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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「はい、元気にやっています。母も行きたいって言ってましたが、今日は男同士の話があるって言って断りました」
「んん? 男同士の話だと? ひょっとして彼女でもできたか。もし結婚を考えているなら早い方がいいぞ。おじさんの所には子供が出来なかったから、早くマサト君の子供を見せてくれ」
 顎に手を当てて、ニコニコしている。
「ち、違いますよ。彼女はまだできません。今日はこれを見てほしくて」
 ポケットから例の小さな皮袋を取り出した。万が一を考えたのか、ビニール袋に丁寧にしまってある。
「これは……何だ? まてよ、何か絵みたいなものが描いてあるな」
 博之の目はその絵に釘付けだ。ビニール越しにあらゆる角度から食い入るように見ている。
「確か、ナスカの地上絵にこれと似たようなものがあるね。十三世紀に栄えたインカ文明の絵かもしれない。ところで、これはどこで手にいれたんだい?」
 おじさんの優しい目が、プロの目に変わっていくのをマサトは不思議な顔で見つめている。
「友人がインドの商店で無理やり渡されたと言っていました。ムンバイらしいですが」
「ほう。ではその友人にもぜひ今度会ってみたいね。彼は商人にこれを渡される時に、何か言われたとか君に話さなかったかな?」
 答えを待つ間、口に握りこぶしを当てながら考え事をしているように部屋の中をうろうろと歩き始めた。
「翔太って名前の友達なんですけど、そういえば……『君は十万人目だ』みたいな事を言われたらしいです。昔おじさんが僕に『十万人目の少女に死を』って外国の話をしてくれたのが引っ掛かって。一応見てもらおうかなと」
 マサトはここで昔を思い出すように目を細める。
《はるか昔のこと。ある秘密結社が、予言に記された人物を探す事となった。『教会を訪れた十万人目の少年を手厚く招き入れよ』と。予言の書には、【その少年は外国人で、黒い髪に低い鼻を持ち、背中には奇妙な形のアザがある。彼の力によって我ら秘密結社は絶大な力を発揮し、三百年に渡って栄えるであろう。しかし、十万人目が少女だった場合は即座に殺さねば災厄が訪れる。その場合、そこから再び正確にまた十万人を数えなければならない】と書かれていた》
 この物語には続きがある。
《三回の十万人目を数えた時、その時はやってきた。みすぼらしい格好をした外国人の少年が、ついに教会の門を叩いたのだ。司教たちは内心狂喜し、その少年を手厚くもてなした。そして「背中を見せなさい」と司教はおごそかに言った。少年がはだけた背中には奇妙な形のアザが見て取れた。しかし、一つ問題があった。それは、汚れた格好をしていたので分らなかったが、その少年は実は『少女』だったのだ。結局、そのしるしを信じた司教たちは、強引に彼女を組織に迎えてしまう。――その少女こそが後の〈フリーメイソン〉をこれだけ大きくした立役者であった。ただ、ひとつだけ彼女にとって不幸な事があった。そう、彼女は生涯『男性』として過ごさねばならなかったのだ》
 この話を聞かされた時、マサトは何故か少女の心境が理解できたようだ。
『貧しい暮らしに戻るよりは、男として生きる』という選択が世の中には起こりえると。まあ、ただの作り話かもしれないが、子供心に強く印象に残った話だったらしい。
「そうか、あの話をよく覚えていたな。おじさんも過去の文献から、面白そうな話をかいつまんで創作したからね。ところでマサトくん、この袋の中には一体何が入っていたんだい?」
 博之の声はいつになく真剣だ。
「何か木の実が一粒入っていたらしいです。鉢に植えたら、みるみる伸びちゃったって……。そいつ笑っちゃうことに、その植物に『イブ』とか名前つけて可愛がっているんですよ」
 可笑しそうに笑いながら答えた。
「イブ? イブだって? 彼は確かにそう言ったのか?」
 その目は大きく見開かれていた。表情はこわばり、何か亡霊を見たような驚きの表情を浮かべている。
「ど、どうしたんですか?」
「……いや、何でもない。今度、その翔太くんに会わせてくれ」
「分かりました。ではこれは置いていきますので、何か分ったら連絡下さい。あいつはきっとこの袋の事なんか忘れてますから、ゆっくりでいいですよ」
 そう言うと、まだ少し放心状態の博之を残したまま、マサトは彼の家を後にした。


 麻薬

 マサトたちがカレーを作りに来てから二日が経った。
 僕は相変わらずバイトが忙しく、睡眠時間も割いて働いている。最近は寝不足も手伝って、少し精神状態もヘンになっていたのかもしれない。
「たっだいまあ! イブちゃんいい子にしてたかな?」
 アパートの鍵を机に放り投げ、窓辺の鉢に声を掛けるのがいつものルーチンになっている。もう、僕の唯一の生きる楽しみといっても過言では無かった。
 今ではその植物は青々とした葉を付け、さくらんぼに似た実が四つぶら下がっていた。日ごとに赤く色づいていく実は何か女性のほっぺたを連想し、すごく愛しく感じられた。
 翌日になると『イブ』はこれ以上無いほどに赤く色づき、甘い芳香を放つようになっていた。
「これ、食べれるのかな?」
 もちろん果物なんてしばらく口にしていない。いつものコンビニ弁当には果物など入っていないからだ。
 その日の夜、バイトから帰った僕はいつものようにイブに声をかけた。まるで僕の帰りを待っていたかの様に赤い実がぽとりと落ち、窮屈そうに土の中に少しだけお尻を埋めた。
 当然のように、そう、至極当然のように抵抗なくそれを僕は口に放り込んだ。
 なんだ? これは。
 今まで食べたことのあるどんなフルーツよりも甘く香り、みずみずしかった。噛んだ瞬間、口の中で果実がはじけ幸福感で頭がいっぱいになっていく。
 何と言う陶酔感! 
 酒に酔ったように頭がぐらぐらして手が震えた。そして目をカッと開いたまま後ろに倒れこむ。すぐに〈人生でこんな幸せを感じたことがあるのか〉という程の快感が、全身を駆け巡る!
 覚せい剤や大麻、ヘロインの作用は聞いたことがある。しかし、この多幸感と陶酔感はこの快感に比べたら大したことは無いんじゃないかとさえ思った。
 そして、その状態は『二十四時間』続いた。
 一睡もしていないのに目は冴え、お腹も空かなかった。ただ外に出る気だけは全くしない。何故なら、留守の間に万が一にもこの実を誰かに盗られたくないからだ。もしこの実が無くなったことを思うと、死んだ方がましだとさえ思う。うまく表現できないが、〈自分の人生で思いつく限りの幸せを一度に味わえる〉という感じだ。
 バイト先からはひっきりなしに着信があったけれど、今の大事な時間に比べたら些細なことであった。何度か人が訪ねて来たようだが、その都度居留守を使ってひたすら陶酔感を味わっていた。ここまで来ると、もう完全な中毒者である。
 赤い実にはインドでもらったモノと同じような種が、それぞれに一つずつ入っていた。それぞれと言ったのは、僕は四日間連続で不思議な果実を食べてしまっていたからだ。もちろんその間、食事や睡眠は一度もとっていない。
「増えた……。イブが増えた」
 驚くべき事に、最初に食べた実の場所には、もう再び青い果実が膨らみだしていた。