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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 そのまま身体を倒して目をつぶったが、どうにも暑すぎて何かがおかしい。そっと目を開け恐る恐る首だけ横に向けてみる……うん、絶対に変だ。
「あ、起きた。おーいそこの青年!」
 向かいの部屋から、メガネをかけたセクシーなお姉さんがこちらに手を振っている。改めて自分の置かれている状況をみてみると、どうやらお姉さんと同じ作りの『牢屋みたいな部屋』に入っていることが分かってきた。
「すいません。あの、ここってどこなんですか?」
 綺麗な長い脚をぽりぽりと掻いているその女性に聞いてみる。
「うーん、そうね。答えを聞いたらたぶんキミ落ち込むわよ。それでも聞きたい?」
「はい」
「そう、じゃあ話すわね。実はあたしたちも先日ここに連れて来られたんだけれど、来たくて来たんじゃないの。つまり……拉致されたのよ。たぶん、あなたたちもここに来るまでの記憶って無いんじゃないかな?」
 いつの間にか、その女性の部屋の壁ぎりぎりに身体を寄せるように、隣の房から細身の男がこちらに向かって手を振っている。
「よお、青年。君らは何をしでかしてこんな所まで来たんだ? あ、隣の房のこの女は桜子、俺は三ツ井ってんだ。いま君には見えてないが、君の隣の房には哲男って男が入っている。よろしくな!」
 馴れ馴れしく声を掛けてきたこの三ツ井という男は、ランニング一枚のがりがりの身体に力こぶを作って見せた。
「という事は、あなたたちも拉致されてきたんですか? ――ちょっと待ってください。僕の斜め前の房に女性が見えるんですけど、彼女も僕たちと一緒に運ばれてきたんですよね? ってことは、樹理じゃん! おい、起きろ!」 
 僕の声でベッドから起き上がったのはやっぱり樹理だった。
「おはよう。あ、翔太。あんた何やってんの?」
 目を擦りながらこっちを怪訝そうに伺っている。
「いや、おまえもな。そこから正面を見てみ。マサトみたいなのが寝てないか?」
「うん。マサトが着ていた白いパーカーが見えるわ」
 なるほど。つまり、六つの部屋があり、左上から時計回りに、樹理→桜子→三ツ井で三部屋。通路を挟んでこちら側は哲男→僕→マサトの順番で投獄されているわけだ。
「やっぱりな。これが夢じゃなかったとしたら……。目的は何ですかね? うちはお金持ちじゃないんで、身代金目的じゃあないと思いますけど」
「そこなんだよなあ。まず俺たちの共通点を探らないとな」
 僕の言葉に、三ツ井と名乗った男がこめかみを押さえる。
「共通点、ですか」
「もしかしてだけど、君たち『禁断の実』って知ってる?」
 僕と樹理は、木の格子を掴んだまま目線を合わせ固まった。


 地図に無い島

 あれから僕たちは、簡素な食事だけ与えられ三日間放置された。
 哲男さんだけは筋トレばかりしていて気にしていないのかもしれないが、今の僕らの身体は汗でびしょびしょになり、少し異臭を放っている。まあ、男だったらまだ我慢できるだろう。可哀想なのは女性たち、つまり樹理と桜子であった。
「んもおお! 何なのよ。あれから一切の説明も無しにこんな所に閉じ込めて! あいつのポニーテールを根元からちょんぎってやりたいわ」
 桜子は朝から何度目かのヒステリーを起こしている。トイレでさえ男たちに囲まれた所でしなければならないのだから無理もない。だが一方、樹理は達観した顔で対面のマサトや三ツ井たちとおしゃべりを楽しんでいる。環境対応能力が相当優れているのだろうか。
「ねえ、わざわざさらって来たのに、このまま放置ってのは変よね。マサトはどう思う?」
 汗で顔にまとわりつく前髪をかきあげながら樹理が話しかけた。白い肌に、虫に刺された赤い跡が点々と浮き出している。
「何度も話し合った通り、『禁断の実』に関係あるって事は間違いないと思う。でも、一体俺たちに何をさせたいのかが謎だよな」
 夜は冷えるのでパーカーを羽織っていたが、その白いパーカーはもう土で所々茶色くなっている。
「そうねえ、強制労働とか?」
「いや、だったら男だけで十分だろ。なあ、翔太」
 昨日から頭がかゆくて仕方ない。夜中に襲って来る蚊や、得体の知れない吸血虫のせいで毎日ろくに寝れやしなかった。
「三ツ井さんが言った通り、この島は無人島なんだろな。この三日間飛行機の音はおろか、船の汽笛さえも聞こえないし。聞こえるのは獣の咆哮と、夕方に降るスコールが葉っぱを叩く音だけだもん。……さて、突然ですがここで問題です。これはなんでしょう?」
 僕の手には鉄のスプーンが握られている。
「スプーンじゃん。何だ、くすねたのか?」
「そうだよ。こんな所にいつまでもいられないだろ? 幸い壁は土でできているから――このベッドをどかすと、じゃーん」
 ベッドに接した壁に、エアコンの室外機ぐらいの大きさのくぼみが見えてくる。僕が夜中にこっそりと掘ったくぼみだ。どうせろくに寝れないんだから掘る事に対して苦痛は無かった。ただ、かなり固い土だったのでそう簡単には削れなかったが。
「夜中にがりがりいってたのはそれだったのかよ。ちょっと待て、俺の方に掘ってるの?」
 マサトはあきれた顔をしている。
「うん。背中の壁は厚くてどうにもならないから。そっちと合流して力を合わせれば何とかなるんじゃないかって」
「うーん。じゃあ、俺もスプーンをくすねようかな。つーか今思ったんだけど、木の格子の下を掘った方がいいと思うんだけど」
「あ、そうか!」
 と、この時だった。
 がちゃん!
 食事が運び込まれる時に開くドアから、男の影がにゅっと伸びる。どうやらいつもの無口な白人では無いようだ。三ツ井たちには二度目らしかったが、ついにロバートと呼ばれる男が入って来た。同時に涼しい風が足元を吹き抜けて行く。
「やあ、新人さんには初めましてかな。私の事はロバートと呼んでくれ。そうだ、君たちそろそろ風呂に入りたいんじゃないか?」
 いたずらっぽく笑いながら、おどけた様子でその高い鼻をつまむ。
「あんた、いいかげんにしなさいよ! 女性をこんな所に閉じ込めて良心が痛まないの?」
 桜子が木の格子を掴んで大声で抗議する。届かないのは明白だが、同時にその隙間から彼に前蹴りをせっせと入れていた。
「それは悪かった。準備に思いのほか時間がかかってね。さあ、ここでの最後のメシを食ったら、早速出発しよう」
「出発って。どこに行くんだよ」
 三ツ井も非難めいた声を出しながら、その男の眼をまっすぐ睨む。
「この島のどこかにある……『始まりの遺跡』の謎を解きに」 

 数十分後、僕らは深い森を横目に見ながら、ロバートとレスターに前後を挟まれながら石ころだらけの川沿いを歩いていた。
 この頃になると、疲れて無口になる僕らにもようやくここが無人島であるという事がはっきりと理解できてきた。なんせ見渡す限り、森、森、森、なのだ。聞こえる音は、動物の鳴き声と川のせせらぎだけだった。キャンプ用の荷物を背負った背中に滝のような汗をかきながら、そのまま十分ほど歩くとやがて一行は開けた滝壺に出る。
「よし、ここで休憩だ。そこに小さな滝があるだろ? 身体をよく洗うといい」