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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 それは……『来た方向に引き返せ!』だった。
 急に僕はこの少女に興味が出てきた。何とか名前だけでも聞けないものだろうか。彼女の肩に包帯を巻きながら笑顔で話しかけてみる。
「痛くない? 僕は翔太、君は?」
 ゆっくりと人差し指で自分の胸を指してから、彼女を指差す。最初はきょとんとしていた少女だったが、早口でまくしたてる言葉の中に共通の単語が混ざってることに、僕はやがて気づいた。
 それは「アポロ」と「ルシャナ」だ。もしアポロンを指しているのだったら、それはもちろん太陽神の事だが、ルシャナという名前には聞き覚えがなかった。
「君は、ルシャナって、いうの?」
 もう一度彼女を指差してゆっくりと発音する。すると、彼女はこくんと首を縦に振った。
「ねえ、翔太って何気にすごくない? 古代人と意志を通わせてるわよ」
 樹理とマサトはひそひそと顔を寄せ合っている。
「よーし、休憩は終わりだ。すぐに夜になる。ここでキャンプを張るぞ!」
 ロバートの声を皮切りに、溜息をつきながら皆一斉にリュックを地面に降ろす。その中で一人張り切っているのは哲男だけだった。だが、丁寧にテントの張り方をレクチャーする彼を横目で見ながらも、レスターの眼はは油断なく周りを警戒していた。そう、ここにこんな若い少女がいるということは、家族が近くに住んでいる可能性が高い。もしその家族、もしくは一族がいきなり襲ってきたとしたら、森に不慣れな僕たちはひとたまりもないだろう。しかも空は雲で覆われ今は星さえも見えない。焚火の周り以外は漆黒の暗闇に包まれ、時々その闇からは人とも獣とも言えない不気味な咆哮が聞こえてくるのが現状だ。
 だが、そんな恐怖より僕たちにはとても許せない事があった。それは焚火から少し離れた所にルシャナが細い手首を後ろ手に縛られ、テントに使う杭に家畜のように繋がれている事だった。
「こんなの、かわいそうじゃない! 逃がしてあげたらどうなの?」
 樹理と桜子が強く抗議したが(もちろん僕とマサトもだが)その要求は結局通らなかった。しかしその代わりに、彼女の手首に食い込む縄は少しだけだが緩められた。 
「お前たちは甘ちゃんだな。いいか? ここから先はな、命がけなんだ。彼女の案内があったとしても、無事に通れるか分からないんだぞ」
 眉間に深い皺を寄せたロバートはこう答えると、ウイスキーの瓶を傾けながらさっさとテントに潜り込んでしまった。
「おいおい、命がけって。一体俺たちに何をさせるつもりなんだよ」
 自分のリュックから高級そうなスーツを出すと、三ツ井はさりげなくルシャナの肩にそっとかける。意外と優しいところもあるんだなと考えつつ、僕は缶詰の中身を紙の皿に移し彼女に差し出した。最初は怪訝そうな顔で匂いを嗅いでいたりしたが、腹が空いていたのか皿から直接指で口に放り込んでゆく。
「こんなの食べた事ないやろ? 美味いか? でももっとゆっくり食えよ」
 焚火に片頬を染めた哲男も、優しい眼をしながら頬杖をついてルシャナを見つめていた。みんな気づいているのか分からないが、この少女には何とも言えない不思議な魅力があった。何故かほっとけない妹みたいな感じなのだ。だが、そのブルーの目を見ていると吸い込まれそうで、少し怖くもあった。古代人、まあ僕らは勝手にそう呼んでいるのだが、彼らは皆こんな姿形をしていたのだろうか。
「おい、おまえらその女を逃がそうとか考えるなよ。ロバートさんからは、『逃げようとした者には迷わず発砲しろ』って言われてるからな。俺は射撃があまり上手じゃないから、当たり所によっては死ぬよりも痛くて苦しむハメになるぞ」
「うるせえよ、びびってこんな子供に発砲したくせに」
 小さな声でマサトが悪態をついた。
「ところで、脱出計画はどうなったの? このまま朝になっちゃったら、私たちにはどうやら命がけの冒険が待っているみたいよ」
 樹理も小さな声でつぶやく。
「あいつが見張ってるうちは無理をしない方がいいな。大人しく着いていく振りをして、隙をみて逃げよう。俺が合図するから、四方八方に散って逃げれば助かる確率が高い。ナチスの収容所で、がんじがらめの状態で強制労働させられていたユダヤ人たちも、その方法で助かった人もいたそうだし」
 一番年上の三ツ井が、鼻を膨らませながら目配せする。
「じゃあ、合図を決めとこうよ。どうする?」
 僕の意見に皆が頷く。
「そうだなあ。『クマだああああ!』でどうだい? ヤツらもびびるだろ? 俺がそう叫んだらみんな一目散にちりぢりに走れ。集合場所は、さっき休憩した滝壺でどうだ?」
「いいけど三ツ井さん……。本当にクマが出たらどうするの?」
 少し呆れ顔のマサトが突っ込む。
「そ、その時は、『本当にクマが出たぞおおお!』って言うから大丈夫だ」
「ま、いいわ。それで行きましょう。ずいぶん荒削りな作戦だけど、それがかえって上手く行くのかもしれないわね」
 桜子はあくびをひとつすると、女性用のテントに頭を突っ込んだ。それに続き樹理も入って行く。
「僕とマサトはルシャナを見張ってますよ。彼女が逃げたら撃たれちゃうんで」
「分かった。じゃあ一時間ごとに交代して一人ずつ寝よう。ってもう寝てるじゃん彼女」
 三ツ井が見た方向には、すやすやと寝息をたてて眠るルシャナの姿があった。 
「なんか不思議だよなあ。何で俺たちこんな所にいるんだろ? まあ考えてもしょうがないか。おやすみ」
 三ツ井も哲男と同じテントに潜り込むと、静寂が突然圧力を増して僕たちに襲いかかってきた。少し小さくなった焚火の、薪のはぜるパチパチという音だけが耳に残る。その火の粉を目で追っていた僕はマサトに向かって口を開いた。
「なあ、マサト。ここは遺跡の島って言ってたじゃん? 遺跡ってことは宝探しなのかなあ、やっぱり」 
「たぶん、な。それもこれだけの事をして探すって事は、かなりの価値がある物が眠ってるって事だろ。それが何なのかは分からないけど」
 空を覆い尽くしていた雲の代わりに、今は満天の星空が僕たちを見下ろしている。月の光で頬を照らされたルシャナの顔を見ていると、とてもこれが現実に起きている事だとは思えない。
「ひとつさ、ロバートが何気なくもらした言葉が気になってるんだ」
「なんだよそれ」
「聞き間違いじゃないと思うけど、『あいつしか開けられない』って言ってた。一体何のことだろう」
 僕にも分からなかった。でも、その時の彼の視線は僕に注がれていた事は確かだ。
「鍵でもかかってるのかな。まあ、そんな宝よりも命の方が大事だ。三ツ井さんの言った通り、隙を見てまずは逃げることだな」
「そうだね。でも、あの合図はどうかと思うけど」
 後ろに立つレスターに気づかれないように、肩を震わせながらくっくと笑った。
 やがて……。夜が明け、僕たちはついに運命の朝を迎えた。


 その頃、マサトのパソコンに一通のメールが届いていた。
【マサト、元気にやってるか? こちらに連絡を取ろうとしていたようだが、色々な事があって返事を返せなかった。どうか許してくれ。さて、先日私は直接ナスカまで行き地上絵を撮影してきた。とりあえずこのメールに添付した写真を見て欲しい。