誘拐犯と結婚詐欺師の3日間
D1−A
小さい男の子を連れた女性が俺の視界の端に入ったとたん、さっきから公園をうろうろしていた女性が駆け出した。
「コウくん!」
叫んで抱き寄せる。迷子か?
「ごめん、仕事が終わらないんだ、今日も会えないよ」
電話をしながらコウ君を連れてきた女性を観察する。
3人でなにやら会話しているがここまでは聞こえない。
なにかが不自然だ。それを感じ取っているのはコウ君だけのようだ。でも俺もなんとなく感じ取った。あの人なんかおかしい。きっとコウ君もそう思ってる。だってすごい不思議そうに見上げてる。お母さんは気付かない。
「うん、週末は必ず。3日なんてあっという間だよ、楽しみは取っておかなくちゃ」
慣れたものだ。完璧なスケジューリング。君とのフィアンセごっこはあと3日。明日には君はしびれを切らしてお金をくれる。それだけのこと。
君は運命の人じゃなかったよ。
それだけのこと。
コウ君とお母さんが公園から離れていく。一度、コウ君が女性を振り返った。女性が笑って手を振る。コウ君も手を振る。コウ君は笑ってない。腑に落ちない、といった表情だ。
「それじゃ、仕事に戻るよ、うん、またね」
電話を切る。
俺わかっちゃった。だってあの人俺と同じにおいがする。
あの人絶対、犯罪者。
作品名:誘拐犯と結婚詐欺師の3日間 作家名:真朱@博士の角砂糖