小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

禁断の実 ~ whisper to a berries ~

INDEX|31ページ/56ページ|

次のページ前のページ
 

 重いものが閉まる音が頭上で響いた。しかし、もう叫び声や驚いた声を出す者は一人もいなかった。何故なら、僕らはもう何となくここのルールに気付いていたからだ。そう、〈戻る道が無くなっていく〉という仕組みに。だが、退路を断たれた後の室内の不気味さは、例えようも無く不快で皆軽いパニックに襲われ始めていた。人間は重苦しい程の暗闇に得体の知れない原始的な恐怖を抱くものだ。
「この暗さじゃどうにもならん。レスター、おまえの懐中電灯も出せ。なるべく電池は節約したかったが仕方がない」
 レスターは自分のリュックから懐中電灯を取り出すと、こわごわ周りを照らす。 
「これは……一体何なんだ」
 この時は、誰もが息を飲んだ。斜め前のマサトの喉仏が動くのも見える。
 照らされた室内はがらんとした何も無い空間だったが、中央にのみ巨大な石像が据えられていた。天井に埋め込まれた黄金でできた丸い太陽を頭上に従え、長剣を斜め下に構えながら凛々しく立つその姿は、誰の目にもそれが『太陽神』に映ったに違いない。
 そしてその足元、いや、部屋全体の床にはこれもまた誰にでも分かるような絵が描かれていた。一メートル四方の大きなタイルがびっしりと部屋中に敷き詰められている様子は、まるで巨大な将棋盤のようだ。
 それぞれに描かれている絵は【太陽の絵】、【星の絵】そして、【月の絵】だった。ただ、その順番はでたらめに並んでいて、一見何も法則性は無いように思われた。
「みんなその場を動かないでくれ! 見た通り、僕たちの足元だけは何も書かれていない。ここがスタート地点だと仮定すると、謎解きの結果によってはさっきの桜子さんみたいな事が起きるかもしれない。ねえロバートさん、もう一度地図を見せて下さい」 
 僕の警告を聞いて、全員の身体が強張るのを感じる。ロバートが地図を足元の地面に広げると、それを取り囲むようにして皆また屈みこむ。八人全員が屈むと誰かの尻がはみ出しそうな狭さだ。
 つまり先ほどの階段を降りた場所、この二メートル四方の場所以外には、びっしりとタイルが並んでいるということになる。
「待てよ……。この文章には見覚えがあるぞ。おじさんの一番大事にしていた本に書かれていた文章にそっくりだ」
 マサトが指で文字をゆっくりとなぞりながら呟く。
「なんて書いてあるんだ? もったいぶらずに早く言え」
 そのロバートの言葉を無視するかのように一度目をつぶると、少し厳かに言葉を紡ぎ出す。
「古の時代、偉大なる太陽神と彼を守る星の神々がいた。だが、同時に太陽神の座を狙う邪悪な神もひっそりとその中に身を潜めていた。やがて自分の力を過信しすぎたオライオンが月の女神の力を借り太陽神の座を奪おうと目論んだが、大きなサソリが毒をもってそれを防いだ。オライオンの企みに協力した事により、月の女神は罰を受け、唯一の銀の戦車を奪われてしまった。だが結局、太陽神と誠実な神々は策略により倒され、のちに新たなる『異形の神』が降臨した」
「どういう意味だろう。いつか太陽系のバランスが崩れちゃうって事を暗示しているのかな」
 僕にも、いやたぶん誰にもさっぱり分からなかったに違いない。
「そこに描かれている【月の絵】は三日月だよな。アルテミスは往々にして三日月を指すことが多い。彼女は白馬が引く銀の戦車で夜空を駆け巡ると言われていた。という事はこれはギリシャ神話が謎を解く鍵になるって事かもしれない。『太陽神』はつまり……アポロン、もしくはヘリオスなんだ」
「だからどういう事なんだ?」 
 痺れを切らしたロバートが、イライラした表情でマサトを睨む。
「あわてんなって、おっさん。誰かが地図にさっきの文章を表記したという事は、必ずそれに意味があるって事だ。と、なるとこれに関わる星座はふたつある。さそり座とオライオン、つまりオリオン座だ。古来からオリオン座はさそり座から逃げ続けていると言われているのはみんな知ってると思う。ここのタイルに描かれている絵には全てに意味があるのかもしれない。そこで――まずは全ての床の絵を書き写す事から始めよう。みんな、ちょっと協力してくれ」
 手分けして懐中電灯であちこちを照らしながら、次々にタイルに描かれている絵を地図に記入していく。
「上から四、左から二は月。上から五、左から二は太陽」
 僕が注意深く読み上げ、マサトが地図に書き写す。ロバートも手際よく次々にタイルを照らしていく。石像の後ろは暗くて見えにくいので後回しにしたが、三十分もすると記入は一通り終了する。
「うーん。何度見ても、デタラメに並んでるようにしか見えないわね」
 難しい顔をしながら、しばらく地図を覗き込んでいた樹理が首を振る。
「やっぱり神話がヒントじゃないかな。月の女神が罰を受けた事を考えると、中央にある太陽神の像からは嫌われているんだろう。つまり、【月の絵】は除外できるはずだ。まずは【太陽の絵】にさそり座を当てはめてみよう」
 真剣な表情でマサトは地図に星座を描いて行く。
「ダメだ。向こう側に辿り着く配置を合わせて考えると、どうもしっくりこない。もしかして俺は大きな考え違いをしているのか……」
「あきらめちゃだめよ。次は【星の絵】を試してみて。最後まで太陽神を守っていたのは星の神々でしょ?」
 マサトの苦悩を察したのか、樹理が力づけるように励ます。
「うん、頑張ってみるよ」
 少しして、黙々と作業しているマサトの手が突然止まった。
「なるほど、分かったぞ……。よーく見てろよ翔太。石像の真後ろ一直線のタイルは見えないとしても、ゴール地点を北と仮定して、さそり座、それにオリオン座の形を当てはめて結ぶと、ほら」
「おお、ついにやったな!」
 周りから歓声が上がる。ロバートも目の前にはっきりと現れた図形、それに加えて解かれて行く謎に対して知的興奮を隠せないようだ。
 タイルに描かれた【星の絵】だけをある意図を持って結んだ結果、例のふたつの星座がくっきりと浮かび上がってきた。まるで、長い間それを待っていたかのように。この事だけを見ても、非常に緻密な計算ができる誰かがここを造った事が分かる。
「けど、まだ問題がある。このどちらかが正しいルートだとしても、これだけではどちらの星座が正解かを判断できない。奥にあると思われるゴール地点にたどりつくためには、まずどちらかを選んで【星の絵】を順番に踏んで行かないとダメなんじゃないかな」
「てことは――ふたつにひとつね」
 樹理は少し緊張した顔で僕とマサトの顔を交互に見た後、助けを求めるような視線をルシャナに移した。しかし、ルシャナは何故か、暗闇に浮かび上がる太陽神の石像をじっと見つめたまま固まったように動かない。
「この選択には命が掛かってるかもしれないんだぞ! 何か他にヒントはないのか?」
 あぐらをかいたままのレスターが、銃尻を石の床にごんごんと打ちつけながら怒鳴る。
(床? そうだ、床に致命的なトラップがあるとしたら)