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かざぐるま
かざぐるま
novelistID. 45528
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禁断の実 ~ whisper to a berries ~

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「君も知っている通り、古代文明の滅亡には謎が多い。中には、侵略された跡さえも見つからない場所もあるほどだ。例えば、彼らの食生活に突然、翔太くんがハマったような非日常を見せる果物が登場したらどうなると思う? しかもある日突然に。娯楽の無い古代人などはあっという間に夢中になってしまうだろうね」
「その通りよ。そしてもし、この実が現代に広まったら? 現代人だって夢中になるでしょう?」
「いや、イブは数が少ないし……」
 想像の上を行く考え方に、僕は驚いて口ごもってしまった。
「現実を見てごらんよ。イブの実はすでに僕たちまでまわって来ているじゃないか。さらに、この実は驚くほど生命力が高い。雑草の繁殖レベルで増えていく可能性だってあるんだよ」
「じゃあ、研究なんてもういいですから、焼却するなりして処分して下さい。これ以上広まってそのような問題があると、日本に持ち込んだ僕の責任になります」
 この時僕は、頭の中でこの実に関係した人物のリストをはじき出していた。
「もう遅いわよ。分析の依頼をサークル経由で専門機関に出してしまったわ」
「――そっか。でも専門機関ならまだ安心かもな。とりあえず、僕は心当たりを回ってできるだけイブを回収するよ」
「急いだ方がいい。ひまわりの種ぐらいの大きさのものなら運び去ってしまう虫もいるからね。そうだ、最後に一言言わせてくれ。一番大事なのは……。君と真理子くんとの違いなんだよ。それはもしかしたら『飼育方法』にあるのかもしれない。もし君の中でその違いに結論が出ているとしたら、それを誰にも教えない事だ」
「分かりました。本当にありがとうございました」
 二人に頭を下げ、部室を出るとマサトに電話をかけてみた。しかし、マサトの携帯の電源はこの数日間そうだったように、ぷっつりと切られていた。


 浸食

「なに? 『禁断の実』が持ち込まれただと?」
「ええ。どうやらあの高槻教授の研究室で分析されるようね」
 これは新橋にある『古代ミステリー研究所』という胡散臭い名前の事務所での会話だ。この事務所の中には、ボロボロのソファーと、使いこんだデスクの他に電話が一つ置いてあるだけだった。
 女性の上司と思われる男は、隠し撮りしたと思われる写真を指でつまむと窓から差し込む日光にかざした。そして、眉根を寄せながら、もう一つの古ぼけた写真と照らし合わせる。二つの写真にはそっくりの赤い果実が写っていた。
 もじゃもじゃ頭のこの男は、黒いスーツと赤いシャツを好んで着ているようだ。探偵物語での松田優作を意識しているのか、黒い中折れ帽を部屋の中でも当然な顔をして被っている。
 彼の部下と思われる隣に立つ女性は、縁なしのメガネをかけた保健室の先生といった感じだ。鋭くつりあがった目をして胸の開いた黒いスーツを着こなしている。
「桜子くん。どうやらこれは本物みたいだな。我々にもやっとチャンスが巡ってきたぞ」
「でも、どうやって手にいれるの? 三ツ井さんのコネクションじゃ無理でしょ」
 部屋の中は、三ツ井の吸う両切りタバコの煙が充満している。今どきこんなタバコを吸う人はあまりいないだろう。彼が写真を置いた拍子に、山盛りの灰皿から灰が落ちた。
「ああ。コネがなければ、この大学に忍び込むしかないな。幸いなことに、彼らはまだ『禁断の実』がどれだけ重要な物か分かってない。死んだうちのじいさんには悪いが、俺はそれを使って大儲けしてやる」
 大物感を出そうとしているのか椅子にふんぞり返ってはいるが、その細い体格ではちょっと逆効果に見える。
「そうね。今の科学じゃ中身は解明できそうもないし。どうせやるなら早い方がいいわ」
「こっそりとひまわりの種にでもすり換えとけば、分かりゃしないよ。よし、今夜にでも決行だ」
 帽子を目深に被ると、写真を胸のポケットに突っ込んだ。
「了解。哲っちゃんにも手伝ってもらう?」
「ああ、彼が持ち込んだ情報だからな。さすが全国に実験機器を売りさばいているだけあって、情報が早い」
「幸いなことに、まだ海外には情報は漏れてないはずだわ。このチャンスを生かして一儲けしましょう」
 二人は夜が更けるのを待って、ポンコツのミニクーパーに乗り込んだ。
 そう、彼らが高槻教授の言っていた、〈禁断の実を狙う者〉であった。

 その日の深夜、高槻教授の研究室では三本の懐中電灯の光が交差していた。そこは白い壁に囲まれた近代的な実験室であったが、セキュリティという面ではまるでなっていなかった。
「おい、押すなって。俺、夜中の校舎とか怖いんだよ。つーか、おまえヤメろそういうの」
 三ツ井の持っている懐中電灯が細かく震えている。何故なら、桜子が自分の顔を下から光で照らしながら、彼の横からしつこく顔を覗き込んでいるからだ。
「ぷ。男のクセにだらしないわね。ところで哲っちゃん、場所はどのへんだった?」
 哲男は実験機器の詰まった段ボール箱を机の上からどけると、ことんと懐中電灯を置いた。坊主頭のこの男は、東京生まれだがあやしい大阪弁を使う。彼いわく「嫁が大阪人だから移ってもうたんや」……らしい。今夜はいつもの営業スーツのかわりに、青い作業着を着こんでいる。
「あかん。一昨日来た時にはここに確かにあったんや。ひょっとして隣の部屋かもしれへんな」
 隣の部屋は暗く、何か不気味な感じだ。
「ごほん。桜子くん、君の出番だ。ちょっと見て来てくれたまえ」
「三ツ井さん……実は行くの怖いんでしょ?」
 ぶつぶつ言いながらも、桜子は隣の部屋のドアを開けた。
「あったわ! 早く来てよ」
 その声に、三ツ井と哲男はおそるおそる部屋に入る。その小部屋には最新の成分分析器が置かれていた。脇にはロボットのアームにつかまれた木の実があり、それはひまわりの種に良く似ていた。
「これだ。よし、と。じゃあとっととここから脱出しよう」
 三ツ井は種をそっとアームからつまむと、まだ怖いのか一番に部屋を出ようと踵を返す。
「う、うーん」
 その声と共に、部屋の中で人の動く気配がした。三人の目線が部屋の隅の寝袋に注がれる。その芋虫みたいな物はもぞもぞ動き、ついにはむくっと起き上がった。
「うっわああああ! おい、何か動いてるぞ!」
 腰が引けた姿の三ツ井の叫びに、全員が懐中電灯の灯を一斉に消す。
「だ、誰だ! ここで何をしているんだ!」
 その声の主は高槻教授だった。今夜は泊まり込みで研究をする予定だったが、その前に少し仮眠をとっていたところであった。
「逃げろおお!」
 素早くその部屋を出ると、暗闇の中、ところどころ身体をぶつけながら彼らは走った。
 一方、教授は起き上がったはいいが、寝袋のジッパーが引っ掛かって外れないようだ。ぴょーんぴょーんと飛び跳ねながら三人を追いかける。
「待てええええ! 待たんか!」
 傍から見たらさながら喜劇だ。
 数分後、妖怪寝袋から何とか逃げおおせた三人は、車に乗り込み敷地から脱出した。後部座席の三ツ井は、先祖から伝えられていた『禁断の実』を穴が開く程に見つめている。
「ふう、とうとうやったわね。これで私たち大金持ちになれる。三ツ井さんを信じて五年。やっと報われる時が来たのねえ」