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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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 甲州街道をひた走るミニクーパーの中では、桜子がハンドルを握りながら眼をきらきらさせていた。
「わいのおかげや。ちゃんと分け前はもらうで。もう仕事も辞めなあかんしな」
 哲男は助手席から後ろの三ツ井を振りかえった。三ツ井の様子を見て、彼もだんだん頬が緩んでくる。
「まあ待て。問題は栽培方法なんだ。完全にマニュアル化して売らないといけない。利益を出すまではまだまだかかるから、哲っちゃんはしばらく今まで通り仕事をしててくれ。顔は見られていないはずだから大丈夫だろ」
「分かった、まかしとき」
「じゃあ、飛ばすわよ! しっかりつかまっててね」
 桜子は赤いマニュキュアを塗った指で、ラジオのボリュームを上げる。ラジオからは、ちょうど彼らの気分を盛り上げるように、クイーンの『We Will Rock You』が流れ始める。
 ミニクーパーはタイヤを軋ませ交差点を曲がると、前もって契約した茨城の農場に向かって夜の街を疾走して行く。

『マサト』 数日前

《夢を見ていた。中世にあるような上から布のかかったベッドの中から、ローラが艶めかしく手招きしている。ぶかぶかの男物のTシャツを着て下半身は布団に隠されている。「うん、これは夢だな!」俺はすぐ気づいた。しかし、あこがれのローラ様が笑顔で手招きしている以上、男としてこの機会を逃すワケにはいかない。そう思うが早いか、助走をつけてベッドに頭からダイブする。すると……突然ローラの顔が巨大化して、黒いカタマリになった。大きくなりすぎて壁を壊すほどに。そのカタマリには不気味な二つの大きな目玉があり、それはギョロギョロとせわしなく動いている。得体の知れない恐怖を感じ喉から絞り出すような叫び声を上げたが、次の瞬間そのカタマリの口が大きくぱかっと開き、それに俺は頭から飲みこまれていった》
「ぎゃあああ!!」
 自分の叫ぶ声で目が覚めた。ぱかっと目を開けた先には見慣れた天井が見える。目覚まし時計の針は朝の九時半を指していた。
 ローラの家にケーキの試食係に行ってから、毎日のように悪夢を見るようになった。
 毎回出てくる黒いカタマリ――あれは一体何なんだろう。夢の中の、ローラ様の笑顔が忘れられない。台所に行きインスタントコーヒーを注ぐ時になって、やっと頭が冴えてきた。
 そろそろおじさんに電話してみようと思い立ち、受話器を上げる。
「もしもし、マサトです。お忙しい所すいません。あの紋章の事なんですが……何か分かりましたか?」
 コーヒーカップを持ちながら鏡に自分の顔を映してみると、ツンツンヘアーが寝癖でとんでもない方向に向かっているのが見える。
「ああ、その事だけどな。ある文献に行き当たったんだ。親友のツテを使ってな。――いいか、マサト。あの『イブの実』は『禁断の実』の可能性が高いんだ」
「禁断の実? 何ですかそれは」
「一言で言うと、古代のいくつかの文明を滅ぼした危険な果実かも知れん。今知り合いの研究室に分析を頼んでいるんだが、まだ結果は出ていない。それでな、……ちょっと待ってくれ。キャッチが入った。その電話かもしれん。後でかけ直す」
 んー、禁断の実か。何か妙にそそる名前だなあ。俺は携帯をテーブルに置くと、ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干した。
 すぐに電話が鳴る。
「はい」
「マサトくん、良く聞け。イブの実の写真をアメリカの信頼できる機関に送ったんだが、いま返事があった。君の友人がインドで貰ったのは、ほぼ確実に『禁断の実』のようだ。私は今からアメリカに飛ぶ。そこで、君にひとつ注意を与えたい」
「なんでしょうか」
「この件に関わった人物全てと、しばらく連絡を取らないで欲しいんだ。電話をしてもいけない。そして……この件は全て忘れて欲しい」
「翔太や他の友達と連絡を取るなって言うんですか?」
 少し警戒しすぎじゃないか? 俺は少し納得がいかなかった。
「そうだ。少なくとも数か月はね。大変だとは思うが、これは君のためなんだ。それくらいこの実は『危険』なんだよ」
「……分かりました。でも、大学ではさすがに会ってしまうと思いますが」
「大学は行かなくてもいい。とにかく一か月は接触しないでくれ。できたら引っ越しもして欲しいくらいだ。ところで、君は最近妙な夢をみないかね?」
 大学に行くなって? 冗談じゃない。俺は単位がぎりぎりなんだ。
「おじさんの頼みでもずいぶん勝手ですね。少し考えさせて下さい。夢ですか? 怖い夢を見るようになりましたけど、それが何か?」
「やっぱりか。まあ詳しい事は帰国してから話そう。じゃあ私の言ったことをちゃんと守ってくれよ」
「出来る限りやってみます。大学の友人は僕の家を知らないから大丈夫だと思いますが、じゃあ携帯は切っておきますね。おじさんが帰国したらパソコンの方にメールを下さい」
「分かった。ではまた」
 古代文明を滅ぼしたって? 
 幾らなんでも、科学が発展している現代は大丈夫だと思っていた。だが……その考えが間違っていた事に、この時は気づきもしなかった。
 そして、この日から三日後、高槻教授の研究室から『禁断の実』が盗まれる事となる。
 例の夢を見てまた僕は飛び起きた。この夢のせいか分からないが、最近寝起きが悪く頭が重く感じる。ふと見ると、ベランダには真っ赤に熟したイブの実が四つ、こちらを伺うように見つめていた。
 僕はあれから、イブの実の成長を細かくノートに記録していた。幾度も誘惑に負けそうになったが、母の涙を浮かべた顔を思い浮かべると、その誘惑を何とか断ち切ることができた。
 同時に、『夢日記』なるものをつけ始めた。どのページにも黒いカタマリが出てくる。そしてそれは形を変え、最後には必ず僕たちを襲って来るのだ。『たち』というのは、樹理、マサトと、なぜか一度会ったきりのローラの事だ。
 これだけ毎日同じような夢を見るというのは尋常ではない。そこで僕は、今日こそ樹理に会ってみようと決心した。
 プルルルル、プルルルル……。
 相変わらず電話に出る気配はない。彼女の家にはつい三日前に行ったばかりだが、その時は留守だった。そこで、少し襟足が伸びた髪を整えシャツに袖を通すと、自転車で樹理の家に向かった。そろそろ心配でいてもたってもいられなくなってきたのだ。
 もう十月も後半とはいえ、まだまだ外は暑い。すれ違うカップルが腕を組んでいるのを見て、あれって暑くないのかなあなどと感心しながらペダルを踏む。
 彼女の家は、自転車で三十分ほど走った商店街の外れにある。こないだはチャイムを鳴らしても出て来なかった。ただ……電気のメーターはかなりの勢いで回っていたからひょっとして家の中にいたのかもしれない。でも、もし中にいるとしたら、なぜ居留守を使う必要があるのだろう。
「おーい、樹理いるかあ」 
 白い外壁のこじゃれたアパートのドアをノックしたけど、また返事はない。そこで思いつき、バイト先の先輩に電話をしてみた。
「ご無沙汰してます。柏木です。あの、樹理と連絡が取れないんですけど何か聞いてますか?」
「お、久しぶりじゃん。翔太くんもなんか大変だったんだって?」
「はい。その節はバイトに穴を空けてしまって、本当に申し訳ありませんでした」