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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「相変わらず凄い人ごみだなあ。いつも思うんだけど、ハチ公前を待ち合わせにしたら余計見つけにくいだろうに」
 電車を乗り継いでいるうちに、雨は小降りになっていた。ハチ公前では色とりどりの傘を持った若者たちが、人を待ったり携帯をいじったりしている。
「そうね。翔太は人ごみが嫌いだっけ? あたしは好きよ。この人たちにはそれぞれの人生があるんだなあって考えたりしながら歩くのが好き」
 僕の肩が濡れないように、小さ目の傘を傾けながらにっこりと笑いかける。
「ところで松濤に家があるんだっけ? 大きい家なのか?」
「ええ。たぶんびっくりするわよ。そこの執事がめっちゃ怖いの。ローラに近づく男を片っ端から抹殺してるって噂よ。しかも庭には凶暴なドーベルマンがわんさかいるわ」
 今度は深刻な顔を作り、脅かしてくる。
「えーと、だんだん行く気が無くなってきたんですけど。そうだ! 彼女をどこかに呼び出した方が」
「ふふ、急に怖がっちゃってどうしたの? さあ、もうすぐ着くわよ」
 そんな会話をしているうちに、ローラの邸宅に着いた。鉄格子の門がまるで二人を拒んでいるように見える。
 二台のカメラが睨みを効かせるなか、樹理が慣れた様子でインターフォンのボタンを押す。
「こんばんは。また来ちゃいました。友達の樹理です」
「ようこそ。先ほどからお嬢様がお待ちです。今お迎えにあがりますので。え、お嬢様? どちらへ?」
 声が突然途絶えた。その太く響く声を聞いた僕は、少し逃げ腰だった。おまけに犬の鳴き声まで近づいて来ている。
 しばらくすると、門が開いた。その先には……。
 これからパーティーですか? というような服装のローラが、二匹のドーベルマンを従えて立っていた。
「よよよ、ようこそいらっしゃいました! もう、ガブリエルはあっち行ってて!」
 後ろを追いかけてくる執事に向かって小さく手を振る。髪を巻き上げ、紫のドレスを着たローラの顔の色は、この雨の中でもほんのりピンクに染まっているように見えた。
「ちょっとあんた――何よその格好。これから夜会でもあるの?」
 自分の服装と見比べながら、樹理が呆れた声を出した。
「しょ、翔太くんが来るって聞いて、急いで一番お気に入りのドレスを着てみたの。本当は美容院でセットしたかったんだけど……」
 突然、となりで尻尾を振っているドーベルマンの横にかがむと、その毛をもじもじ、ぷつぷつと抜き始めた。犬は「解せぬ」というような心底困り果てたような顔をしていたが、されるがままだ。
「あのー、ここじゃローラさんも雨に濡れちゃうから、場所変えない?」
「あら、ごめなさい! こちらへどうぞ」
 小雨の中、傘も差さずにあわてて迎えに来たのだろう。彼女の肩はしっとりと雨に濡れていた。
 案内された家の中は目を見張るほどの広さに加え、高価そうな調度品が嫌味なく並んでいる。マッチョな執事に案内され、僕らは甲冑が置かれた和室に通された。新しい畳の匂いが気持ちいい。ローラはと言うと、着替えに行ったようでなかなか帰って来ない。
「ガブリエルさん。何度もお邪魔しちゃって申し訳ありません」
「いえいえ、かまいませんよ。お客様がいらっしゃると家の中が明るくなります。ここだけの話ですが、お嬢様は家の中ではめったに笑わないのですよ。私の冗談がつまらないという事もあるかもしれませんが。ところで、そちらの男性の方は?」
「初めまして、柏木翔太です。ローラさんの友達っていうか、樹理の友達の友達っていうかそんな感じです」
「なるほど、そうでしたか。お嬢様があなたの名前を聞いたとたん少女のような声をあげたかと思うと、忙しくお着換えを始めたので……。まさか、付き合ってるわけでは?」
 ガブリエルの眼が細まり、僕の心を覗き込むようにきらーんと光った。
「ま、まさか。ちゃんと会うのは二回目です。な、樹理」
「ええ。紹介した時から、かなり気に入ったみたいですけどね。ところで、ローラ遅いわね。また違うドレスにでも着替えてるのかしら」
 言い終わらないうちに、部屋にローラが入って来た。薄紅色のワンピースからは長い脚がスラっと伸びている。ふと気づくと、ガブリエルは忍者のように部屋からいつの間にか消えていた。
「もう、あんた気合い入れすぎよ。……気持ちは分かるけど」
 樹理は僕に背を向け、ウインクか何かをしたようだ。ワンピースの裾を直しながら、檜の香りのするテーブルに片手を添えてローラも腰を下ろした。
「今日来たのは、こないだ樹理がプレゼントした『イブの木』の事なんだけど」
「はい。私の部屋の出窓に飾ってあります」
 俯きながら耳を真っ赤にしている。
「いや、ローラさん。そんな固いしゃべり方じゃなくてもいいよ。普通で大丈夫」
「そうよ。こんな男に敬語はいらないわよ。いつもみたいにラクショーナリー! とかでいいのよ」
「ぶっ! ごめん。でもそんな感じでいいよ」
 僕のこの言葉で、ローラは緊張が解れたように顔を上げて微笑んだ。彼女が笑うと、床の間に飾ってあるぽっかりと空いた甲冑の口も、心なしか笑っているように見えてくるから不思議だ。
「じゃあ、本題に入るよ。言いにくいんだけど、そのイブの木を返してくれないかな。早急に処分しなければならないんだ」
「え。何でですか?」
「その木はとても危険な実をつけるんだ。正確には、決まった手順を踏むと危険な実になるってことなんだけど……」
 僕は自分に起こったことや樹理に起こったこと、マサトに連絡が取れないことなど全てを話した。
「分かったわ。じゃあ、しょ、翔太くんと樹理は、私を心配して家に来てくれたのね。嬉しいわ、ありがとう」
 まだ、翔太くんと言うことには抵抗があるようだ。
「うん。これ以上この『イブの実』が世間に広がってはダメだ。僕はこれからマサトを探しに行く。彼のおじさんがこの実のことを調べてくれているらしいから、その結果もぜひ聞きたいしね」
「あの、私も何かお手伝いできないかしら?」
 僕の方に向かって、ローラはずいっと身を乗り出した。
「あたしも手伝うわ。マサトは親友だもの」
「ありがとう、助かるよ。あいつの住所は大学で調べたら分かると思うんだけど、引っ越ししてから更新してないって言ってたからどうかな。場所は、高田馬場の早稲田口を出たどこかって聞いたような」
「じゃあ、今から早速行きましょう。――ガブリエル!」
 すっと金の富士山が描かれたふすまが開くと、ガブリエルがすでに控えていた。
「車を用意して。速いのをお願い」
「アヴェンタドールですね。あの、お嬢様が運転なされるのですか?」
 彼の顔がこの時少し曇ったのを僕は見逃さなかった。
「もちろん。でも三人乗れるのにして」
「かしこまりました」
 十分後、雨上がりの車止めには、純白のメルセデスベンツ、S65‐AMGが用意されていた。
「えーと、何だろう、このとても庶民的に見えない車は。これを彼女が運転するって?」
 既にエンジンがかかっている運転席のドアに手を添え、ガブリエルが待っている。そのベンツからは停まっているだけなのに、周りを威嚇するオーラがじわじわとにじみ出ていた。
「お嬢様。ぶつけるのは一向に構いませんが、くれぐれもお怪我をなされない様に」