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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「マサト、あの先には何があると思う?」
 この時、僕は少し声が震えていたかもしれない。なぜなら、〈もう地下に降りる階段は存在しないから〉だ。言い換えると、これに乗るしか生き残る方法は見つからなかった。だが石の線路の下には深い闇が広がり、もし落ちたら生きる可能性うんぬんでは無く、今度こそ確実な死が待っていることだろう。例えるならば、ここは底の無いプールの飛び込み地点にいるようなものなのだ。飛び込み台の盛り上がった場所がちょうどトロッコの位置と考えていい。
「そうだなあ。乗ってみないことには分からないな。でもな、ただカンで乗る訳には行かないぞ。俺たちはこれまで謎を解いて生き残ってきたんだ。きっとここにも秘密があるはずだよ」
「ああ、地図が使い物になればね。あと、ひとつ聞きたいんだけど、アポストロスって何のことか分かるか?」
「アポストロス? ……なぜ翔太がそんな言葉を知ってるんだ? まあいいや、アポストロスってのはギリシャ語で『使徒』を指すんだ。普通は十二使徒を表すものだけどな。他には三という数字も彼らは特別扱いしていたようだ」
 最後の方のマサトの言葉は耳に入って来なかった。『十二使徒』だって? だが、最初に入った部屋の石像の数は確か……十三体だったような。 
 ごっとん!
 この時、当然のように頭上で扉が閉まったが、もう誰も驚く者はいなかった。戻る道が無いことなど、とうに全員が理解していた。
「なるほどな、ありがとう。ところでロバートさん、レスターさん。少しあの辺りを照らしてもらえませんか?」
 こうしている間にも、頭上では重い足音がだんだん近づいて来るのが分かる。埃がきらきらと舞い落ちる空間をライトが舐めまわす。
「これは?」
 良く見ると、六台のトロッコには明らかな違いがひとつある事に僕は気づいた。
 壁に背中をつけて番号を振ると、左から一、二番目は金色。そして三、四番目は銀色。そして最後の五、六番目はただの石の色、すなわち灰色をしていた。
「これに乗らないと次に行けないって事か。おい、何かこの地図にヒントは無いのか?」
 ロバートに手招きされた僕とマサトは、地図を真剣に覗き込む。だが、隅から隅まで穴のあくほど見つめても、半分にちぎれた地図からは何の情報も得ることは出来なかった。
「ねえマサト、何か神話的なもので思い出せるものは無いの? ここまではギリシャ神話が関わってきたじゃん?」
 プレッシャーをかけないように軽い調子で言ったのだろう、樹理のこの言葉でマサトは頬を緩め少し考え込むが、今回は何も浮かばないようだ。頭上の足音が常ににぎやかに重い音を奏でているこの状況では無理もない。
 中央にある銀色のトロッコの周りでは、しばらくお通夜のような沈黙が続いていた。その間に僕は懐中電灯を借り、付近を更に詳しく調べ出した。
 何か、何でもいいからヒントを見つけ出さなければ。このままでは、運を天に任せて乗り込むしかなくなる! 石の線路を歩いて行く手もあるが、体力も限界な上にこの暗闇では恐怖に飲み込まれていつかは落下してしまうだろう。第一、ヤツらがここに降りてきたら途中で線路自体が破壊されてしまうかもしれない。
 結局分かった事は、単純に後ろから少し力を加えてやればそのままコイツは滑り出すという事だけだった。もちろんブレーキなどのレバーは無い。残念なことに、期待していたような特別な紋章などはついに見つけることはできなかった。
「ダメだ。ヒントは色だけ。これは僕の考えだけど、ここが太陽神を祭ってある神殿だと仮定すると、金色が正解かもしれない。でも、それだと初めから四人しか助からない事は目に見えている。逆に、一人が一台ずつ乗れば誰かはたぶん正解の場所に辿り着くだろう。でも……」
「これは罠で、最初から正解なんて無くて全滅しちゃうかもって事ね」
 僕の言葉を樹理がひきついで答えた。彼女の言うとおり、これは侵入者に止めを刺す罠なのかもしれない。
「もういい! では私が決める」
 いらいらした様子のロバートが大声を上げて、銃を僕たちに向かって構える。
「私とレスターは二台ある金色にひとりずつ乗る。あとは好きにするがいい」
 そう言うとすたすたと金色のトロッコに近づき、レスターと隣同士でそれぞれ乗り込んだ。そして思い直したようにこちらを振り向き、とんでもない事を言い放つ。
「ただ、俺たちが出発するのは、〈お前たちがスタートした後〉だ。おっと、大事な事を言い忘れていた。お前たちは二人一組で銀色の一台と灰色の一台に乗るんだ。つまり、銀と灰色を一台ずつ残すんだ。一人余るが、そいつは場合によっては一緒に連れて行ってやってもいいぞ。分かっていると思うが、時間はあまり残されていない」
 この発言を聞いて、このロバートという男は狡猾だと確信した。まあこの方法なら、確かにわずかだけれど全員が助かる可能性も残されている。銀と灰色が正解の時だけ、ロバートたちと残った一人はその色に乗り込めば全員助かるだろう。
 だが、正解と思われるトロッコを確実に導き出すためなら、もっと簡単な方法はある。ただ、この簡単な方法を選んだ場合、正解が一色だと仮定すると、生き残れるのは『二人のみ』になる。
 まず、各色の一台ずつを先に無人で走らせる。見える範囲で一番安全そうだったやつに乗ればいい。しかしその場合、残った色の安全なトロッコには『二人』しか乗れないから、たぶん僕らは銃で脅されて置き去りになる可能性が高いし、場合によってはその場で殺されてしまうかもしれない。
 先ほどのロバートの方法だったら、不正解の場合は僕らを始末する手間が無くなるし、正解も同時に分かるから一石二鳥じゃないか。逆に、金色が正解だったら余った一人も〈殺されない限り〉生き残れるはずだ。もし僕たちの色、つまり銀と灰色が両方正解なら七人全員が助かるのだが、この遺跡はそんな甘い設定だとはとても思えない。単純に考えても、一色が正解だった場合、四人が生き残り三人は確実に取り残されてしまう。
「自分たちの手をなるべく汚したくないってか」
 三ツ井がそっとつぶやいた。彼もロバートの真意が分かったようだ。この男たちが、僕たちに死のリスクを負わせてまで正解を導き出そうとしていることも、ちゃんと理解しているらしい。
「何だってー? 良く聞こえないが、別にもっと簡単な方法を試してもいいんだぞ。だが、全員助かるにはこの方法しか無いんだ」
 三ツ井の言葉が聞こえたのかは分からないが、ロバートが大声で叫ぶ。
「俺たちの背中が見えなくなる前に線路が壊れたり、奥で断末魔の悲鳴が上がったら、自分たちの乗っているヤツが正解。もし問題が無かったら、銀か灰色に乗り換えるつもりなんだろ。きったねえよなあ」
 マサトもやっと理解したのか、両手を広げ顔をしかめたその刹那! 僕たちの後ろでとんでもない事が起こる。
「ルシャナ! お、おい、一体何を!」
 完全にその存在を忘れていた僕も悪かったが、このあと彼女がとった行動に一瞬誰もが自分の目を疑った。
「ううーん!」