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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「ええ、まだ何部屋かあるみたいね。中はよく見えないけど。しっかし何なのよ、この暑さ!」
 スーツの上着を脱いで、彼女もシャツの腕を捲り上げる。
「そうか。他にも閉じ込められてるヤツがいるかもな。とにかく、いつまでもこんな不潔な所には居られないから脱出を考え」
 がちゃん! 三ツ井の言葉の途中でドアが開く音がする。同時に日の光と共に、埃を巻き上げた風が通路を走って行く。
「誰か来たで」
 哲男の声でみんな急いでベッドに戻り、寝たふりを始めた。
 ざっざっざ!
 土を踏みしめる規則正しい音が近づいて来る。
「おはよう、諸君。良く眠れたかな? いやいや、寝たふりはしなくていい。全部マイクで聞こえているからね。私はロバート。今日から君たちのボスになる」
 ポニーテールの白人がおかしそうに笑いながら、三人から見える位置まで近づいてきた。三ツ井たちは身体を起こしベッドに浅く座り直すと、この白人を一斉に睨み付ける。
「ボスだって? おい、とにかく説明してもらおうか。何で俺たちをこんな所に閉じ込めるんだ?」
 黄色のアロハシャツを着たこの男は、三ツ井のこの質問に謎かけでもするような表情を浮かべる。
「何でだって? 心当たりはないのか?」
「心当たりってなんだよ! 俺たちが何かおまえらに悪い事したか?」
 立ち上がってその男に近づくと、三ツ井が納得いかない顔で吠えた。 
「今から説明するから、その汚い口を閉じろ。私にたてつくと、後でたっぷりと後悔することになるぞ」
「なーにが『私にたてつくと』じゃ。えっらそうに」
 ロバートの後ろから哲男がぶうぶう文句を言う。 
「まあいい。お前たちがここに来たのは……『禁断の実』の件だ。君らはあの実の事にはずいぶんと詳しいよな?」 
「なによ! あんたたちひょっとして、独り占めしてお金儲けしようってんじゃないでしょうね?」
 桜子は口をとがらせた。 
「バカ言っちゃいけない。君たちも本当は気づいてるんだろ? もう『禁断の実』は独り歩きしているから、利益なんて生み出さないってことを」
「じゃあ、別に俺たちの事はほっといてくれればいいだろ?」
「そうもいかないんだ。私たちの組織はある予言を軸に動いている。ここ数か月、我々は君たちの動向を静かに観察してきた。ありがたい事に、いろんな意味で貴重なデータがとれたよ。しかし、この拡散スピードは、我々が思ったよりも遅すぎる」
「おまえは何を言っているんだ? まさか、世界でも滅ぼそうとしているのか?」
 理解できないという顔で三ツ井は片方の頬を吊り上げる。
「好きにとればいい。とにかく君たちには〈いろいろと〉協力してもらうことになる。なんせ最初にこの実を売り出した責任があるからな。おっと、忘れていた。いいニュースもあるぞ。明日、君たちの新しい仲間がこの島に到着する。仲良くしてやってくれ」
 ロバートはくるっと踵を返すとドアに歩きかけた。
「待て! いま島って言ったよな? いったいここはどこなんだ?」
 ゆっくりと足を止め、指揮者のように人差し指を振りながら答えた。
「ただの――無人島だよ」 

 その一日前

 この日マサトと僕、そして樹理は帰国した高槻教授に呼ばれ大学の研究室にいた。こざっぱりと片づけられたその部屋には、実験書籍が入った大きな本棚がところ狭しとせり出していて、思ったよりも狭く感じる。
「大沢君から君のことは聞いていた。マサトくんだね。ほう、彼に少し目元が似ているな。そう言えばまだ大沢君に連絡がとれないんだって?」
「ええ。携帯も繋がりませんし、現地の宿泊先に電話しても要領を得ません。昨日、教授から電話をいただいてからもう一度電話しましたが、前と全く同じ回答が返ってきただけでした」
 この会話を聞いて、僕は何とも形容しがたいような不安に襲われていた。
「そうか、無事だといいのだが。また私からも連絡をとってみるよ。……ところで、君のおじさんから預かった『禁断の実』が、私の研究室から盗まれてしまった事は知ってるね?」
「はい、警察は全然動いてくれないようですね」
「そうなんだよ。彼らはたかが木の実だと思っているが、これがどれだけ貴重なものなのかが分かっていない。あ、君、悪いが彼らに珈琲でも買ってきてやってくれ」
 入って来た時から研究室にいた一人の学生を呼び小銭を渡すと、テーブルを挟んで僕らと教授は向かい合って座った。いま出て行った学生は留学生だろうか。(少し老けているなあ)とこの時少しだけ気になってはいた。
「あ、遅くなりましたが、僕は柏木翔太と申します。この娘は僕とマサトの友達で、及川樹理と言います。今日はお招き頂きましてありがとうございます」
 座ったままだったが、改めて二人で頭をペコっと下げる。
「初めまして。マサトくんから『あの実を実際に食べた人物が身近にいる』と聞いてね。もう身体の方は大丈夫なのかい?」 
「はい。僕は入院してしまいましたが、彼女はすんでのところで入院を逃れました。詳しい経緯はマサトくんから聞いているとは思いますが」
「ふむ。睡眠薬を無理やり飲んで、依存を断ち切ったという娘だね。大したもんだよ」
 それを聞いた樹理は、僕の隣で少し照れながら再び頭を下げた。
「あの、早速ですが、最近ひんぱんに起きている変死事件ってありますよね? あれと今回の盗難事件は何か関係あると教授はお考えですか?」
「ああ、電話でマサトくんが言っていた件だね。私の古い知り合いに聞いた話だと、現場から植物のようなものが見つかったらしい。だが、それが果たして『禁断の実』かどうかはまだ確認できていない。ただ……」
「なんです?」
「全ての現場でそんな植物が見つかっていたのなら、警察もさすがに関連性を疑うだろう。遺体の胃を調べて同じような内容物があれば、とっくにニュースになっているはずだ。謎の変死事件はもう数十件どころじゃないからね」
 ドアが開いた音がして、ここで教授はいったん言葉を切った。先ほどの学生が紙コップに入った珈琲をテーブルに置くと、無言で部屋を出て行く。
「さあ、冷めないうちに飲みたまえ。ところで、翔太くんとそこのお嬢さんはその『禁断の実』を食べた時にどんな風になったのかな?」
 興味深げに身体を少し乗り出すと、テーブルの上から自分のメモ張を拾い上げた。
「僕と樹理の感じたものは大まかに言うと一緒だと思われます。まず幸福感が押し寄せてきて、頭がぼうっとしてきました。次に根拠のない達成感と酒に酔ったような陶酔感が延々と続きました。一番特徴的だったのは、『この植物は命に代えても手放したくない』と常に考えていた事です。その時はまさに中毒症状のまっただ中だったと思います」
 あの時の事を思い返して、少し身震いする。しかし、またあの感覚を味わいたいと不謹慎な事を同時に考えてしまうのは否めなかった。
「なるほど。聞いてた、ごほん! いや、思っていた通りだ。で、翔太くんはその後病院で血液検査を受けたんだね?」
 ここで何故か、「しまった」という表情を教授が浮かべる。
「ええ。しかし、何もおかしな成分は発見されませんでした。僕たちは、これが宇宙から持ち込まれた物質だと勝手に想像していましたけど、そんなバカな話ってないですよね」