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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 出された珈琲を三人で同時にすする。
「うーむ。それは、あながち間違いでは無いかもしれんな。この実が盗まれる前に、かろうじてクロマトグラフィーによる定性分析を行ったんだが、全くおかしなところは見つからなかった。更に詳しく検査しようとした夜に、変な三人組に侵入されてかっさらわれたんだ。その中の一人はどうもどこかで見た様な気がするんだが、思い出せない」
 教授は難しい顔して首を捻っていたが……。
 あれ? マサトが何か身体をゆらゆらさせてるぞ。おっと、樹理も急に眠そうな目をして頭を垂れているなあ。
 ちょうどこの時、ポケットに入れてあった携帯が震えた。たぶんローラからの着信だろう。【今日は用事があって教授の所に一緒に行けなかったけど、夜はまたアパートに寄るよ☆】とさっきメールがあったからだ。でも、その携帯を僕はポケットから引っ張り出す事がどうしてもできなかった。手に全く力が入らないのだ。
「けどね、今思うと、本当にあの三人組の慌てぶりはおかしくゎったよぅ……」
 声がぐわんぐわんと耳に響き、視界も急にぼやけてくる。最後の力を振り絞って目を開けると、いつの間に入って来たのか先ほどの学生が僕たちの顔をひとりひとり下からのぞき込むように見ていた。
「きょ、教授……何をし」
 もう口さえも満足に回らなかった。
 その学生は満足そうに頷くと、着ている白衣をむしり取り傍の椅子に放り投げる。彼が髪の毛をポニーテールにまとめていたのだけは、何故かはっきりとこの時覚えていた。
「これでいいんだろ? 約束どおり――家族を返してくれ」
 何故か教授のこのセリフだけははっきりと聞こえた。やがて、白いもやが僕の意識をゆっくりと優しく包み、奪い去っていった。
 

 同じ頃、大沢博之はペルーにいた。
 クリスマスも近いこの時期、ナスカの朝の気温はまだ半袖だと少し肌寒いぐらいだ。博之は昨夜首都リマを出発して、朝一番から地上絵を見学する遊覧飛行機に乗る予定だった。なぜなら日差しと気温が高くなる昼時だと、太陽の反射で地上絵が見づらくなる可能性があったからだ。
「あと十分はあるな。カルロス、申し訳ないが手続きの残りを済ませといてくれ」
 乗り物に弱い博之は、そう声をかけると飛行場のトイレまで行き酔い止めを飲んだ。これから乗るセスナ機は六人乗りで小型の部類に入る。しっかりと機体のバランスを保つため、受付の時に搭乗客の体重を測らなければならなかったが、それは先ほど済ませていた。
「飛行中はお客様に見えやすいようにかなり左右に羽を振りますので、酔いやすい人は薬を飲むか、ガムを噛むなどして対策して下さい」
 砂がうっすらと浮いたカウンター越しににっこりと笑いながら、受付の娘が微笑んだのがつい先ほどのことだ。その制服は胸の部分が強調され、カルロスの目は常にそこに釘づけだった。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
 戻って来た博之の肩には、カメラが入った重そうなバッグが掛かっている。カルロスはそれをするりと外すと自分の肩に掛けた。現地で雇われた日焼けしたこの男の肩には、蛇のタトゥーが入っている。
 滑走路は砂だらけだったが、朝の空気は清々しく澄み切っている。遊覧飛行に一番の敵と言われている霧は、この時期だと心配はなさそうだ。
「オーサワさん。これ」
 乗り込んだカルロスが機内の壁をとんとんと叩く。
 そこには【Tips are welcome】と英語や他の言語で記されていた。
「ははは、後でパイロットに渡さないとな。もちろん君にも」
 博之はぎこちないウインクをした後シートベルトを身体に巻きつけ、両足に必要以上の力を入れ踏ん張った。
 すぐにエンジンがかかりがたがたと機体が震える。客は他に外国人のカップルが一組だけだ。
「うおおおおお! なんて揺れなんだ。大丈夫なのか、これは」
 滑走路からの振動が博之の足を激しく揺らす。この小型のセスナは、お世辞にも乗り心地が良いとは言えないようだ。
 やがて無事に離陸したセスナは、ペルーの太陽をさんさんと背中に受けながらナスカ平原の上で旋回を始める。近年、気候の変化や、観光客の侵入などにより、その絵はだんだんと薄く見づらくなってきていたが、有名な『こまどり』や『蜘蛛』の絵などははっきりとと確認できた。
 そのまま三分ほど飛んだ時だった。ある絵が視界に入ったとたん、博之は何かのスイッチが入ったようにそれを何枚も写真に収めだした。左右に激しく揺れる飛行機からの撮影は大変そうだったが、その『Hands(手)』と呼ばれる絵を見る彼の眼は真剣そのものだった。一見、その絵はヒヨコのような本体の下に手が二本生えているように見える。だがよく見ると、左手の指は五本あるのだが、何故か右手には〈四本の指しか〉ない。
 驚くことに――『禁断の実』が入っていた袋に描かれた紋章とその絵は、非常に良く似ていた。
「やはり……思った通りだ。カルロス、ビデオはちゃんと撮れてるか?」
 前の席にいるカルロスに大声で問いかける。
「はい、ダイジョブです。でもワタシ、気持ち悪くなってキマシタ」 
「ミートゥーだ。だが、頑張ってくれ。もう少しの辛抱だ」
 博之は彼の肩をぽんぽんと叩くと、同じく血の気の引いた顔をひきつらせて無理に笑う。彼らの乗る飛行機の影になった岩場からは、クロコンドルの親子が空を見上げるように首を傾げていた。


 もちろん、太平洋にぽつんと浮いたその島には、滑走路なんてものは存在していなかった。髪の毛を後ろでまとめたロバートが上機嫌で操る水上飛行機は、穏やかな水面に白い二本の航跡を引きながら着水した。その飛行機の後部座席には、三人の日本人がゆっくりとしたリズムの波に揺れながら横たわっている。
 ロバートは比較的低めの岸壁に飛行機を着岸させると、ぐったりした様子のその日本人たちを順番にひょいひょいと担いで運び出した。
「やあ、レスター。食料と燃料を降ろすのを手伝ってくれ。俺はそのあとコイツを隠してくる」
 顎を飛行機に向けてしゃくりながら、出迎えた男に声を掛ける。
「はい、長いフライトお疲れ様でした」
 サングラスをかけ真っ赤に日焼けしている三十歳ぐらいのこの男は、一見偉そうに見えるが、ロバートの忠実な部下であった。二人とも日本にいた時のような堅苦しいスーツではなく、この島では開襟シャツを涼しげに着こなしている。力を合わせて少し開けた場所に三人を寝かせると、後をレスターにまかせロバートはまた飛行機に乗り込んだ。 
「くそ、こりゃ重いな。あのー、プリズンから台車を持って来ますね」
 ここからプリズンまで徒歩で約十分程度だった。再び飛行機に乗り込むロバートに向けて大声で叫ぶと、レスターは森の奥へと消えて行った。

 二時間後

「もう食べれませんから!」
 僕はガバっと身体を起こした。今まで見ていた夢は、何度も繰り返し見ていた夢の中でも最悪だった。それは、お馴染みの黒い大きな目玉野郎が、延々と僕に何か赤い果物を食べさせるというものだった。
「ここは? 待てよ、まだこれって夢かも。だって今の季節こんなに暑い訳がないし。よし、また寝よっと」