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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 あまりタイプでは無かったのか、玲奈は分かりやすく眉間にしわをよせた。二階はいわゆる『即席カップル』がいちゃつく場所である。
「嬉しいけどお、まだここで踊りたいし」
 さくらが空気を読んで断る。
「ちぇ、まあいいや。じゃあさ、アレいる? アレ」
「アレってなによ? 危ないモンじゃないでしょうね?」
「いや、噂じゃ聞いたことあるだろ? あの『RED』だよ。本当は誰かに紹介されないと売っちゃいけないんだけど、お姉さんたちここの常連みたいだからさ」
 その若者は周りに油断なく眼を走らせながら、二人に耳を貸せというジェスチャーをする。昨今では、クラブ内でのドラッグ販売は厳しく取り締まられる傾向がある。
「え、マジで? あたし一度それやってみたかったの! 完全に合法ってヤツでしょ?」
 ノリの悪かった玲奈が、別人のようにぱっと顔を輝かせる。
「もちろん。お姉さんたち綺麗だから、特別に安くするぜ。後でここに電話くれよ」
 シャツのポケットから名刺のような物を取りだし、気取った動作で彼女たちに渡す。スポットライトに一瞬浮かび上がったその若者の口元は、にやっと笑っているようにも見えた。
「分かったわ、連絡する。じゃあ後でね」
「おう」
 若者たちは手を振ると、次の獲物を見つけたのかまたメインフロアに身を溶け込ませていった。
「ねえ玲奈。『RED』って、もしかしてこないだ健太たちが言ってたやつ?」
「そうそう。普通の植物なんだけど、特殊な育て方をするとヤバい実ができるみたい。トビ方は危険ドラッグなんて目じゃないって聞いたわよ。それに、なんて言っても捕まる心配は無いみたいだし」
「やっぱり。……そういえば、健太たち最近見ないわね。あたしこないだメールしたけど、まだ返事が返ってこないの」
「まーた女でも連れ込んでんじゃないの? あんたも元カノだからって、いつまでもあいつにメールとかしてんじゃないわよ。もう忘れなさい」
「うるさい!」
 口調は怒っていたが、『RED』の説明を聞いてからのさくらは明らかに上機嫌だった。メインブースではDJが交代したのか、ここで歓声がひときわ大きく上がる。
 ちょうどその時、深夜のニュースでは、渋谷のマンションで変死した若者の名前が読み上げられていた。その名前は――高橋健太であった。そう、さくらの元彼氏である。
 このようにして『RED』は、若者を中心に波紋のように広がっていった。そして、その実を食べた者の末路は……いずれも似たようなものだった。


 籠の中の鳥たち

 額に汗の粒を浮かせて三ツ井は目が覚めた。
 身体を起こすと、頭が痛むのかこめかみを押さえて少しの間じっとしている。彼の尻の下には、汗を吸って変色した決して清潔とは言えない色の布団が敷かれていた。その下の地面は剥き出しの土に覆われ、穴が掘られただけのトイレと、灯りをとるためなのか燭台が一つ木の台座に置かれている。
「うう……頭がいてえ。一体ここはどこなんだ?」
 そう言っている間にも、その額と首筋からは汗が止めどなく湧きだしている。
 顔を上げ視線を横に移した彼の眼が、突然驚愕したようにぱっと開いた。三方向は土の壁だったが、残りの壁には太い木の杭が何本も打ちこまれていて、そこはさながら牢屋の様相をしていた。
 さらに向かいにも同じような部屋があり、そこにも一人の男が背中を向けて横になっていた。ふらふらしながら起き上ると木の格子まで歩き両手でそれを掴んだ。三ツ井の眼はまだ少し寝ぼけているようだったが、向かいの部屋の男の服装と、特徴のある坊主頭を見た瞬間、顔色を変えた。
「哲っちゃん? そこにいるのは哲っちゃんだろ? おい、起きろ!」
 その声に身じろぎした男は、しばらくするとむくっと起き上がった。
「ん? ここは?」
 まるで夢でも見ているかのように回りを見廻すと、三ツ井の姿が目に入ったのか首を傾げる。
「三ツ井さん、そこで何しとん? あんたまるで動物園の猿みたいやで」
 不思議そうな顔で目を細めると、終いにはからからと笑い出した。
「バカ、おまえもだよ。というか笑ってる場合じゃないぞ。これが夢じゃないとしたら、俺たちは――間違いなく牢屋にいる」
「そんなの見たら分かるがな。問題は、なぜ俺たちがここにいるかってことや」
 三ツ井は目にしている現実を受け入れることが出来ない表情でゆっくりと後退りすると、またベッドに力なく腰を下ろした。 
「落ち着いて思い出してみよう。なあ、あの夜料亭で例の外国人たちと会ってからの記憶はあるか?」
 壁に張り付いている特大サイズの蜘蛛に眼をやりながら問いかける。
「あのポニーテールの男前と、目つきの悪い白人やな。きっちり契約を交わしたところまでは憶えとるで」  
「ああ。そして乾杯したあと、料理が運ばれてきたよな。ビールの後日本酒を飲んで……」
 必死に思い出そうとしているのか、眉間にしわが寄っている。
「あんた結構飲んでたよな。自分、あんまり飲んでへんのに」
「ちょっと待て! だんだん思い出してきたぞ。そろそろ帰ろうと、俺はポケットから車の鍵をとりだしたんだ。桜子に運転させようと思ってな。それが手からするっと滑り落ちてから、目の前が歪んで……そこからぱったりと記憶が無くなっている」
「そういえば、桜子はんは?」
 その言葉ではっと我に返ったように、三ツ井はまた立ち上がる。
「そこから俺の隣の部屋とか見えないか?」
「ちょっと暗いな。あんたの部屋の隣と――おっと、おったで。どうみてもあれは女の足や」
 同じように、向かい合う形で木の格子をつかみながら哲男は頷いた。
「うーん。ということは、どうやら俺たちはマジで拉致されたようだな」
「そのようやな。薬かなんか盛られてからここに連れて来られたんや」
 うだるような暑い牢屋の中で、シャツ一枚になった三ツ井が袖を捲る。同じようにランニング一枚になった哲男は、そばにある水差しから一口水を飲んだ。
「ぺっ! なんやこの水は。まるで泥水やで。とても飲めたモンやないな」
 筋肉質の締まったその身体は、シャツから細い腕がにょきっと出ている三ツ井とは対照的で面白い。
「ねえ! その声は哲っちゃん? 三ツ井さんもそこにいるの?」
 どうやら桜子も起きたようだ。
「おはよう、桜子。悪いニュースだが、俺たちはたぶん拉致されたんだと思う。そこから何が見える?」
「きったない土の壁と、木の格子よ。あと、虫に刺された腕と足ね。ところで、ここはどこなのよ」
 三ツ井の隣の部屋から、桜子のイライラした声が聞こえて来る。 
「その質問は俺がしたいくらいだ。たぶん、どっかの島じゃないかな。少し潮の香りがしないか?」
「ええ。地下では無いみたいね。通路から少し潮風が入ってくるし。もう! せっかく買ったスーツが汗でびっしょりよ。すぐクリーニングに出さないと」
「……桜子はん。あんたまだ寝ぼけてて状況が分かってないようだけど、これは異常事態やで。大の大人が三人さらわれるなんて普通やないわ」
 少し呆れた表情で哲男は首を振った。
「とにかく状況を把握しないとな。桜子の所から他に部屋が見えるか?」