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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「もうすぐ弾が無くなるわ。各自ありったけの手榴弾を投げてから、森まで全力で走って!」
 残った傭兵たちは腰にぶら下がっている手榴弾を手に持つと、ピンを抜いて一斉に投げつける。同時に後ろを向き、全速力で森に逃げ込んで行く。すぐに爆発音があがり、土埃が辺りを覆う。
 しかし――誰もが予想していた通り、土埃の中から不気味に光る赤い光が現れた。
「今よ! 起爆!」
 入口からアポストロスたちが出た瞬間、ローラのよく通る声が木々の中を走り抜ける。
 かちっ!
 静かな森に起爆スイッチの乾燥した音が響く。
 一瞬遅れて――白い光が辺りを包み、地面は大きく揺れ、鳥たちが一斉に大空に羽ばたいていった。


「翔太ああ! 良かった、無事だったのね」
 樹理が駆け寄り、僕を泣きながら抱きしめる。しばらくは仲間との再会を喜び合っていたが、目の前に構える扉を見て、僕は(まだ終わっちゃいないんだ)と気づかされた。そして、それから五分ほど経った時だった。
「なんだ? この音は」
 音に続き腹に響く振動を伴って地面が揺れ、ぱらぱらと天井から細かいかけらが降り注いできた。遠くで何かが崩れて水面に落下したような水音が聞こえる。たぶんさっきまでしがみついていた線路の一部に違いない。
 ルシャナを守るように覆いかぶさりながら、マサトは天井を見上げる。僕も頭を抱えてしゃがみこむ樹理を守るように、その場に立ちはだかった。
 仲間たちとの無事を確かめるハグがいま終わったばかりだと言うのに、どうやらまた問題が起こったようだ。轟音に伴う揺れは十秒ほどで収まったが、すぐそこの水面は波をうち広場に浅い水たまりを作っている。
「何かが爆発したみたいだな。この分じゃ島全体が揺れただろう」
 三ツ井の言葉に、遺跡が崩れたら脱出する方法はあるのかと考え込む。それに早くこの遺跡を抜け出さないと、やがて食料も尽きてしまうだろう。
「みんなちょっと聞いてくれ。ここに来る途中で……ロバートに会ったんだ」
 一斉に僕に視線が集まる。
「あいつ、まだ生きてたのか?」
 三ツ井の眼に暗い怒りが浮かんだ。
「いや、凄いケガをしていたから、たぶんもうダメだと思う。で、最後にさ、彼は僕に妙なことを言ったんだ。『この先、遺跡の中でもし困ったら、翔太ってヤツが役に立つはずだ』って。どうも僕の背中のアザには秘密があるらしいんだ」
 少し場違いなシチュエーションの中、着ていたシャツを脱いだ。そしてゆっくりと後ろを向いて背中を見せ黙り込む。
「うーん。さっき川で見た通り、『指が一本足りない手形』みたいだな。確かに変な形はしているけど、一体それから何が分かるってんだ?」
 三ツ井は扉まで歩くと、首を振りながらびくともしない扉を軽く蹴った。すると……。その扉の脇の壁がぱらぱらと崩れ始める。今まで叩こうが何しようがビクともしなかったのにだ。
「あれ? 俺、今そんなに強く蹴ってないぞ?」
 何か悪い事をしてしまった子供のような顔でこちらを振り返る。遺跡の老朽化とさっきの揺れも伴い、最後の蹴り一発で壁に限界が来たのかもしれない。
 扉を挟んだ形のその壁からは奇妙な形をした仁王像のような石像が四体、腕を組みながらこちらを睨んでいる様子が見えた。足元には大きな剣がそれぞれの足元に地面深くまでめり込んでいる。それは一階で見た石像に似ていたが、こいつらはそれよりはるかにデカい。
「この扉を守る番人みたいわね。何かこう――威圧感が凄い」
 樹理は僕の背中から顔を覗かせながら、石像を見つめている。
「番人だって? 番人……待てよ。そうか!」
 今や全員が立ち上がってマサトの次の言葉を待つ。何でもいい。いま、この扉を開けるヒントが欲しかった。
「昔聞いた話だから少し違ってるかもしれないが、聞いてくれ。『箱を守る番人は、岩をも断ち切る大剣を持ち侵入者を阻むだろう。その剣で触れた者は、たとえ神であろうと断ち切った。これまで幾千人もの勇者たちが箱の中身を探しに行ったが、帰って来たものは一人もいない』って話だ。まあ、おじさん得意の創作話かもしれないけどね」
「どうかしら。箱がパンドラの箱を指しているならありえるわね。わざわざ壁に塗りこまれた石像が出てきたって事は、その話の信ぴょう性は高いかもしれないわよ。ただ……」
 近くまで行ってその異星人のような姿を眺めてから、くるっと樹理は振り向いた。
「この像はどう見ても、まだ大剣を手に持っていないわ。両手ともまだ『手ぶら』よ」
 軽く肩をすくめる。これはとっくに僕たち全員が気づいていた事だが、ここまで来て神話と食い違う事を僕たちは認めたくなかった。否定することはすなわち、ここから脱出できないかもしれないということになるからだ。
「うーん、背中のアザと番人、それに大剣かあ。良くある話だと、誰もあの剣を抜けないのに翔太だけがすぽっと軽く抜けたりするのよねえ」
 大剣はちょうど大人の男性の背丈ぐらいだ。冗談っぽく聞こえたが、気のせいだろうか、僕を見る樹理の眼は笑っていない。これは「試してみたらどう?」ってことなのだろうか。
「いや、ちょっと待て。一回整理して考えよう。まず、僕の背中のアザは、指が一本無いように見えるんだな?」
「そうね、親指が無いように見えるわ」
「そうか。いくら古代人の仕掛けでも、個人を識別して剣が抜けたり抜けなかったりはしないはずだ。もし抜けるなら、誰がやってもイケるはずだよ。ただ、これも例によって謎かけだとしたら――間違ったのを抜くと、たぶん」
「扉は開かないし、ひょっとしたらコイツらが動き出すかもってことか? なんて香ばしい選択なんだ。四分の一の確率かよ」
 三ツ井でさえ、この話を半分信じかけているような顔をしてつぶやいた。
 そう、こんなのはアポストロスが動き出すのを見ていなかったら、一笑に付すようなバカバカしい話だった。けど、あれを見てしまった者は、ここでは何が起こっても不思議ではないと今感じているはずだ。 
「おおい、みんな。この像の手を見ろよ! こいつだけ右手に親指が無いぞ」
 下から覗き込むようにして、組んだ腕に隠れた手を見ながらマサトが叫んだ。確かに右の親指だけがすっぱりと〈最初から切られていたように〉ついていない。
「本当ね。じゃあ、この剣が正解ってことかな?」 
 ひとつひとつ慎重に確認してみたが、やはり一番右の石像だけ親指が無かった。
「でも待てよ? 神話だと番人は大剣を振るっていたんだろ? うーん。例えばマサト、おまえの右手に親指が無かったとしよう。その状態でこんな大剣を自由自在に振ることができるか?」
 故意に切り取られた、いや、初めから付いていないとしたら必ずこれには意味があるはずだ。
「いや、持つことはできたとしても、ぶんぶん振りまわす事はできないだろうな」
 イメージを頭の中で膨らませているのか、右手を握ったり開いたりしている。
「だよな。ということは、一番右のその石像はフェイクって事になる。でも……ここからが分からないんだ」
「つまり一番右の剣じゃなくて、本物の番人の剣を三本とも抜くのが正解って可能性もあるのよね?」