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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「いいから! これが一番ベストな方法なんだ。僕は親友だろ? マサトが高い所が苦手って知ってんだよ。それに、樹理をまかせられるのはおまえ以外いないんだ!」
 半ば強引に押し込むようにして、その身体を乗り込ませた。そして間髪入れずにトロッコを押しはじめる。
 ごとん!
 まず樹理の乗る一台が動き出した。僕はすぐに隣に走り、ルシャナたちの乗るトロッコを力いっぱい押す。本当は一人乗りじゃないかという狭い箱の中で、ルシャナは震えながら僕をじっと見ていた。
「後から必ず追いつくから。それまでにみんなとたくさん話して、もっともっと仲良くなっとくんだぞ」
 ウインクしながら笑いかける。しかし、この時僕の頬は少しひきつっていたに違いない。
 本当に追いつけるのか? この石の線路が一体どこまで続いてるのかも現状ではまるで分かってはいないのだ。
 ルシャナは少し表情を和らげて、こくんと頷いた。同時に最後のトロッコが坂をゆっくりと滑り出す。
「翔太ああああ! 待ってるからなああ!」
 ツンツン頭を風になびかせながら、マサトの姿はだんだんと遠ざかって行く。
「おう、必ず行く!」
「こわい、こわいって――翔太こわいいい!」
 樹理もマサトの後ろから首だけを曲げ僕に向かって大声で叫んでいたが、こればかりはどうしようもないので、とりあえず手を大きく振ってみた。
 スピードが乗るにつれみるみるその声は遠ざかり、やがて「うっわあああああ!」という叫びが奥の暗闇から聞こえてきた。だが、それはロバートたちの声とは違い、例えるならジェットコースターの急な下りに差し掛かかろうとする人間の叫び声に似ていた。幸運な事に衝突音は聞こえてこない。 
「思わずカッコつけちゃったけど、あーあ、なんて深さだよこれ」
 マサトから渡された懐中電灯で足元を照らしながら、恐る恐る線路に一歩踏み出した時だった。
「うお!」
 首筋に冷たい感触が走る。一瞬、銃口を突き付けられたかと思い、身震いしながらしばらくフリーズしていた。
 もう、どうにでもなれ!
 動くと何が起こるか不安だったが、ただならぬ気配に我慢できず思い切って後ろを振り向くと、紅い光点がふたつ僕の背中の真後で光っていた。そう、僕の首筋に当たっているものはアポストロスの伸ばした指先だったのだ。
 埃が落ち着いた今、まじまじと見るとその顔はまさに異星人そのものだ。その身体には石像だったころの名残だろうか重そうな石の塊が所々にくっついていて、地肌はさながら爬虫類の固い鱗のようだった。そいつの肩越しにその先に視線を走らせると、そいつの後ろには行儀よく紅い点がずらっと並んでいるのが見える。
 思わず叫びだしそうになったが、悲鳴を噛み殺しながら線路にジャンプしてしがみつく。だがこの時、頭の中には恐怖感と共に、違和感も充満していた。アイツは右手に恐ろしい大型の刃物を持っていた。なのになぜいきなり僕を切りつけなかったのか?
 懐中電灯を口に咥えたまま、猫のように四つんばいになって少しずつ線路を下り出した。もちろん足が下になるように。おかげでアポストロスの動きが良く分かった。
「あれ?」
 思わず歯の隙間から言葉が出た。意外なことに、ここでやっとヤツらから攻撃的な意志を全く感じないことに気づく。
 それどころか……。
 何か観察してるような、見方を変えると、僕に何かを問いかけているような印象を受けたのだ。ヤツらは崖のへりにきっちりと一列に並ぶと動きを止め、全員が身体をこちらに向けた。そう、例えるなら――仲間を見送る騎士のように。
 ひょっとしたら、アポストロスは『全問正解』を達成した人間を称えていたのかもしれない。少なくとも今は、もうこれ以上追いかける意思は無いように見える。
 だが、彼らが見送るこの先に僕らを待っているものは、ルシャナが言ったように『キボウ』なのか、それとも『ゼツボウ』なのか、今は僕にも、いや誰にも分からなかった。

「うわああああ!」
 その先は、まるで暗闇を切り裂くジェットコースターのようだった。マサトの後ろでは樹理が固く目をつぶり、その背中にきつくしがみついている。少し後ろを疾走するもう一台のトロッコの中では、げっそりとして頬骨が出た三ツ井が、まるで死んだ魚のような目をしながら首をがくがくしていた。ひょっとしたら彼は、この時もう失神していたのかもしれない。
 突然、高々としぶきが上がり、二台のスピードが線路まで浸かった水の抵抗により少しずつ落ち始める。そしてゆっくりと止まった先には、古い石畳の広場がまるで彼らの到着を歓迎しているように広がっていた。ただ、恐ろしい事にゴール地点に繋がる線路は――やはりたった二本しか用意されてなかった。
 そう、彼らの乗ったその色が唯一の『正解』だったのだ。
「ありがとう、ルシャナ。あなたの機転のおかげだわ」
 樹理は恐怖で強張った足を延ばしながら正解の箱をまたいで降りると、ルシャナを降ろすのに手を貸す。そのわずかな振動で、石の車輪がまるで役目を果たしたように音も無くそっと砕けた。
「とりあえず、無事にここまでこれたわね。……翔太の事は心配だけど」
「なあに、彼ならきっと大丈夫だよ。絶対に俺たちに追いついて来るさ」
 心配そうな樹理の言葉を受けて、三ツ井が元気づけるような口調で答える。そして皆、今までの恐怖から解放された顔をしながら、冷たい石畳の上にぺたんと腰を下ろすした。
「なあ、本当にその先に『キボウ』があるのかな」 
 しいんとした空間の空気に耐えられなかったのか、目の前でその存在を主張している大きな石の扉をマサトが指差した。その顔はまだ青白かったが、口調はしっかりしてきている。高い所が苦手な彼には、トロッコに乗っている時間こそが地獄の苦しみだったであろうことは想像に難くない。
「たぶん、私たちだけじゃ開けられないと思います。『彼』がいないと」
 突然のルシャナのその言葉に、みんなの驚いた視線が彼女に一斉に注がれる。
「彼って誰のことだ? まさか……翔太か?」
「そう、資格を持つ者。人間の遺伝子の中を何世代にも渡って旅してきた、『オリジナル』の特殊な情報を持つ者じゃないと。そして、その人間には特別な『しるし』があるのです」
 流暢な英語だが、声変わり前の少年のような少し不安定な声で答えた。
「オリジナル? しるしだって? ちょっと待てよ! 翔太は普通の寿司屋のせがれだぞ? 何であいつにそんな力が」
「魂を持つ者は、人種や年齢、性別に関係ありません。……百年ほど前にもここに来た人たちがいました。その人たちはロシア語を話していたって長老から聞いています。でも結局、この場所まではたどり着けなかった」
「ほう? どうなったんだ、そいつらは」
 三ツ井が興味津々な様子で身を乗り出す。 
「あなたたちと同じ、いえ、もっとひどい争いがあったようです。暗くて気づかなかったでしょうけど、太陽神の部屋の壁一面には黒い染みがたくさんついていました。さっきの部屋も同じです。それは今まで訪れた資格者たちの血なんだと思います」
 悲しそうな眼をしながらうつむく。