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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 ムズムズするような好奇心にかられて、僕は思ったよりも高い声で返事をしてしまった。
「まず、これはクエスチョンと、アンサーの関係になっている。上の文字列が質問。そしてその答えをパネルの中から選んで押す。意外と簡単だろ? 次に、気になる質問の内容を噛み砕いて言うと……。『オマエハダレダ?』と君たちに聞いているようだ。そしてその答えは五つ用意されている。そのパネルにも五つの区切りがあるだろ?」
「そうですね。確かに五つ並んでいます」
「左から順番に、『悪意を持つ者』、『愛を持つ者』、『家族を持つ者』、『武器を持つ者』そして『希望を持つ者』だ。……うーむ、正直これは難しいな。おっと! 押す前に良く考えてから決めてくれよ。これには但し書きがあるんだ。どうやら、答えを押し間違えたらそのドアは二度と開かないようだぞ。もし、誰かが君たちよりこれを先に発見していて、間違った答えを押していたら既にノーチャンスって事だ」
 僕はメモ張を取り出して、五つのキーワードを書きとめた。確かにこれは難しい。
「何かヒントみたいものは無いのかしら?」
 樹理もパネルをじーっと見つめながら頭の中で答えを探しているようだ。
「そうだ! 困った時の――翔太でしょ。もう一回服を脱いでみてよ」
「え? もう一回脱ぐ? 脱ぐですって? あんたいきなり何言っちゃってるのよ! 翔太くんの全裸なんてあたしでさえ見た事ないのに!」
 樹理を「ブン殴ってさしあげますわよ?」的な目で睨む。一度戻ったお嬢様言葉が台無しだ。
 さっきからローラは僕の近くから片時も離れようとしなかった。「もう二度と離れるもんですか!」とでも言いたげに、子犬のように僕の近くをうろうろしていた。
「全裸になってどうすんだ。まあ脱ぐのは別にいいけど、背中のアザにまだヒントがあるとは思えないなあ」
「きゃあああ!」
 さっさとシャツを脱ぎだした僕を見て、顔を赤らめながらローラは手で目を覆った。
「なに! アザだと? 翔太くんの背中にアザが? ……ちょっとあの、すいませーん。誰か聞いてますかー?」
 スピーカーから博之の声がかすかに漏れている。
「しっ! みんな静かに! おじさんが何か言ってるぞ」
「ありがとう、マサトくん。ところで、翔太くんの背中にアザがあるって本当かい?」
「ええ、僕の背中には『親指の欠けた手形のようなアザ』が子供の時からあります」
「うーむ、何てことだ。古代の文献にも、その手形のアザを持つ者の話があるんだよ。今は詳しく話している時間はないがね。では、欠けているのが親指として、それぞれの指の長さを見比べてみて欲しい。どの指が『一番長い』んだ?」
 博之の声が、興奮でだんだん上ずってきているのが分かる。
「えーっと。樹理、ちょっと背中を見て確認してくれ。――そこの真っ赤な顔をした子でもいいけど」
 悪戯っぽく笑ってローラを見ると、少し離れた位置で指の隙間からじっと僕の背中を見ながら首を振っていた。その顔はまだ少し紅潮しているように見える。
「OK。そうね、これがもし右手だとしたら……。欠けた親指から数えると、中指が一番長いように見えるわ」
「なるほど。しかし、これほど符号するものなのか。という事は、翔太くんとナスカの地上絵にはやはり関係があるのかもしれないな」
「一体どういうことですか?」
「私はナスカに行って実物を見た後、全てのデータを分析し独自に研究をまとめた。その中に『Hands』という右手だけ指が四本しかない絵があるんだ。ただ、その四本はあまりにも自然に生えていてどの指が欠けているのかずっと謎だった。だが、今やっと答えが分かったよ」
「答え? 何の答えですか?」
「地上絵の欠けている部分が親指だと仮定すると、古代人はとっくに色々なメッセージを我々に送っていたのかもしれないって事だ。翔太くんのアザで、一番長い指は中指だって言ったな。面白いことに、ナスカのその絵で一番長い指も『中指』なんだ。そしてなんと、 この中指を起点にして、その島の位置を特定する座標に導かれるようになっていたんだ。つまり、質問の答えが五つ用意されていた事を考えると、正解は……」
「そうか! 三番目の『家族を持つ者』ですね。このパネルの問題は、欠けている指が分からない事には解けない謎だったって事か。僕のアザのヒントが無かったら、そう、地上絵のヒントだけだと普通は二番目の『愛を持つ者』を選んでしまうでしょう。親指に該当する『悪意を持つ者』はもともと欠けていた。つまり不正解と切り捨てて解釈できる」
 手元のメモを見ながら僕は深く頷く。
「さすが翔太くん。十万人目に選ばれた男だけの事はあるな。まあ、この世に偶然なんてものは無いと思っている私としては、ここまで符号してしまっては答えはたった一つしかないと思うんだが」
「家族、ですか。確かに人類と地球外生命体は、過去に何かあったとしたら家族という解釈もできますね。僕はまだ信じられないですけど」
 ふと視線を移すと、イブの花を摘んでルシャナがきれいな花輪を作っている。そして三ツ井の頭にそれを被せてはしゃいでいた。きっと、こんな話は子供には退屈なんだろう。
「ただ、これだけははっきり言っておこう。最後に決めるのは君と、そこにいる君の仲間たちだ。私はその手伝いをしただけなのだから。じゃあ、そろそろ切るよ。……おっと、大事なことを忘れていた! この電話代はいったい誰が払ってくれるんだい? そこはかなり遠いところだろうからな」
 軽く噴き出すマサトを横目に見ながら、ローラが口を開いた。
「うふふ。大丈夫よ、おじさん。請求書はうちの会社にまわして下さい。情報料も合わせて、綾小路家が責任を持ってお支払いしますわ」
「綾小路だって? あの綾小路家か。なら安心だな。じゃあ、結果を報告してくれよ。クリスマスイブの今夜は、寝ないでサンタのプレゼントを待つことにするよ」
 電話は沈黙した。それを皮切りに時間が止まったように辺りには静寂が訪れる。そうか、今夜はクリスマスイブだったんだ。あちらはもう夜なのかもしれない。
 マサト、樹理、ローラ、三ツ井、ルシャナ、黒木、そして四人の傭兵たちが見守る中、僕はゆっくりとパネルの前に歩いて行く。
「みなさん、聞いて下さい。本当にパズルは解けたのかは実際に押してみないと分からないですが、僕らはここでやれる限り精一杯の事はしたと思います」
「そうね。ここから脱出する方法は、とにかく突き進むしかないわね」
「だな。この先に何が待っているかは分からないけど、行くしかない」 
 樹理とマサトが瞳をきらきらさせながら答えた。その良い雰囲気をぶち壊す様に、アゴの割れた体格のいい男が一歩前に出て口を開く。