く、今にも全員を切り裂きそうな構えを見せている。
 火力の乏しい彼らだったが、さすが軍人上がりというべきか、決死の表情で戦おうとしたその瞬間……。最初に見た取り残された一体の身体にヒビが入り、そこからまばゆい光が放たれる。
「な、なんだこの光は!」
 ロバートと傭兵たちは咄嗟に手のひらで目を覆った。それは非常に短い時間だったが、次に目を開いた時、彼らは呆けたような顔でそのまま立ち尽くすしかなかった。
 何故なら、アポストロスたちの姿はどこにも無く、しかも光を放った一体も忽然と消えていたからだ。更に、目を覆っている一瞬の間に、勝手に頭に流れ込んで来た透き通った女性の声を彼ら全員が同時に聞いていた。
「私は……箱から出された一人。この子たちの母親です。のちにパンドラの箱が開けられた時、私たちはまた人類の前に現れるでしょう。次の言葉をどうか忘れないで下さい。人間という種の『残り時間』は、あなたたちが思っているよりもはるかに少ないのです」と。


 知られざる歴史


 傭兵たちが扉をくぐって見えなくなった時、ふと今まで黙っていたルシャナがつぶやいた。
「あの人たち、うそをついてるわ。私には分かるの。遺跡に敬意を払わない人たちよ」
 三ツ井の袖を掴みながら、僕を見る。
「ああ、でももう大丈夫だよ。ここには誰も君を傷つけるものはいない。ところでさっき長老とか言っていたけど、君たちの村はこの島のどこにあるの?」
 一度聞いてみたいと思っていた質問をここでしてみた。
「村って私たちが住んでいる場所のこと? なら、船の中よ」
「船? 船ですって?」
 少し不思議そうな顔をしてローラが首をひねる。高空から見たこの島の映像からは船影らしきものは見つからなかったのだろうか。
「いえ、船と言っても空を飛ぶ船。たぶん、あなたたちが未確認飛行物体と呼んでいるものね。さっきも言ったように、私たちは『遺跡の番人』なの。そして番人の仕事はここだけじゃない。あなたたち人間が知らない場所は、まだまだたくさんあるわ。でも――長老は『遺跡の盗掘や破壊は全て防ぎきれるものではない。あのワッケーロどもからも守りきれなかった。人間という生き物の悪い心の方を直さない限り、これからも続いていくだろう』って言ってた」
 ルシャナの瞳は嘘を言ってるようには見えなかった。それが本当だとしたら、はるか太古の昔から地球の大空に彼女たちの先祖の船が飛び回っていたことになる。同時に、盗掘をする者に対して、同じ人間として僕は少し恥ずかしさを覚えた。
「落ち込まないで。あなたたちは、良い人よ」
 僕の頭の中を覗いたかようにルシャナは優しく目を細め、三ツ井の頭に乗せた白い花輪を見つめた。
「そ、その話はまたゆっくりしようぜ。まずはこのドアを開けることが先決だ。いつまでもこんな所に居れないぞ。ほら翔太くん、さっさと押しちゃえって」
 視線が集まったことに照れた顔で三ツ井が急かす。確かに、のんびりしている場合では無い。もしこのドアが開かなかったら、あの過酷な道のりをまた戻るしかないのだ。
「では、代表して押しちゃいます」
 パネルの前にしゃがみこむと、導き出した答えの場所【家族を持つ者】に指を押し付ける。すると……。
 シュッ!
 今までビクともしなかったドアが、軽く身震いしたあと拍子抜けするほど簡単に横に開いた。恐る恐る全員で中を覗き込むと、壁自体が発光しているような通路が奥に続いているのが見える。不思議な事に恐怖よりも懐かしさを感じるような光が、覗き込む僕らの顔をぼうっと照らす。