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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「まあ、そろそろ潮時かもね。ニュースではまだ言ってなかったけど、この子って確か政治家の隠し子でしょ? いずれマスコミが嗅ぎつけて大騒ぎになるわよ。これをきっかけに、警察も本格的な捜査を始めるはず」
 同じく高級スーツに身を固めた桜子は、彼の支度が終わるのをいらいらした様子で待っていた。
「かもな。思った通り、こいつらは勝手に苗木を増やして、最近じゃ高校生にまで売りさばいているようだ。まあ、これは最初から分かっていたことだけどな」
「そして……次々に死んでいくと。売る側もクールダウン期間の事は伝えてないわけね。自業自得だけれど、何かこう罪悪感はあるわね」
 片手で髪の毛をかきあげながらハンドバックから車のキーを取り出す。
「ルールさえ守って楽しめば、安全に遊べるのに。だけど、可笑しな事に一つだけはきちんとルールを守っているんだぜ」
 何かを想像しているのか、突然くっくと笑い出す。
「何よ、気持ち悪いわね」
「だってさあ、あいつら毎日『今日は元気だったかあい? REDちゅわわあん』とか声掛けているんだぞ? その姿を想像してみろよ。なんか笑っちゃうだろ」
「まあ、ね。その結果は知っての通り悲惨だけど。あ、そろそろ予約の時間よ。急いで! 哲男がまた怒りだすわよ」
「はいはい。で今日はどこだっけ?」
 桜子は料亭の名前を早口で答えると、つかつかとドアに歩み寄りさっさと出て行く。今夜このあと、彼らは新しい客と顔合わせをする予定だ。この事自体は何も珍しい事では無いが、この日はいつもと少し違っていた。
 今夜顔を合わせる相手は――初の『外国人』だった。

 同時刻

 僕とマサトは牛丼を腹いっぱいに詰め込んだまま、新宿の靖国通りを歩いていた。
「なあ。いつか聞こうと思ってたんだけど、俺を探すのに結構お金使っちゃったんだろ? しかも、それをあのローラ様が立て替えてくれたらしいじゃん」
 マサトは僕の肩を軽く小突くと、少し申し訳なさそうに眼を伏せた。
 季節はもう冬だ。この帰宅ラッシュの時間は、駅に向かう人や逆に歌舞伎町方面に向かう人たちが交わり、歩けば肩が当たるほどにごったがえしていた。目の前ではダウンジャケットのポケットに手を突っ込んだ男の腕に、女子高生が白い息を吐きだしながら笑顔で腕をまわしている。
「うん。毎月少しずつ返すって言っても彼女は絶対に受け取らないんだ。それどころか……」
「なんだよ?」
 こいつはローラの話題には敏感に反応する。
「あれから週末になると僕のアパートに顔を出すんだ。夕食の材料持ってね。しかも、香ばしい外車で乗り付けちゃうから、あのフェラーリサウンドっつうの? あれでアパートの住民ほとんどが窓から顔を出すんだよ」
「ほーう。それで?」
 心なしか、マサトの眉間に皺が寄っているようにみえる。
「でも最近はもうみんなすっかり慣れちゃって、『ローラちゃん今日も相変わらず可愛いねえ』とか言われて、すっかりアパートの人気者なんだ。最初はビックリしていた大家さんもさ、『彼女が来たよお!』とか庭いじりとかしながら僕を大声で呼ぶの。別に彼女じゃないんだけどな」
「はっはっは! ……コラ。なんだおまえは、自慢か? 俺に自慢がしたいのか?」
 目が全然笑ってない。
「いや、マジ困ってるんだって。今日だって今ごろたぶんアパートに行ってるはず。でも居ないって分かったら、彼女すぐにアイツに連絡するからなあ」
 アイツとはあの私立探偵の事だ。何が彼女に気に入られたのかは理解不能だが、ローラはあの探偵を先月から専属で雇ったらしい。
「ああ、黒木のおっさんか。専属ってことはまさかローラ様の家に?」
 ふいに、ぽつり、ぽつりと小雨が降り出し肩を濡らし始めた。そのせいか、色とりどりの派手なネオンたちがとたんに霞んでぼうっと輝き出す。
「それは無いだろ。でも、あのおっさん優秀だよな。あっという間におまえを見つけ出したんだから。夜中に僕たちがドアを叩いた時はびっくりしただろ?」
 この時、僕は少し意地悪そうな笑顔を浮かべてたかもしれない。
「何にやにやしてんだよ。……そりゃびっくりしたさ。誰かに狙われてるかもしれないんだから」
「ごめん、おじさんのことも心配だよな」
 マサトのおじさんはまだアメリカから帰国していない。更に連絡もぷっつりと途絶えてしまったらしい。この事も含め、禁断の実にまつわる不吉な話をマサトから聞くたびに、僕は罪悪感に苛まれてしまう。
 背中を丸めて歩いていると、どこからかテレビのニュースの声が聞こえて来る。
「今日の午前九時ごろ、東京都渋谷区のマンションで十代と思われる男性の変死体が発見されました。近隣の住民から『異臭がする』との通報で警察官が駆け付けた所……」
 大手電気店の前でマサトが急に立ち止まった。そして、テレビの大画面を興味深げに見つめる。
「また変死体だとさ。最近こんなニュースが多すぎるな。何か共通点でもあるんじゃないか?」
 共通点? マサトの言葉で心臓の鼓動が早くなったような気がした。ちょうど禁断の実の事を考えていた僕は、頭の中で何か回路が繋がったような不思議な感覚をこの時覚えた。
「なあ、そう言えばこないだ『教授の研究室から禁断の実が盗まれた』って言ってたよな? あれって犯人は捕まったのか?」
 肩を濡らす雨の冷たさとは違う冷気が背筋を走り抜け、鳥肌がぶわあっと広がっていく。
「いや、確かまだ捕まってないはずだ。っていうか、『木の実』なんて警察は真面目に探しちゃくれないらしい。まあ、それでも諦めきれずに、高槻教授は住居侵入の件で被害届を出したみたいだけど……。あっ!」
「うん。ひょっとしたら最近の一連の事件は……」
 僕は慌てて携帯を取り出し、ローラの番号を押した。
「もしもしローラ? 黒木さんにすぐ連絡とれる?」
 受話器から聞こえてきた彼女の声は――明らかに不機嫌そのものだった。

『六本木 クラブJOKER』 深夜
 
 深夜二時を回る頃、人気DJによるイベントが始まった。さくらと玲奈はいつものようにバーカウンター付近に陣取るつもりで少し早めに来たが、店内は人でごったがえしていて動くのもままならないようだ。DJブースの前などは興奮したファンたちが押し寄せ、ちょっとしたパニックになっているのが分かる。メインフロアもびっしりと若者たちで溢れかえり、腹に響く低音のリズムに合わせて彼らは思い思いに身体をくねらせていた。
「ねえ、ここってナンパ箱だったはずよね。もー、イベントの時だけ音楽箱の人たちが押し寄せてきてやんなっちゃう」
 化粧を壁の鏡でチェックし終えたさくらが、玲奈を振りかえった。
「ま、今夜はしょうがないんじゃない? 普通に楽しみましょ」
 昼間はOLをしているこの二人にとって唯一の楽しみは、クラブで踊ることや色の浅黒い男たちにナンパをされることだった。会社の時の服装と違い、今はミニスカートから長い脚をこれ見よがしに覗かせている。
 ビールを片手にしばらくリズムに頭を揺らしていると、派手なシャツを着た二人組が巧みに人ごみを縫いながら彼女たちに近づいて来た。   
「ねーねー、一緒に踊らない? もし良かったら後で二階に行こうぜ」