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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「いや、それはおかしいだろ! タイルの部屋だって無傷だったし、トロッコも最初の位置にあったじゃないか。いったい誰がこれらを修復したんだ?」
 声を荒げてそのまま三ツ井は立ち上がり、二、三歩詰め寄った。だが、ルシャナはじっと目を伏せたままだ。 
「そうか……あなたたちなのね? ひょっとしてあの石像を作ったのも?」
 腕を組み、少し考えてから樹理が口を開いた。その服はびしょ濡れで、彼女は少し震えていたが、その震えは寒さから来たのか、それとも答えを聞くことに対しての恐れだったのかは分からない。
「はい。でも、作ったのは一体だけだと聞いてます。きっとそれが十三体目なんでしょう。まさか、アポストロスが石像に封印されているとは知りませんでした。あれは、この島で生まれ特殊に進化した戦士なんです。もう絶滅したと聞かされていましたから、たぶんあれが最後のアポストロスたちだと……。ところで、昔から地球上各地の伝説に度々出て来る【異形の者】の話をご存知ですか? その中には、彼らの容姿の事を指す文献もあったようです。あなたたち日本人がよく知る【妖怪】や【鬼】などもひょっとしたらそうかもしれませんね」
「そりゃ面白い話だなあ。でも、何でわざわざ一体だけ追加したんだろう。しかも、ロバートの持っていた宝の地図にも十三体描かれているって事は、かなり古くからあったんだろうな」
 マサトが不思議そうに首を傾げる。
「その答えは分かりませんが、島の伝説では『アポストロスを治める者が必要だった』と言い伝えられています。さらに『パンドラはいつか冒険者の手によって開けられるだろう』とも」
「パンドラだって? それはパンドラの箱の事かな」
 伝説のパンドラの箱の事は僕でも知っていた。これもギリシャ神話に深く関わっていたはずだ。
「確か箱には希望と呼ばれる物が残されていたはず。でも、なぜそれを解放する事をこの遺跡は拒んでいるのかしら」
 顎に手を添え、深く考え込んだ様子でうろうろと樹理はその場を廻り始めた。だが、ルシャナはどうやらその疑問の答えを知らないようだ。その代わりなのか、意を決したような表情でゆっくりと口を開く。
「実は――私たちは古の時代から遺跡を守る者なんです。さっきの話なんですが、『オリジナル』は人間に似た、それは美しい女性の形をしていたと伝えられています」
「なるほどねえ、あなたは遺跡の守護者だったのね。にわかには信じられないけれど、その女性がひょっとしたら私たちの本当の先祖だった可能性もあるってことか。ところで、あなたたちはずっとこの島で暮らしているの?」 
「ええ、基本的には。この『始まりの遺跡』を守るために。面白い事に、私たちの仲間の中には資格者と同行したパーティーの子孫もいますよ。私たち同族の血が濃くなりすぎてしまうと、色々問題があるものですから。もちろん、資格者本人はひとりも生き残っていませんけど。たぶん、最初の部屋で落下した女性の方は生きていると思います」
「えっ! 桜子が生きてる?」
 喜びとも驚きともつかない顔をして三ツ井が叫ぶ。その唇はわなわなと震え、それを隠す様子も無かった。
「はい。でも、もう一人は残念ですが」
 哲男の最後を思い出したように、急に皆口を閉じ目を伏せた。だが数秒後、樹理が何かを思いついたのか、いきなり素っ頓狂な声をあげこの静寂が破られる。
「ちょ、ちょっと待って! 今までの話を総合すると、パンドラの箱ってひょっとして地球上のものじゃなくて……」
 静かな、吐息まで聞こえるような静かな空間で、ごくりと喉を鳴らす音だけが伝染していく。ルシャナ以外の顔には、期待と不安、そして当惑の色が入り混じっていた。
 無理もなかった。神話の真実が――この扉の向こうで彼らを待っているはずなのだから。 

「いいぞ、この線路は意外と丈夫にできてるみたいだ」
 今のところ、かび臭い空気に包まれたこの暗闇の中の行進は順調だった。
 僕を見送っていたアポストロスたちの紅い眼は、もうかなり遠くに連なって見える。四つん這いのまま足から先に線路をそろそろと下っていたが、今のこの靴ではもう少しずつ滑り始めていた。この先は靴を脱いで裸足で下った方がいいかもしれない。このままでは呼吸が苦しくなるので、懐中電灯を口から外し腰のベルトにしっかりと挟んだ。
「焦るなよ。ゆっくり、ゆっくりでいいんだ」
 さっきから独り言が口から自然に飛び出てくる。
 この深い闇の中で一人きりというこの状況が、僕の心を激しく揺さぶっていた。大声で叫びたくなる衝動が一分置きに襲って来るが、(下手に大声を出してアポストロスを刺激したりしたら)と思うと奥歯をきつく噛みしめるしかなかった。しばらくは緩やかな下り坂で比較的楽に下れたが、五分ほど下るとそれは前触れも無く急にやってきた。
「おっと!」
 右足が突然空を切った。慎重につま先で着地点を探ると、どうやらこの地点からジェットコースターの始点のような、四十五度ほどの急こう配がこの先に続いているようだった。ここからは更に慎重に進まなければならないだろう。
「そうだ、あれが役にたつかもしれない」
 リュックからルシャナを繋いでいたロープを取り出した。ナイフでカットしたあと、両端に二つ輪を作って線路の背中に勢いをつけてくるっと通す。ここからは縄の摩擦と、それを引っ張る力を頼りに少しずつ降りて行くしかなかった。五メートル降りるだけでも手は縄で擦り切れ、背中の筋肉は緊張で強張って悲鳴を上げだす。額からの汗が目に入るが、それを拭っている余裕もない。このまま出血などで少しでも手を滑らすと、僕のお葬式には遺体の入って無い棺桶が用意されるだろう。
「う……うう」
 ロープの扱いに悪戦苦闘していた時、突然暗闇からうめき声のようなものが聞こえてきた。喉の奥から出かかる恐怖の悲鳴を飲み込みながら、ベルトに挟んだ懐中電灯を片手で取りだし恐る恐る声の聞こえる辺りを照らしてみる。
「た、助けてくれ」
 少し離れた斜め下の岩棚の上に浮かび上がったのは……。血まみれで倒れているロバートだった。ポニーテールの影が壁に映らなかったら、彼だとは分からなかっただろう。どうやら彼らの乗ったトロッコは、更に加速して固い岩の壁にあのまま激突したようだ。光に反射してきらきらと金色の光を放っているのは、粉々になったトロッコの残骸であろうか。
 岩肌に黒い染みがいくつも浮かんでることから推測すると、今まで何人もの人間がこの壁に叩きつけられてきたのかが分かる。ロバートの向こうには、レスターのなれの果てと思われるもう一人の人間が、ぴくりとも動かずに転がっているのが見えた。
「そ、そいつが正解の線路か。……さっきは悪かった。なあ、最後にひとつだけ頼みがあるんだ。俺の息子がニューオーリンズにいる。街で一番デカい自転車屋に俺の親父と一緒にまだ住んでいるはずだ。名前はマット。俺は家にも帰らないでどうしようもない親父だったけれど、『おまえを愛していた』と一言伝えてくれないか」