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かざぐるま
かざぐるま
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「ええ。昔、部族の長が死んだときなど、側近の者や妻なども一緒に埋められました。もちろん、彼らは望んで埋められた人ばかりではないはずです。例えばこのブルンダンガを巧妙に盛られて、『自分の足で歩いて墓に入りなさい』と命令されていたとしたら……。彼らは嬉々として自分から墓に入ったと思われます。そう、このドラッグの歴史は血塗られているのです。そうそう、古代では別名――『禁断の実』とも呼ばれていたようですが。あ、どうやら迎えが来たようですね」
 すぐに、白衣を着た二人の救急隊員が部屋に入って来た。
「きみ、丁重に病院まで運んでくれたまえ」
 床から支えられるようにして立たされたミカエルの眼は、今や絶望の色に染まっていた。だが、それを見つめる署長の姿は、さながら〈たまたま運が悪かった者〉をただ見下ろしているようであった。

『古の遺跡 入口』

 その絵は〈ふたつの真っ赤な眼玉〉を光らせながら僕らを見下ろしていた。天気は急に悪くなり、空は真っ暗で今にも雨が降り出しそうだ。まるで僕たちに「入るな!」と警告を与えているようだった。観音開きと思われる石の扉には、眼と眼の間に二つのくぼみがあり、それをそれぞれ手前に引っ張ればこのドアは開きそうだ。
 だが……。
「びくともせんな。だいたいこの石の重さを考えると、人間の力では動かないんじゃないか? おい、おまえらちょっと引っ張ってみろ」
 僕とマサトを呼び付けたロバートの顔は苛立っている。言われるがままに僕たちは、くぼみに手をかけ力いっぱい手前に引っ張った。しかし、やはりびくともしない。
「ダメだ、ぴくりとも動かない。その宝の地図に入り方とかのヒントが書いてないんですか?」
 僕の言葉を聞いたロバートは、丸めた地図を伸ばして大きな石の上に広げる。
「他に入口は無いようだな。遺跡に入る入口も出口もここだけだ。ん? 待てよ。これは目玉か」
 何かを見つけたようだ。僕はロバートの近くに行くと、肩越しに地図を覗き込む。
「目玉を正面とすると、その両脇に並ぶ記号にヒントがあるんでしょうか。残念ながら記号の意味は全く分かりませんね……。あっ、ひょっとしたら」
「どうした?」
「ちょっとこれを記号じゃなくて『絵』として見て下さい。まるで、目玉の脇にある円形の石に人が乗ってるように見えませんか? えーと、草に隠れて分かりにくいですが……どうやらあの石みたいですね。ひょっとしたら、あの上にそれぞれ人間が立てば何か起こるかも」
「そんなわけないだろ。古代の仕掛けがまだ動いてるとかありえない。まあいい、レスターとそこの凶暴な女! そことそこの石に乗ってみてくれ」
「はあ? 凶暴な女って誰の事よ。まったく、私には桜子って名前があるんだから」
 ロバートを睨み付け肩を怒らせながらも、すたすたと歩き左脇の石に乗る。少し遅れてレスターも同じように右脇の石に乗ったが……。
 なにも起こらない。
「マサト、この状態でもう一度引っ張ってみようぜ」
 僕とマサトはさっきと同じ動作で扉を引っ張ろうとした。すると……。
「きゃっ!」
 飽きたのか、石の上でジャンプしていた桜子の背が急に少し低くなったように見えた。たぶん乗っている石が沈んだのだろう。レスターも驚いた顔をしながら自分の足元を見つめていた。
 それを合図に、もう大して力を入れていないにも関わらず、石の扉が手前に開き始める。
 ゴゴゴゴゴ!
 いっぱいに開いた扉の中は真っ暗だった。かび臭い空気が部屋の中からむっともれてくる。
「なんだ……。ここは」
 入口からの微かな光に照らされて、そこに浮かび上がったものは――。コロッセオのようなだだっ広い円形の部屋だった。中央に祭壇のような物があり、その周りには石像が時計の文字盤のようにそれをとり囲み、祭壇を守るようにしながらこちらを見ている。薄暗い室内に十数体はいるだろうか。宝石が目の部分に嵌め込まれた不気味なその顔は、今にも口を開いてこう言いたそうだ。
「俺たちの眠りを妨げるヤツは誰だ」と。
 拳を口に強く押し当てながらひどく怯えた顔をしているルシャナをかばうようにして、僕は中に足を踏み入れた。改めて近くで見たその石像たちの顔は……。お世辞にも『地球人』の顔とは言えなかった。
 やがて全員がその不気味な石像にゆっくりと近づいていく。女性たちはその眼に嵌め込まれた宝石の大きさにため息をついていたが、あまりにも異様な雰囲気に今度はさすがに手で触れないみたいだ。
 ゴゴゴゴゴ!
「おい! 扉が閉まって行くぞ。どうするんだ?」
 三ツ井の叫び声に振りかえると、僕たちの後ろで扉が勝手に動き出した。そして少し迷っているうちに、完全に扉は閉じてしまった。幸い室内は真っ暗では無く、光が天井から何筋かは差し込んでいたが、これでは一メートル先の人の顔も見えないだろう。悠久の時を切り裂く光の筋に浮かび上がった塵がきらきらと舞い踊り、こんな状況にも関わらず見惚れるほどそれは美しかった。
「ここに記号と説明文みたいなものが書いてあるが、誰か分かるヤツいるか?」
 光が当たる位置に地図をかざしながらロバートが大声を出す。ドーム状の広い空間に反響して、その声はぐわんぐわんと響き渡る。
「何か印が付けられていますね。いちにいさん……。十三体の石像のうち、これらに該当するのはええと」
 レスターはロバートの脇で眉根を寄せて考え込んでいたが、しばらくして助けを求めるような顔をして僕を手招きした。
「なんですか? 協力はしますけど、女性たちがこの暗さに怯え初めています。まずは灯りを確保するべきです。扉が閉まる前にランプのような飾りが壁際に見えたような気がするので、ちょっとあのあたりを懐中電灯で照らしてみて下さい」
「確かに何かあるな」
 レスターは感心したように頷いた。
「ライターを貸してもらえるなら、僕が登って見てきますけど」
 少し驚いた顔のレスターからライターを借りると、円形の壁に数個据えられている飾りを目がけてよじ登る。壁にちょうど足をかけるようなくぼみがあるのが有難かった。何とか飾りまでたどり着いて目を近づけると、その中に何か黒い液体が満ちているのが見える。そして、それに付いているつまみのような物をひねった瞬間、黒い液体がドームを囲む凹型の溝に勢いよく流れ込んでいく。マサトにも協力してもらい、六つある全ての飾りのつまみを操作すると、液体が壁の凹みに添って壁をぐるっと一周回ったのが分かる。手に少し付着したその液体からは灯油に似た刺激臭が感じられた。
「じゃあ、火をつけてみますね」
 ライターの火を近づけた瞬間、ぽっと炎の花が咲き壁を走って行く。それが円形の壁を一回りすると、ドームの中が見違えるように明るくなった。
「なんだ? どうしてこんな所に」
 壁のもっと上の方に、ところどころ複数の足跡のようなものを発見した。だが、人間がこんな所に足跡を付けられる訳がない。きっと気のせいだろう。
「よくやった。だが、その燃料が燃え尽きるまでにこの謎を解かなければならない。懐中電灯はいざという時の為に、なるべく使いたくないからな」