小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

禁断の実 ~ whisper to a berries ~

INDEX|24ページ/56ページ|

次のページ前のページ
 

 緑の苔の生えた岩の影にロバートが腰を下ろす。その手にはライフル銃が握られていた。もちろんレスターも銃をこっちに向けて油断なく構えている。
「じゃあ遠慮なく。わいは行くで」
 哲男は石ころだらけの河原を走り抜け、澄み切った川にジャンプして飛び込んだ。
「おーい、冷たくって気持ちええぞ! みんなもきてみい!」
 その声でバテ気味だった僕らも、重い腰を上げてぞろぞろと川に入って行く。空は青く澄み渡り、頬を撫でるしぶきの混ざった風は心地良かった。
「うわ、ホントだ! 冷てえええ!」
 マサトははしゃぎながらクロールで泳ぎだした。女性二人もそれを見てぱっと顔を輝かせると、服を着たまま川に飛び込む。僕もTシャツ脱ぎ捨てると、満面の笑みを浮かべながら飛び込んだ。(なぜほとんどの人は、水に飛び込む時に自然と笑ってしまうんだろう?)と下らない事を考えながら。
「おい、この水は飲んでも大丈夫なのか?」
 脱いだYシャツを絞りながら、三ツ井がロバートに向かって叫んだ。
「ああ、飲めるはずだ。実際君たちに与えていた水は、この川から汲んで来たんだからな。もっとも、忙しくて新鮮な水はあまり供給できなかったかもしれないが」
「よっしゃ、飲めるってよ!」
 同時に六人全員が手のひらで水をすくって飲みだした。汗で出て行った水分が、すごい勢いで乾いた細胞に吸収されていくのが分かる。
「なあ、おまえそのアザは?」
 口元を手の甲で拭いながら、不思議そうな顔で三ツ井が僕の肩甲骨辺りを見つめている。
「アザ? ああ、生まれた時からあったみたい。変な形してるでしょ?」
「そうだな。まるで『指が一本ない手形』みたいだ。ひょっとして、そのせいでいじめられたりしなかったか?」
 少し大きめのアザを興味深げに三ツ井は手でなぞった。
「ちょっと! 三ツ井さん気持ち悪いですって。まあ、よくアザの反対側を叩かれて手形をつけられたりしましたけど、いじめなんて無かったです」
「それって、何気にいじめじゃね?」
 ツンツンヘアの前髪を目元まで垂らしながらマサトが笑うと、樹理もつられて微笑んだ。今や全員がびしょ濡れだ。女性たちも下着が透けるのも構わずはしゃぎまわっていた。ロバートはその様子を眺めながら、二本目の葉巻の口を切っている。どうやらまだまだ休憩は続きそうだ。
 不思議なことに、彼のその視線がそのセクシーな女性たちでは無く、さっきから僕の背中に注がれているような気がしてならなかった。だがそんな事より、これからはいつこのような休憩がとれるのかは分からない。今はこの豊かな自然と、ひんやりした川の恵みを味わっていたい。
「おりゃあああ!」
「あっぶねええ!」
 僕はマサトを肩車すると、満面の笑顔でそのまま後ろに思いっきり投げ捨てた。
 三十分後、僕たちは滝壺のほとりから出発した。ここで僕は前から疑問に思っていた事をロバートにぶつけてみた。
「あの、どうして僕らが宝探しに選ばれたんですか? あなたたちに仲間がいるなら、他に手伝ってくれる人はいくらでもいたはずでしょ」
「ふん。おまえらは信じられないかもしれないが、全ては古文書に書かれた予言通りなんだ。あの日本と言う島国で禁断の実に関わった最初の人間たちは、その歴史を解明する義務を負う。おまえたちも、ここまで来たらその秘密を知りたいんじゃないのか?」
「まあ、知りたくないと言えば嘘になりますけど……」
「面白い事に、その古文書には【秘密は暴かれるが、首謀した者には必ず死が訪れる】と書かれていた。だから俺たちが名乗りを上げたんだ。まあ、その一点に関しては外れるよ。何てったって俺とレスターは運がいいからな」
 ふっと笑うと、彼はそれきり口を閉じてしまった。
 先頭に立つロバートの手にはナタのような刃物が握られていて、じゃまな草を慣れた様子で刈り倒しながら進んで行く。彼はひょっとして、軍隊経験者なのかもしれないなとその時思った。その後ろには桜子、僕、樹理、マサト、三ツ井、哲男が続き、最後尾ではしっかりと銃を構えたレスターが目を光らせている。
「今度はどんどん山奥に入って行くけど大丈夫なの? これ」
 僕の後ろから小さな声で樹理が呟く。
「ダメだろ。だいいちもう日が暮れてきた。野宿するにしても獣がいるこの森でどうやって寝るんだろう」
 その不安を感じ取ったようにマサトが僕の隣に並ぶ。
「なあ、よく考えてみたら、何もあいつらの言いなりになることは無いと思うぜ? あの銃だって本物とは限らないじゃん。さっき三ツ井さんとも相談したんだけど、今夜にでも隙を見て脱出しようって」
「確かに人数では僕たちのが多いけど、もし本物だったらケガするだろ? 下手したら死んじゃうかもしれない。それに……もしここが本当に無人島だったとしたら、どうやって島から脱出するんだ?」
「そうだなあ。島の大きささえ把握できてないから、脱出したらまずは島を探索しないと。食料は哲男さんが『まかしとき、サバイバルの経験はあるで』って言ってたからなんとかなるんじゃないかな」
 マサトのその言葉に心が動いた。でも――男たちは素早く逃げれたとしても、女性たちはどうなる? 
「そこ! 口じゃなくて足を動かせ。今夜はあの山の尾根でキャンプするぞ」
 レスターの叱責を受け流しながらも、ふと前方を見上げると、うっそうとした森を上りきった所に木がまばらの開けた場所があるのが見える。夕日に照らされ、そこは最後の黄金の輝きを放っていた。
「だー、あんなところでキャンプかよ。クマとかいたらどーすんだ」
 肩に食い込むリュックの重さに顔をしかめた三ツ井が、ぶつぶつ文句を言いだした瞬間!
 ダアアアアン! 
 全員がその音に振り向くと、最後尾にいるレスターの銃の銃口から煙が上がっていた。
 その先には……。
 ボロ布を纏った少年が木にもたれて立っていた。年の頃は中学生ぐらいだろうか、まだあどけない顔をしている。日に焼けているが、その整った顔に何かギリシャの彫刻のような印象を受けた。弾が肩をかすめたのであろうか、手で押さえた肩から血の筋が流れている。
「無人島だと思っていたが、原住民がいたのか」
 ロバートは心底驚いた表情でその少年に近づいて行った。だが、もう一つ驚くことに、その少年の身体は痩せていたが所々に不自然な丸みを帯びていた。そう、彼は――女性だったのだ。
「銃……本物じゃん」
 僕の言葉に、三ツ井がごくりと喉を鳴らしながら頷いた。
 その少女は初めて聞く爆音に驚いたのか、そのまま固まっていた。唇をかみしめてこちらを睨むその表情ははっとするほど美しい。例えるなら、そう、それは昔絵本で見た『森の妖精』のようだった。
「こいつに案内させてみるか。この島に住んでいるなら神殿の事に詳しいかもしれない」
 ロバートは少女の腕を掴んで僕らの近くに引っ張ってきた。最初は激しく抵抗していたが、あきらめたのか不思議な言葉を早口でその口から紡ぎだす。
「うーむ、何を言っているのかさっぱり分からん。誰か分かるヤツはいるか?」
 もちろん分かる人間などいなかった。マサトのおじさんならひょっとしたら分かったかもしれない。ただ、その身振りから誰もが理解できるアクションが一つだけ見受けられた。