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真朱@博士の角砂糖
真朱@博士の角砂糖
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誘拐犯と結婚詐欺師の3日間

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D3−A

「どうも」
横に並んだ瞬間話しかけると誘拐犯はちょっとだけ驚いた顔をした。ちょっとだけだ。
「はぁ。なにか?」
俺は誘拐犯が手を引いている少女に目をやった。別にすごく可愛いわけじゃない。子供ならなんでもいいのか。
「この子どこ連れてくの?」
「家ですけど」
ふーん。相づちを打ちながら誘拐犯を見る。可愛い。
「俺も行っていい?」
俺の突然の言葉にさすがに誘拐犯も顔をしかめた。
「は?」
「俺ね、詐欺師なの。ケッコンサギシ」
「……」
こんな自己紹介をしたのは初めてのことだった。無意識だった。
「ねぇ君名前は?教えてよ、ユーカイハンさん」
誘拐犯が身を固くしたのは一瞬のことだった。彼女はどうでもいいように自分の名前を言った。
「Sちゃんね。君は?名前なんていうの?」
「リサです!」
Sに手を引かれた少女はあいた方の手で4をつくり俺に向けた。年齢だろうか。
「リサちゃんか〜。リサちゃん、俺もSちゃんち行ってもいい?」
「いいよ!」
「やった!」
Sの顔を見る。Sはこっちを見ない。どうでもよさそうにただ歩く。
「なんで結婚詐欺なんかしてるの」
Sがなんの前触れもなく口を開いた。
「お金稼ぎに決まってるじゃん。俺こう見えてけっこうやり手よ。」
「あっそ」
リサは何の話?という風に俺らを見上げている。
「っていうのは、生活のため。ほんとは俺のために、運命の人探しやってるの。笑う?」
「別に」
「どうでもいいんだねぇ」
「運命なんてないし」
細い指で髪を耳にかけながら言うSはさっきまでよりほんのちょっと人間味があった。
「そんなことないよ、もしかしたらSちゃんが運命の人かも」
「ありえねー」
「あ、笑った!可愛い!」
冷たい視線。
「こんなのにだまされんの?世の中の女は」
そうだよ、君みたいなの以外はね。
「楽な仕事だよね」
「あんた名前は?」
名前を聞かれて嬉しくなったのは久しぶりだった。俺は自分の名前を言った。
「2人も連れ込むのは初めてだわ」
「そうなの?」
「私は同じ子供は2度と連れて来ない」
全然会話になってないんですけど。って思ったけど、「私はあんたの運命の人じゃないからね」って念を押されてるんだとすぐに分かった。
「そうだろうね」
「分かったらY君もリンゴ食べたらさっさと帰ってよね。公園までは送ったげるから」
「リンゴ?」
Sは自宅の玄関の鍵をあけながら俺を見た。すぐに顔をそらす。
「…リンゴがさぁ。好きだったんだよねぇ。」
Sの家の玄関が開く。どこにでもある普通の一人暮らしの女性の部屋だった。
「リサちゃん、こっちおいで。たま●っち見せたげる」
奥にある小さな食卓を見る。リンゴ、カメラ。それだけ。
「なにやってんのY君、はやくあがって玄関しめてよ」
「ああ、うん、ごめん」
俺は心の中でただいま、とつぶやいてみながら、部屋に踏み入れた。
リサの笑い声とSの笑顔。
ああ、そっか、こんな感じなのかな?
案外なんでもねーじゃん。
夕方までの数時間。
今日だけ。
今日だけでいい。
俺の運命の人になってよSちゃん。
ね、お願い。