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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 レスターの持つその銃を見た僕の頭に、ひとつの恐ろしい作戦が浮かんだ。いくら銃を持っているといえ、このタイルの上を移動する時には、常にそれを突き付けている訳にはいかないだろう。つまり、足元に注意がいくために隙ができる。その時に少しだけ彼らを押してやれば、他がトラップだとしたらそこに落とす事は可能なはずだ。しかし……下手すれば人を間接的に殺す事になってしまうかもしれない。果たして僕にその決断はできるのか? その考えを打ち消すように頭を振ると、ふと暗がりに立つ中央の石像にぼんやりと目をやった。
(ん? 何故あの太陽神の像は、左手に剣を持っているんだろう? 普通は左手には持たないはずだ。待てよ……」
 石像の左手に長剣が握られ、斜めに振り下ろされている姿はさっき確認した。この時僕の頭の中を何かが電気信号のように走り抜けていく。
「レスターさん。懐中電灯であの剣の先あたりを照らしてもらえませんか?」
 レスターは渋い顔で立ち上がると、剣の切っ先が示す場所にあるタイルに光を集める。
 そこには……。
 思った通り、はっきりとひとつ【星の絵】が浮かび上がっていた。
「そういう事か翔太! あれはそれぞれの星座が持つ赤い星を指しているんだな? じゃあ、あの場所はオリオン座のベテルギウスか、もしくはさそり座のアンタレスを指しているということになる。それが正解のルートだとしたら、あの位置の星は確か……」
 顔を紅潮させたマサトが、地図に書き写した図形を指で確認する。僕も目でそれをすばやく追う。
「アンタレスだ!」
 僕たちは同時に叫んだ。


『ハワイ州・オアフ島 アメリカ海兵隊キャンプ』 同時刻

「あれだな、特別命令が出ているっていうヘリは。ところで、君の名前はなんて言ったっけ? 何度聞いても覚えられない」
 戦闘ヘリの飛行時間が一万時間を超えるベテランパイロット、ライオネル小尉が少し困った顔をしながら隣を歩く若い兵士に話しかける。先ほど到着したV-22オスプレイは、もう二人の百メートルほど先に駐機されていた。
「は! 政府筋からの命令により、今回特別任務を任されましたスペリウッド二等准尉であります!」
「ああ、そうだったな。よろしく頼むよ」
 今日何回目かの敬礼をするスペリウッドを横目に、ライオネルはずんずんと駐機中のヘリに歩いて行った。ヘリまであと十五メートルほどに近づくと急に立ち止まる。
「おい、あいつらは誰なんだ?」
 オスプレイのタラップを重装備で登って行く一団を見て、あきらかに不快な表情を浮かべる。
「は! 今回の特別任務を共にする【第七十五レンジャー部隊】の隊員たちと聞いております」
「ほう、驚いたな。フォートベニングからエリート様がわざわざ来たってのか? 一体何なんだ、今回の作戦は。私を名指しで指名してきた事といい、隠密作戦にしては力が入りすぎじゃあないのか」
 スペリウッドを振りかえって肩をすくめる。
「簡単なミッションだ。何も聞かずに気楽に飛んでくれたまえ」と、ドナルドソン中佐からライオネルが直々に命令を受けたのは、まだ数時間前の事だった。 
「そうですね。何でも、武器産業大手のアヤノコーポレーションが絡んでるそうです。あ、どうやらあの人が指揮官のようですね」
 スペリウッドの視線をたどったライオネル中尉は、次の瞬間あきれたようにぽかーんと口を開けた。 
「おいおい、冗談はやめてくれ。あれはまだ子供じゃないのか?」
 その女性は美しい金髪をローターの風になびかせ、東洋系の男を従えて立っていた。ここオアフ島の気温は二十三℃と快適だったが、日差しはかなり強い。少し肌を出しているだけでも日焼けしてしまうだろうに、彼女は半袖から細く引き締まった白い腕を覗かせている。豊かな胸を覆うカーキ色のTシャツと、だぼだぼの軍用のズボンが髪の色とミスマッチして、妙な色気を醸し出していた。口を開けたままのライオネルをよそに、彼女は隣の東洋系の男と短く話した後、目を細ながらゆっくりとタラップを降りてきた。
「初めまして。私は綾小路ローラと申します。今回の作戦は、我が社独自の情報網を駆使して立案しました。あなたたちがパイロットですね? どうぞよろしくお願いします」
 滑らかな英語の発音だった。彼女のブルーの瞳にじっと見つめられたライオネル少尉は、前言を撤回する必要を感じたのか、ローラに対する見下したような態度をすぐに直す。
「こちらこそ。あの……あなたはひょっとしてアヤノコーポレーションのお嬢さんでは? どこかで写真を拝見したことがあります」
 その魅力的なローラの姿にすっかり打ちのめされた様子で、二人ともいつのまにか敬礼までしてしまっていた。
「ええ。でも正直、父の仕事はあまり好きではありませんけどね。――では、ここで簡単に作戦を説明します。この作戦は『サーチ&レスキュー』です。ターゲットは日本人三名。まずこのオスプレイを探索に使用し、目標発見後は上陸作戦の援護に戦闘ヘリ、アパッチ一台を使用します。二千キロメートル航行ごとに、プローブ&ドローグ方式でKC‐130から給油する予定です。しかし、これは暫定的な処置であり、万が一アパッチの攻撃能力を上回る反撃を受けた場合、バックアッププランとしてF-22ラプターをスクランブルする可能性もあると覚えておいて下さい」
 顔色ひとつ変えず、一気に作戦内容を説明する。
「なお、これは『軍の記録上』は隠密作戦になります。では、何か質問があればどうぞ」
 少し口元を緩め、ライオネルたちをゆっくりと見廻す。
 目をぱちくりしているパイロット二名は、その作戦の規模と、彼女の無駄の無い説明に心底驚いた様子だった。この作戦にはとてつもない権力と大金が動いているのを理解したのだろう。
「あ、ああ。今サーチと言ったけれど、どこを主に探索するんだい?」
「大体の位置は絞り込めています。ここオアフ島を中心として南西二千五百キロが捜索範囲となります。同時に衛星からのフォローも見込めますが、作戦海域の監視時間と燃料が限られているゆえ、作戦完了は二十四時間以内を予定しています。ただ、対象はおそらく無人島だと推測されますので、着陸地点の確保は難しいでしょう。その場合、レンジャー部隊の投下作戦を決行します。もちろん、私とこの黒木も降りますわよ」
 最後の方は少しおどけた様子で黒木を見る。
「ええっ? 訓練だって二時間程しか受けていないのに大丈夫なんですか? というか、それって当然私も行くんです……よね」
 ローラが行くと言うなら仕方がないという風に、「またか」と肩をすくめた。
「給油は六十分後に終了します。作戦開始はヒトヨンマルマル時。各自それまでくつろいで下さいね」
「ヒトヨン? なんだって?」
「十四時のことよ、ハンサムな兵隊さん」
 悪戯っぽい笑顔のまま、色白の細い指先をぴっとこめかみに持って行く。南国の太陽を浴びながら、風になびく髪をそのままかきあげるローラの姿は、さながらシャルル・ランデルの描いた『セイレーン』のようだった。