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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「ええ。たぶんお察しだと思いますが、このドアを開ける方法が全く分からないんです。どうやら暗証番号の様なものを入れるパネルはあるんですが、まず文字が読めません。でたらめに押してもきっと拒絶されるでしょうし、下手したらまた何かの罠が作動する可能性もあります」
 黒木はパネルに近づくと、しばらく考えた後、言葉を発した。
「もしかしたら――解決できるかもしれない。俺のリュックの中に衛星電話がある。この文字を写真に撮って、専門家に送ったらどうだ? ひょっとして何か分かるかもしれないぞ」
「そうか! 博之おじさんなら、もしかして何か分かるかもしれない。どうだマサト?」
「うーん。いくらおじさんでも、地球外生物の文字なんだろ? どうかなあ。しかも最近連絡が取れないから電話に出るかさえも分からないぞ」
「いや、やってみる価値はあると思う。黒木さん、早速準備にとりかかりましょう!」
 文字を写真に収めると博之にまず電話をかける。
「なにぃぃぃ! なぜか出たぞ? あ、おじさん、あのご無沙汰しております。はい、元気です。早速ですが、今から写真を転送しますので解読していただけますか? え? そうですね。言いにくいんですが、何というかあの……。宇宙人の文字みたいなんです」
 しゃべりながらこっちを見るマサトの目は「おい、俺って今とんでもないこと言ってね?」と僕たちに語りかけているように見える。
「はい、じゃあお願いします。少ししたらこちらから掛けなおしますので」
 電話を切ると、マサトはうっすらと額に汗をかきながらも写真を転送した。
「おじさんがこの場所のことを知ったら、せっかちな人だし絶対に『今から行くから待ってろ!』って言いそうでさ。場所のことは黙ってたよ。まあ、すぐに来れる場所ではないけど」
「マサトのおじさんなら、きっと解読してくれるはずよ。今までおじさんの話には何度も助けられてきたもの。後は待つだけ。ちょうどいいから、みんな今のうち食事を摂っちゃおうか」
 樹理の言葉に、僕らは車座になって食事を摂り始めた。
「翔太くんにお弁当作ってくれば良かったなあ」
 レーションをもぐもぐと食べながら、ローラが隣に座っている樹理につぶやく。
「ここを脱出できたら、いくらでも機会があるじゃない。ここだけの話、翔太は押しの強い女性に弱いみたいよ。ふふ、将来は尻に敷かれるタイプね」
「押し、か。でも彼、それだけじゃダメなような気がするなあ。樹理も気づいていると思うけど、翔太くんて心の芯が強いのよ。逆境にも強いし。……ひょっとしたらあんたの事好きなのかもしれないし」
 手を止めてじっと樹理を見つめる。
「は? なに言ってるのよ! 私と翔太は親友。あなたたちの邪魔をする気は無いわよ。もう! 天下のローラ様が何弱気になってるの。もっと自信を持ちなさい」
「はい」
 だが、この時の樹理の瞳は少しだけ悲しそうだった。これが複雑な女心というものなのだろうか。
 ピリリリリ!
 ここで、和やかな雰囲気を切り裂くように衛星電話の着信音が鳴る。
「はい、マサトです。仲間? はい、全員にですね、分かりました」
 スピーカーに切り替え、そっとドアの上に置く。鳥のさえずりしか聞こえないこの空間で全員が耳を澄ませ、電話からの言葉を今か今かと息を呑んで待つ。
「えー、みなさん初めまして。私は大沢博之という者です。この文字をそこで見ているということは、みなさんは南の島の古代遺跡の中にいるんだと思います」
 落ち着いた声がスピーカーから流れ始めた。
「黙っていてすいませんでした。その通りです。色々ありましたが、いま、『パンドラの箱』と思われる物の前にいます」
「いや、いいんだよマサトくん。逆に、よくそこに辿り着けたと誉めてやるべきだな。私は君を、いや君たちを誇りに思う」
 冒険家でもある博之は、どうやらこちらの状況を把握しているようだ。
「いやあ、本当はさらわれて来ただけなんですけどねっ」
「しっ! おじさん心配しちゃうから、今はそんなこと言わないの」 
 樹理に怒られてマサトは口にチャックをするマネをした。
「さて、本題に入ろう。君たちが送って来たこの文字。驚かないで聞いてくれ。これは『地球の文字』だ。紀元前二千四百年前に書かれた、アッカド語の楔形文字によく似ている。最古の文明と言われているメソポタミア文明が使った楔形文字にも似ているが、それよりも古いものかもしれない。つまり……」
「まさか、この文字をモニターに出力したのは古代人ってことですか? ありえない! もしそれが本当だったら歴史がひっくり返ってしまいますよ」
 僕らはお互い顔を見合わせながら、博之の言葉の意味を噛みしめていた。
「落ち着け、マサトくん。例えば、地球外生命体が古代人にも分かるように、この文字を共通言語として教えたのかもしれないぞ。まあ、これは推測の域を出ないがね。この地球にはまだまだ未開発の場所が沢山あるし、同じような文字や文化遺産がまだ発見されないまま埋もれていても不思議ではない。ただ、これは私の想像だが、そのドアの先にあるものは……」
 博之の次の言葉を一刻も早く聞きたかった。身をよじりながら、この数秒の間を過ごす。
「たぶん、宇宙船だ。そう、そのドアは宇宙船への入口かもしれない」
「え? という事は、パンドラの箱って言うのは、地球外生命体が乗って来た『宇宙船』ってことですか?」
 僕や樹理を始め皆うすうすは感じていたようだったが、はっきりとその単語を聞いた瞬間、改めて自分たちが今とんでもない場所にいるという事に気づいたようだ。
「いや、さっきも言ったように、使われている文字は地球人が使っていたものだ。例えば、君たちはシュメール人を知っているか? 彼らは突然現れ、文字も持たない文明にくさび形文字を始め、金属の鍛錬や六十進法も教えた。更に占星術や暦などもこの頃から急に発達したんだ」
「ええ、知っていますわ。確か、彼らがどこから来たのかも現代でさえ未だに謎なんですわよね」
 歴史に詳しいローラが透き通るような声で答えたが、驚きの内容を聞いたからか微妙にお嬢様言葉が顔を出してきている。
「良く知ってるね、お嬢さん。それを踏まえて――これは私の考えだが、地球人とこの宇宙船に乗っていた生命体との間には、古代に何かしらの接触があったと思っている。例えば古代人との異種交配があり、この地球にハイブリッドが誕生したとかね。つまり、その地球外生命体と人類は『親戚関係』になるのかもしれないんだ。種族は違っていても、自分の血が混ざっている者には彼らも親しみを覚え、色々と世話を焼くものじゃないかな」
 この時、僕の頭に浮かんだのはアポストロスの事だった。まさか、あれも?
「かもしれないですね。でもなあ……。古代人がUFOに乗って大空、いや宇宙空間さえも飛びまわっていたなんて考えたら――こりゃあ楽しすぎますね」
 その光景を瞼の裏に思い描いているのだろうか、マサトは目を閉じて頬をだらあんと緩ませている。
「ああ、たまらないな。さて、文字の解析がいまやっと終了した。対象の文字を様々なユニコードと照らし合わせてみたが、類似しているものが無くて苦労したよ。では、聞く準備はいいか?」  
「はい!」