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かざぐるま
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novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 同じころ、大沢博之は成田から自宅へ直行してパソコンのキーを叩いていた。ナスカで実際に見てきた事や、『禁断の実』に関係する資料を次々に打ち込んでいく。この一時間というもの、静かな書斎にはキーボードを叩く音と、夕方から降り出した雨の音だけが聞こえていた。
「こりゃ驚いたな……。これから導き出される結論はひとつ。『禁断の実』とはパンドラの箱に関係が深いとしか思えない。正確にはパンドラの壺だが。おっと、もうこんな時間か。マサトくんと教授に電話をしなければ」
 マサトの電話は呼び出し音はするが通じなかった。次に教授の番号を回す。
 呼び出し音を待つ時間も惜しいかのように、受話器を耳と肩に挟みながらキーを叩きづつける。
「はい、高槻ですが」
 教授の少し暗い声が電話口に出た。
「ご無沙汰しています、大沢です。先ほど成田に着きまして、取り急ぎ自宅で『禁断の実』関係の資料をまとめているところです。あの――教授? どうかされましたか?」
 しばらく返答が無かったので、キーボードを叩く博之の手が一瞬止まった。
「あ、すまんすまん。少しぼーっとしていた。お帰り、大沢君。あちらはどうだったね?」
 普段ははっきりと自信満々に話す高槻教授だったが、いつもと違う奥歯にものが挟まったような話し方に、博之は眉根を寄せた。
「大丈夫ですか? 何か声が疲れていますけど。あの、早速ですが今まで分かったことを報告します。いま調べている『禁断の実』は、あのエデンの園にあった『イブの実』では無かったと私は先ほど結論付けました。むしろ、ギリシャ神話に出て来る『パンドラの箱』に関係が深いのです。パンドラという名前の起源は、【全ての贈り物】という意味であることは存じだと思いますが、私の解釈によりますと……。よろしいですか? これは突拍子もない話なんですが」
「なんだね?」
「これは――この実には、地球外生命体が深く関わっているものと私は考えています。例えばウイルスというものは、一体どこから来たのかは未だに解明されていません。人間の細胞にとり付き自己を増殖させるのが仕事です。教授は『バクテリオファージT4』の奇妙な姿を見た事はありますよね?」
「ああ、頭は正二十面体で六本足で歩行し、ドリルで細胞に穴をあけて遺伝子を注入するウイルスだろ? 確かにあれは一度見たら忘れられない。まるで人工物のような恐ろしい姿をしているな」
「ええ。六足歩行の完成されたロボットのようですからね。未来のナノマシンといっても過言ではありません。では、あのようなウイルスは、果たして地球上で自然にできたとお考えですか?」
 博之の声は興奮でうわずってきている。
「ナノの世界には不可解な事が多いのは知っている。しかし、それとパンドラの箱とどんな関係があるんだ?」
「そうですね。ギリシャ神話によりますと、パンドラの箱、まあ壺という説もありますが、そこから飛び出て来たのは、一様に人類に悪影響をもたらす災厄だったと書かれています。すなわち病気や盗み、悪巧みや憎しみなどといったものです。神話では箱の底には『エルピス(希望)』だけが残されていましたが」
 ここでいったん言葉を切る。
「ふむ。その神話の解釈はいろいろあるがな。まあ、その希望というものが中に閉じ込められてしまったために、災厄も止められなかったというのが一般的だね」
「ええ、ではそれを踏まえて続けます。開けるまでは今まで災いというものがなかったのに、箱を開けてしまったがために人類は疫病などに苦しむことになったと多くは解釈されていますね。どうやら、『禁断の実』はそのひとつに含まれていたか、パンドラの箱に付着していた未知の植物の胞子だったという可能性があります。そう考えれば、古代から伝えられる儀式用に使われた食べ物に、未知の成分が含有されているとしても納得がいくでしょう。【いけにえが笑いながら死んでいく】という奇妙な絵の話もこれで少しは理解できます」
「なるほど、災厄のひとつか。じゃあ、パンドラの箱の中身は『種』だったということかね?」
「いえ、便宜的に種と書かれている文献もありましたが、私の見解は少し違います。ナスカでの地上絵のデータを詳しく分析した結果……。パンドラの箱とは、実は墜落した『地球外生命体』の船ではないかと私は考えています」
「そんなバカな! いくら君の意見でも、いま一瞬耳を疑ったぞ」
 あきれた声が返って来る。受話器の向こうでは、きっと苦笑いを浮かべているに違いない。
「果たしてそうでしょうか。地球という細胞に寄生することにによって自らのコピーを増やし、宿主を破壊してしまう。これは、ちょうど何かにそっくりではありませんか?」
「我々――人類のことを言っているのか?」
「その通りです。パンドラの箱、つまりその宇宙船には、我々の想像をはるかに超えるものも一緒に入っていたんです。あくまで私の見解ですが、種とともに出てきたのは、『人間そっくりの何か』だった可能性があります。例えば、それは美しい女性の形をしていたのかもしれません」
「ふん、女性だって?」
 バカバカしい話だと言いたげな口調だが、実は相当興味を惹かれているようだった。
「はい。そしてそれらが交配を重ねた結果、今まで善良だった人間の遺伝子を変化させて、地球という一つの大きな細胞で増殖し、地球の環境をもの凄い勢いで破壊しているのかもしれません。地球と共生してきた人類はこの時を境に変わってしまったのです。そしていま我々が暮らしている現代文明こそが、災厄の結果の一つだと私は思っています」
「もしそれが本当ならば、歴史がひっくりかえるぞ。では、その『人間そっくりの何か』と、元から地球にいた人類とのハイブリッドが、現在の人類ということになるな。面白い説だが、やはり私には信じられないね」
「純朴なそれまでの人類に対して、ウイルスを含む凶暴な面を持ったヤツらが交配することにより、遺伝的に現在の人類はいろいろな災厄に見舞われているとも考えられないでしょうか」
 ゆっくりと時間をかけた後、教授は口を開き次の言葉を発した。
「ふむ、なかなか面白い。それでは最後にひとつだけ聞こう」
「なんですか?」
「一つだけ残ったと伝えられている『希望』とは、一体なんだったのだね?」
「それは、ナスカの地上絵にヒントがありました。私はある文献から『Hands(手)』と呼ばれている絵に辿り着いたんです。その絵の特徴として左手には五本の指がありますが、右手には何故か四本しか指が無い。左右対称の絵が多い中で、なぜこの絵だけがこのように描かれたのか。パンドラの箱に入っていたものは十個の災厄でした。もちろん先ほどの『人間そっくりなもの』も含めてです。では、どうして指が九本なのか」
「すなわち、その足りない指が――『希望』だと言いたいのかな?」
「そうです。そしてナスカの地上絵全体を数値化して、私とアメリカのチームが組んだプログラムに当てはめてみると……」
 博之の手がすっとマウスを撫でると、パソコン画面が切り替わり、地図が表示される。
「もったいぶってないで、早く話しなさい」
 この謎解きにかなり興味をひかれたのか、教授の声は前よりも弾んでいた。