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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 どうだ? これに見覚えがあるだろう。そう、これは翔太君から預かっている皮袋に描かれているものに非常に良く似ている。今まで『ナスカの地上絵には色々な秘密が隠されている』と言われてきたのは知っているだろ? 例えば、放射状に広がる完璧な直線は、宇宙船が着陸するための滑走路とかね。私はそのような説は今まで信じていなかったが、禁断の実にまつわる謎を追っていくうちに〈地球人以外の干渉があった事は間違いない〉と考えが変わってきた。すなわち、猿や蜘蛛などの単純な絵にも、何かメッセージが秘められているとね。
 前置きが長くなってしまったが、実はこの『Hands(手)』という絵にも、あるメッセージが込められていたんだ。『禁断の実』にまつわる秘密がね。詳しい事は私が帰国したら直接話すから、今はしっかりと自分の身を守ってくれ。最後に、あの翔太君と早急に連絡を取り、どこか安全な所に隠れるように伝えて欲しい。彼がもし伝説の十万人目だとしたら、危険に巻き込まれるかもしれないからね。ではまた】
 だが――博之のメールを待ち焦がれていたはずのマサトは、いまパソコンの前にはいなかった。


 一方、松濤の邸宅では、ローラがイライラした様子で客間を歩き回っていた。
「黒木、まだ翔太くんの居所が分からないの? 最新の情報を報告して」
 細い腰に両手を当て、応接間のソファに座っている黒木にぐっと顔を近づける。その脇ではローラの剣幕に恐れ入ったのか、ガブリエルが大きな身体を縮めてかしこまっている。
「あの、お言葉ですが、本当にお嬢さんには心当たりないんですかね?」
 彼にとってボスは既にローラであったが、自分のスタンスを崩していないこの男はさすがだった。
「無いわよ。あの日翔太くんに電話した時は、高槻教授の部屋にいたはず。でも、教授は『来ていない』の一点張りでしょ? じゃあ、どこにいたのって話じゃない。同時に樹理ちゃんやマサトにも連絡がとれなくなったわ。まさか――あたし抜きで海外旅行? もしくはサプライズパーティーでも用意してるのかしら」
 眉をしかめながら黒木の前のソファにどさっと座り、吸い込まれそうな青い眼で彼を見つめる。
「調べた所、海外に出た形跡はありません。彼らの家族も捜索願いを出したようですが、まだ居所は分からないようです。これは、私の知り合いの警察関係者から聞いた話なので間違いありません」
「じゃあ、いったいどこに消えちゃったのよ!」
 顔を覆った手の隙間から見える目のふちからは、今にも涙がこぼれそうだ。
「お話し中失礼します、お嬢様。お父様からお電話ですがどういたしましょう」
 ガブリエルは一歩ローラに近づくと、受話器に片手を添えながら返事を待った。
「取り乱してごめんなさい。出るわ、ちょっと待っててね」
 そう言うと立ち上がり、気持ちを切り替えたように受話器に向かって笑顔を作る。
「なあに、お父様」
「おお、娘よ。いま日本に着いた所だ。どうだ? 今夜は久しぶりに親子でディナーとしゃれこもうじゃないか」
 純白の受話器からは、良く通る上品な太い声が漏れてくる。
「いいわね。でも――お父様、今それどころじゃないのよ。翔太くんがいなくなっちゃったの」
「しょうた? ああ、こないだ言ってた彼氏か。私は断固、結婚など認めないからな」
「いえ、それ以前の問題なのよ。突然行方不明になっちゃったの。しかも彼の友達も一緒に」
 ブロンドの髪の毛の先をくるくると人差し指に巻きつけながら、またイライラした様子で部屋を歩き回る。彼女の心の中は、きっと今非常に不安定なのだろう。
「なに! 逃げたのか? いったいうちの娘の何が不満なんだ!」
「ちょっと、落ち着いて話を聞いて。さっき言ったように、彼の友達も合わせて三人の人間が煙のように消えちゃったのよ。ある日を境にね。それで、ひとつお願いがあるの。お父様の仕事を私はあまり好きじゃないけれど、今はそんなこと言っている場合じゃないわ。お願いっていうのはね、私に軍関係者を紹介して欲しいの。世界中に武器を卸しているお父様なら顔が利くでしょ?」
 ローラの眼が怪しく、そして鋭く光る。それは何かを決意した時の、そう、綾小路家特有の『強い女』の眼だった。
「その前に……自分が何を言っているのか分かっているのか? おまえがもし私設軍隊を持つという事は、彼らの指揮官になるという事だぞ。その覚悟と、翔太くんたちを絶対に探し出すというブレない目票があるなら考えよう。一度しか聞かないぞ。おまえは、翔太くんを本当に愛しているのか?」
「はい。例え今は私を愛してくれてなくても、彼を愛しています」
 しばらく重い沈黙が続く。
「……どうやら本気のようだな。全く、言いだしたら聞かないところが母さんにそっくりだ。分かった、今夜にでも最高の傭兵を手配しよう。アメリカ筋から日本政府にも協力を要請する。さあ、おまえの未来の夫を探し出そうじゃないか。だが、その前に夕食ぐらいは付き合ってもらうぞ。はっはっは!」
「ありがとう、お父様。大好きよ」
 キラキラした眼で受話器にキスをすると、長い髪をなびかせながら黒木とガブリエルの方に振り向く。
「プロの傭兵を雇うわ。黒木、これから私『綾小路家の女』の意地を見せるわよ」
「えっ? じゃあ、もう私は特に必要ないのでは?」
 想像の上をいく軍隊や武器商人の話を聞いて、明らかに黒木の顔は動揺していた。
「何か言った?」
「もちろん、力の限りを尽くして頑張りたいと思います」
 熱のこもった蒼みを帯びた眼力を見た瞬間、彼の口は勝手にそう答えていた。


 古の遺跡

「なんだ、これは!」
 早朝の森の中から突然現れた、途方もない大きさを持つアーチ型の石柱の前で一行は足を止めた。その石柱には無数の意味不明な文字が刻まれ、一つ一つの文字に赤や青の光る石が埋め込まれていた。
 ロバートが一歩近づきその文字に手を触れる。すると……。
「信じられない。全て加工された宝石じゃないか! ルビー、エメラルド、サファイア。俺は夢でも見ているのか」
 自分の顔を拳で軽く小突くと、満面の笑みでレスターを振りかえった。
「とうとうやりましたね。ここが伝説にある『始まりの遺跡』か」
 レスターは銃を背中に背負うと、ロバートと同じようにその文字に触れはじめる。
「ああ、ここが禁断の実のオリジナルが生まれた場所らしい。当然、それより更に価値のある物が眠っているに違いない」
「伝説の遺跡だって? それはおめでとうさん。じゃあ叫ぶか。ク、クマがあ!」
 叫ぼうとする三ツ井の口をとっさに誰かの手が塞いだ。
「おい、何すんだよ、哲っちゃん! 今が逃げるチャンスじゃないか」
「まだ早いで。よっく見てみい。あの宝石がもし本物とすれば、その先にある物はもっと価値があるはずや」
 哲男の眼が怪しく輝く。
「ダメだって。いくら宝石や宝物があっても、今は命の方が大事だろが!」
「それはどうやろな。あの女たちをよう見てみい」
 哲男の言葉に正面を向くと、桜子と樹理が石柱にキスするぐらいに近づいて、まじまじと宝石を見ている。
「うっわあ、きれーい! このΩの形、これを剥がしてペンダントにしたらきっと凄く素敵だわあ」