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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「おいおい。それじゃ結局、二分の一の確率じゃねえかよ。難しく考えて三本抜くか、それとも単純に親指の無いヤツの方を抜くか。他に何かヒントは無いのかよ」 
 困り顔の樹理を見ながら、三ツ井は肩を落として考え込んだ。重い沈黙がしんしんと辺りを包む。
「ひとつ、いいですか? 私たちの村に、『遺跡の戦士は、他人が自分の剣に触るのを嫌う』って歌詞が歌の中にあるの。もしかして、その歌詞の意味は……」
 今まで黙り込んでいたルシャナが急に口を開く。冷たい地下の空気に包まれた僕は、その澄んだ声の響きに軽く身震いする。
「歌か。なるほど、剣を握れないものは戦士ではない。つまり、フェイクの像の剣は触っても大丈夫という事か。みんなはどう思う?」
 僕の問いかけに集まった視線は、もう既にひとつの結論を導き出しているように見えた。樹理がウインクしながら元気よく頷く。
「決まったわね。もし失敗してあいつらが動きだしても、翔太くんたちならちゃちゃっとやっつけちゃうよね」
「ムリだバカ」
 マサトも白い歯を見せて笑った。全員の視線が注がれるなか、一番右の石像に近づいた僕は大剣の柄をぎゅっと握る。冷たい石の感覚が手の平を通して伝わってくる。
 もし……これが不正解だったら。ここから出られないでミイラになるだけだ。
「ウオオオオ!」
 自分に気合いを入れるように叫び、目の前の石像をぎっと睨む。
 次に――唇を舐め腰を落とすと、僕は大剣の柄を握りしめた手にありったけの力を込めた。

 一方、ローラたちの目の前には恐ろしい光景が広がっていた。遺跡の入口は跡形も無く吹き飛ばされていて、今や貴重なレリーフたちの半分は見る影もなく破壊されてしまったに違いない。
「やったのか?」
 黒木が顔をしかめて叫んだ。肩のケガのためにとっさに耳を覆う事ができなかったのか、右耳の穴からは一筋の血が垂れている。
「やったぞ! ヤツらはもう粉々に吹っ飛んだんだ。指揮官、もう身体を起こしても大丈夫ですよ」
 デービスがローラの手をとり、身体を起こすのを手伝う。彼女はどうやらケガひとつしていないようだ。
「待って、まだ油断しちゃだめよ。彼らがもし生体なら、現場から血の一滴でも痕跡は見つかるはず。まずそれを確認しなきゃ」
 生き残った傭兵四人とローラ、そして黒木は周りを警戒しながら爆破現場にそろりそろりと近づいていった。
 だが、煙のひいた地面の穴に転がっていたものは……。アポストロスが手に持っていた大型ナイフがひとつだけだった。
「おっかしいわね。血液の痕跡さえ見当たらないわ。まさか」
 顎に手を当てながら穴を見下ろす。
「なあに、もう大丈夫ですよ。きっと血も空気中に霧散したんでしょう。さあ、奥へ進みましょう!」
 残り少なくなった弾倉の弾を銃に叩き込みながら、デービスを先頭に再び遺跡の中に足を踏み入れた。ローラは少し納得がいかない顔をしていたが、土埃で真っ黒になった顔を拭おうともせず、祭壇の残骸の横を通り抜ける。そこには今や石像が一体のみ立っているだけだった。
 そして一行は、翔太たちの通ったと思われる道のりを追った。地下一階は、タイルについた複数の足跡を辿り何とか通り抜ける事ができたが、問題は石の線路があるだけの地下二階であった。ここからはケガをしている黒木にはきつい道のりではあるが、ここまで来たら彼も「痛い」とは言ってられないようだ。
「ここまで来たら行くしかないわね。黒木をフォローしながら降りるわよ」
 ワイヤーとロープで慎重に身体を固定しながら、ゆっくりとその足を線路に一歩踏み出した。

『東京 同時刻』

「あの、部長? 苦労してせっかく手に入れた『RED』なんですから、マニュアル通り育てないと成分は検出できないんじゃないでしょうか」
 実験室の机の上では『RED』の苗が鉢植えから顔を出している。眼鏡をずり上げながら、まだ小ぶりの青い実をつっついている長谷部に向かって真理子が注意する。
「ああ、悪い。だけど、ここをよーく見てくれ」
「どれどれ」
 手を後ろに組んだ真理子が覗き込んだその実には、見ようによっては一対の小さな三角の突起が付いていた。人間の耳に当たる器官のようにも見えるが、その形も相まって非常にキュートだ。
「本当だ! めっちゃ可愛いじゃないですか。写真撮らなきゃ!」
 ぱっと顔を輝かせ、両拳を顎に持って来る。そして思いついたように走って部室からカメラを持って来ると、「うっわぁ、うっわぁ」と言いながらパシャパシャと撮り始める。
「何となくこれに名前をつけたくなるのもわかる気がするなあ。ところでこれ、どっちが育てる?」
 目を輝かせた長谷部はまるで子供のようだ。
「部長はお金を出してないでしょ。当然、あたしが育てます。財布を忘れてクラブに行くなんて言語道断です!」
「ちゃんと返したじゃん。あれから帰って『アダモちゃん』をググってみたよ。真理子くん……くやしいけど、そっくりだった。でも何で君があれを知ってるんだ? 世代がかなり違って」 
「ストップ! まあいいじゃないですか。あの時は、失礼な事を言っちゃってごめんなさい。じゃああたしが実験室の片隅で育てますので、他の部員にはこれに声を掛けないようにちゅ、注意しといて下さいね」
 あの時を思い出したのか真理子は急に顔を伏せ、頬の内側を舌でぐりぐりと回しているようだ。
「我慢してないで笑えよ。健康に良くないぞ。では、今日からデータ取りを君に任せるよ」
「はい。それにしても、翔太くんたちは一体今どうしてるんでしょうねえ」
 急に心配そうな顔になり、窓の外を眺める。
 日本は今日、クリスマスイブだった。


 気合いの声と共に、僕は目の前の大剣を力いっぱい持ち上げた! 
 思いのほかそれはすんなりと地面から抜けたが、ずっしりとした重さがあり、とても長くは持っていられない。
「さあ、どうなる?」
 樹理、ルシャナ、マサト、三ツ井はもう僕の方を見ていない。少しの変化も見逃すまいという風に、その視線は慌ただしく扉と四体の石像を行ったり来たりしていた。
「おい、見ろ!」
 マサトの声で正面のドアに注目が集まった。どんな仕掛けなのか分からないが、僕たちをあれだけ拒んでいた扉が重苦しい音と共に奥に向かって開いていく。それと共に爽やかな、そしてどこか懐かしいような花のような香りが風に乗ってきて僕らを優しく包んだ。
「やったぞ! 正解だったんだ」
 僕はガッツポーズをすると、目をつぶってその風を吸い込んでいる樹理たちの元に走った。
「この香りって、どこかで嗅いだような気がするわ。……そうだ! 翔太、これってイブの花の香りじゃない?」
「本当だ。僕も懐かしいような感じがしてたんだ。でも、なぜこんな所に?」
「そんなの、行ってみればわかるわよ」
「そうだな。よーし! みんな準備はいいか?」
 この先に、伝説のパンドラの箱があるのだろうか。それともまた罠が仕掛けられていて、頭を悩ませるのか。もうここまで来たら「最後まで見届けてやる!」という気持ちにだんだん傾いて行くのを感じた。
「オッケー! 果たして鬼が出るか蛇が出るか。この空気の香りを嗅いだら、もう俺、何か疲れが吹っ飛んだよ」