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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 いらいらした声でロバートは地図をまた睨み始めた。入口が閉ざされてしまったいま、彼らと僕らの運命は望んでなくても一蓮托生なのだ。僕は彼の近くに陣取り、地図をじっと見つめた。だが、やはりどの像を示しているのかは分からない。祭壇を時計の針の中心と仮定すると、それを取り囲むように記号が十三個並んでいるように見える。だが、記号そのものは今まで見たことさえ無いものだった。今や全員が車座に座り、地図をどうにか解読しようと必死になっていた。
「時計を表しているとは思えないな。そもそも記号が十三個あるのはおかしい」
 ロバートの言葉に皆が頷く。
「十三個ねえ……。あっ!」
 いきなり桜子が素っ頓狂な声を上げる。
「これは時計なんかじゃなくて、太陽系を描いたものじゃないかしら」
「いや、確か太陽系の惑星は九個だろ? 数が合わないじゃないか」
 三ツ井がすかさず反論する。
「何にも知らないのね。前まで冥王星は九つ目の惑星として数えられていたけれど、今は準惑星扱いなの。つまり惑星は八つ。そして準惑星は、冥王星、ケレス、ハウメア、マケマケ、エリスの五つよ。それを足すと……ちょうど十三個になるわ」
「すげえな。何でそんなに詳しいんだよ」
 三ツ井を含め、そこに座る人たち皆が彼女を感心したような眼で見ている。
「天文学は昔から得意だから。でも――惑星を示してるとしたら少し変ね」
「変って何がだよ」
「いい? ここが古代の遺跡だとしたら、地球人が西暦二千年になってから発見した準惑星を、この頃の古代人が観測できたはずがないわ」
「確かに。それはありえないよなあ」
 溜息をつくように僕が言うと、桜子も目を閉じて考え込む。
「とりあえず桜子さんの説が正しいと仮定すると、右上に書かれている説明文はどう解釈すればいいんだろう」
 僕のこの問いに答えるものはいなかった。ふと見ると、壁の炎がさっきよりも小さくなってきているような気がする。消えるまでもうあまり時間が残されていないのかもしれない。
 その時、三ツ井の脇からルシャナが急に顔を出した。地図の説明文の所を覗き込むと、僕をじっと見つめながらパントマイムのような仕草を始めた。
「翔太、解読よろしくね」
 まるで「あなたの得意分野よ」とでも言いたげな顔で軽く僕の肩を叩く。どうやらいつの間にか僕は、ルシャナの通訳みたいな立場になっているようだ。けど、今回の仕草は非常に分かりやすかった。たぶん全員にルシャナの言いたい事が伝わったと思う。
「大きな、うん。大きな星? いや、違うな。二番目? つまり、この中で二番目に大きな星を探せばいいのか?」
 太陽系が正解だとしたら、木星に次ぐ大きな星と言えば……。そう、土星だ。これは僕でも知っていた。時計の数字の位置で零時の場所が水星だとすれば、五番目の位置が土星となる。
「という事は、五番目に配置されているあの像に何か隠されているってことか」
 僕の視線を追うように全員が五番目に立つ〈長い槍を持つ石像〉を見つめた。
 すぐに立ち上がりその像に向かって歩き出そうとした時、驚いたことに当のルシャナが強い力で僕のズボンの裾を掴む。壁の炎の揺らめきが小さく映りこんだその瞳は真剣で、何かを僕に強く伝えようとしているように見えた。
「分かったよ。気を付けて行ってくる」
 言葉は通じないが、意味は通じたらしい。まだ不安げな顔だったがこくりと頷く。そして僕はその石像におそるおそる近づいていく。
「これか。まったく……。なんて恐ろしい顔をしてるんだ」
 だんだん見えてくるつり上がった目と黒く開いた鼻の穴。口の部分には青い牙らしきものが覗いている。さらに不気味なことに、目の部分の赤い宝石に炎が反射して、まるで全ての石像が常に僕を目で追っているように見える。
「こうかな。あ、動くぞこれ!」
 腰の部分を持って力を入れて回すと、一瞬軋んだ音を上げて石像が時計回りに回転する。
「ちょっと、なにこれえええ!」
 背中の方で突然、女性の悲鳴が響き渡る。振り返って見ると、入口近くの約一・五メートル程の床部分に亀裂が入り、いまにも崩れ落ちようとしていた。
「誰か手を! いやああああ!」
 運の悪い事にちょうどその上に乗っていた桜子が、バランスを崩しながらその穴に飲み込まれようとしている。
 一番近い位置にいた三ツ井が咄嗟に手を伸ばしたが、その手はすんでのところで空を切る。
「桜子おおおおお!」
 三ツ井がまんまるの眼をして叫ぶと同時に、穴に駆け寄った僕たちは真っ黒な穴をおそるおそる覗き込んだ。ロバートだけは軽く舌打ちをした後、しぶしぶ懐中電灯を取り出して穴の中を照らす。
「ダメだ。何も見えない」
 その穴は深く、そんな灯りぐらいでは全く底は見えなかった。三ツ井は片膝を床につけたまま頭を抱えている。哲男も少しだが気の毒そうな表情をして佇んでいた。
「おい! まさか――嘘を教えたのか?」
 よろよろと立ち上がると、三ツ井は少し震えた声でルシャナの華奢な肩を掴み揺さぶった。しかし彼女は首を激しく振ったあと、入口の反対側の空間をすっと指差す。
「おーい、みんなこっちに来てみろよ」
 いつの間に奥に回り込んだのか、マサトの大声が聞こえて来る。僕が駆けつけて見ると、そこにも同じような穴がぽっかりと口を開けていた。しかし、さっきの穴と決定的に違っている事がひとつだけある。
 それは……。下の階に続く『階段』が、まるで侵入者の未来を暗示するように顔を覗かせている事だった。
「桜子よお……」
 四つんばいになった三ツ井は、半べそになりながら彼女の消えて行った穴をまだ覗き込んでいる。 
「三ツ井さん。残念だけど、灯りも届かないし今は手を打ちようが無いわ。でもね、わずかだけれど、あの時底の方から水音を聞いたような気がしたの。ひょっとしてこの下は水が張ってあるのかも。だったら桜子さんが生きている可能性は十分にあるわ。さあ、あっちの階段を降りて一緒に探しに行きましょう」
 樹理は彼の横に膝をつくと、そっとその肩に手を当てた。  
「うう、そ、そうだな。まだ死んだと決まった訳じゃないもんな」
 ふらふらと立ち上がると、戻って来た僕と樹理に支えられるようにして階段の入口に立つマサトの元まで歩いて行く。
「この穴か。よし、頭に気を付けて入れ。レスターは最後だ。まずはおまえから行け」
 マサトの腰を銃尻で小突く。そして、ふくれっ面のマサト、ロバート、僕、樹理、ルシャナ、三ツ井、哲男、レスターの順で狭い階段を降りて行った。
「おい、下は真っ暗だぞ。さっきの部屋よりもカビくさいし」
 少し怯えた声で先頭のマサトが後ろを振り向く。
「いいから降りろ!」
 ロバートがまた背中を小突くと、マサトは軽く舌打ちをする。やがて全員降り切ると、新たな暗い部屋にそれぞれが目を走らせた。だが、そこでまた信じられない事が起こる……。
 ごとん!